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お昼のデートと急な告白④

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北瀬の持ってきてくれたケーキを丁寧にナイフで半分にし、お皿に盛り付けて紅茶を淹れた。

「このイチゴ、すごく美味しいです。クリームの甘さもちょうど良くて。」

「俺もここのショートケーキが好きです。春崎君が気に入ってくれて良かった。」

「甘いもの、好きなんですか?」

意外な言葉につい反応してしまう。

「ええ、好きです。ここのお店はwebで予約ができるので、注文の時話す必要がなくて。なので重宝しているんです。」

そう言って微笑む彼の姿を見て、何故か礼人の胸は少し痛んだ。

一対一以外で他人と話せないだなんて、どんなに苦労していることだろう。

本当に優しい人なのに、こんなにも大きなハンデを背負って。きっと北瀬のいる場所は、礼人よりももっと生きにくい。

「北瀬先輩には、恋人はいますか?」

ふと、気になって聞いてみた。礼人が苦しい時、北瀬は助けてくれると言った。それなら北瀬にも助けてくれる相手はいるのだろうかと。

間をおかず、がちゃん、とフォークとテーブルがぶつかる音がした。

北瀬の方を見ると、彼が落としたフォークには目もくれず驚いたような表情を浮かべ固まっている。

__…僕、何か変なこと言ったかな…?

自分の行動を遡ったものの、おかしなところは見つからな……くなかった。

突然“恋人はいますか?”、などと尋ねられたら普通驚く。正しくは“助けてくれる人が周りにいますか?”だ。

「あ、あの、違います!僕が先輩と付き合いたいとか言うわけじゃないっ…いえ、付き合いたいです。先輩が好きですが、そう言う意味じゃなくてっ…って、あれっ、僕何言って… 」

慌てているせいか、失言が次々と失言を生み出していく。

取り返しのつかないところまで口に出してしまってから礼人は自分の口を塞ぎ俯いた。

__どうしよう…。まず僕は男で、先輩の恋愛対象が女性だけだと仮定した場合…。

考えながら、中学生の頃に葵から聞いた話を思い出す。葵が親友に告白した時“男は対象外だ”、と言われた挙句次の日から一言も話してもらえなかったらしい。

そうなってしまえばきっと、礼人と北瀬の場合は会うこと自体がなくなるのだろう。

急に怖くなり泣きそうになった。泣いて何になるわけでもないけれど。

「…わ、わすれて…嫌いにならないでください…。」

恐る恐る顔を上げ、震える声で北瀬に縋ると、彼はまだ驚いたような表情のまま、“嫌です”、と答えた。

__…そう、だよね…。言ったこと、忘れるなんて流石にできないかあ…。

「俺も春崎君が好きです。だから忘れません。」

さらに彼は続ける。

「…えっ…?あの、でも、僕の好きは違って…。」

「もし、こういう好きなら同じです。」

ふわりとシトラスの香りが鼻を掠める。

いつの間にかすぐ近くにシトリンの瞳があった。

優しく顎に手を添えられ、上をむかされて。ゆっくりとその瞳が近づいてくる。

北瀬がもう片方の手で髪を耳にかけたのが見えた。

美しいその仕草に胸が熱く疼く。目の下の泣きぼくろもひどく色っぽい。

ぼうっと見惚れている間に、しっとりと滑らかな感触が唇に触れた。

「同じですか?」

感触が離れ、北瀬が耳元で囁く。

静かな声が妙に艶っぽくくすぐったい。

礼人は言葉を失ったままこくこくと頷いた。

__…キス、しちゃった…。
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