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2度目の泊まりと初めての会話①
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“今サークルが終わって飲み会に来たとこだけど…。また英語の課題が難しかった?”
PC室に泊まったあの日のちょうど1週間後、6限が終わった後のことである。
電話の向こうの葵の言葉に、礼人は“やってしまった”、と後悔した。
日はどんどん短くなるのだから、6限のある日は当分暗くなった後に授業が終わる。
先週のうちに“この曜日だけは一緒に帰ってほしい”、と葵に伝えればよかったのに、すっかり忘れてしまっていた。
よく抜けていると言われるが、流石にこれほどの重要事項を忘れるとは、もう少し危機感を持った方がいいのかもしれない。
だめ元で尋ねてみたが三澤にも用事があるらしく、礼人はまた先週と同じように食事を済ませ学科のPC室へ赴いた。
それにしても肌寒い日だ。PC室の端のパソコンにログインを済ませた礼人は、くしゅんと小さくくしゃみをする。
室内には相変わらず礼人以外に誰もおらず、今日出された数学系のレポート課題も先週と同じように難しい。
__…それなら、同じように先輩も来てくれたらいいのに…。
アナログ時計の秒針の音が響く室内で、ふと頭をよぎったのはあの日からどうしてか気になってたまらない彼のこと。
ぼうっと考えていると、ドアの開く音が聞こえてきた。
まさかと思ってドアの方を見れば、氷王子と呼ばれる彼が入り口に立っている。
__…すごい。本当にまた会えた…。
驚きを隠せずぽかんと口を開けた礼人の方へ、ゆっくりと彼が歩んでくる。
__…どうしよう。何か話した方がいいのかな?でも、話したら話したでまた先輩が苦しくなっちゃうかな…?
ぐるぐると考えているうちに彼は礼人の隣の席のパソコンのスイッチを入れ、それから小さく息を吸った。
シトリンの瞳が何かを迷うように揺れている。
礼人は何も言わず、ただ黙って彼の瞳を眺めて。
彼もしばらくそのままでいたが、やがて端正な唇がゆっくりと開いた。
「この前はせっかく会いに来ていただいたのにお話しすることができず、申し訳ありません。」
室内に穏やかな声が響く。
驚きのあまり室内を見回すも、礼人と先輩以外にここには誰もいない。ということは…
__…先輩が、話してくれた…?
「…あ、の、…。1年の春崎礼人です!その……えっと……。」
動揺しながらも何か返さなくてはと思い口を開いたが、咄嗟に出てきたのは自己紹介くらいで、これ以上何を言っていいのかわからなくて。
「3年の北瀬莉杜です。よろしく。」
混乱で口をぱくぱくとさせている礼人に、再び穏やかな声が囁いた。
柔らかい声音が騒がしい気持ちを落ち着かせてくれる。
礼人もよろしくお願いしますと返し、それから彼はパソコンに、礼人はレポートに向き合いながらお互いに少し話をした。
PC室に泊まったあの日のちょうど1週間後、6限が終わった後のことである。
電話の向こうの葵の言葉に、礼人は“やってしまった”、と後悔した。
日はどんどん短くなるのだから、6限のある日は当分暗くなった後に授業が終わる。
先週のうちに“この曜日だけは一緒に帰ってほしい”、と葵に伝えればよかったのに、すっかり忘れてしまっていた。
よく抜けていると言われるが、流石にこれほどの重要事項を忘れるとは、もう少し危機感を持った方がいいのかもしれない。
だめ元で尋ねてみたが三澤にも用事があるらしく、礼人はまた先週と同じように食事を済ませ学科のPC室へ赴いた。
それにしても肌寒い日だ。PC室の端のパソコンにログインを済ませた礼人は、くしゅんと小さくくしゃみをする。
室内には相変わらず礼人以外に誰もおらず、今日出された数学系のレポート課題も先週と同じように難しい。
__…それなら、同じように先輩も来てくれたらいいのに…。
アナログ時計の秒針の音が響く室内で、ふと頭をよぎったのはあの日からどうしてか気になってたまらない彼のこと。
ぼうっと考えていると、ドアの開く音が聞こえてきた。
まさかと思ってドアの方を見れば、氷王子と呼ばれる彼が入り口に立っている。
__…すごい。本当にまた会えた…。
驚きを隠せずぽかんと口を開けた礼人の方へ、ゆっくりと彼が歩んでくる。
__…どうしよう。何か話した方がいいのかな?でも、話したら話したでまた先輩が苦しくなっちゃうかな…?
ぐるぐると考えているうちに彼は礼人の隣の席のパソコンのスイッチを入れ、それから小さく息を吸った。
シトリンの瞳が何かを迷うように揺れている。
礼人は何も言わず、ただ黙って彼の瞳を眺めて。
彼もしばらくそのままでいたが、やがて端正な唇がゆっくりと開いた。
「この前はせっかく会いに来ていただいたのにお話しすることができず、申し訳ありません。」
室内に穏やかな声が響く。
驚きのあまり室内を見回すも、礼人と先輩以外にここには誰もいない。ということは…
__…先輩が、話してくれた…?
「…あ、の、…。1年の春崎礼人です!その……えっと……。」
動揺しながらも何か返さなくてはと思い口を開いたが、咄嗟に出てきたのは自己紹介くらいで、これ以上何を言っていいのかわからなくて。
「3年の北瀬莉杜です。よろしく。」
混乱で口をぱくぱくとさせている礼人に、再び穏やかな声が囁いた。
柔らかい声音が騒がしい気持ちを落ち着かせてくれる。
礼人もよろしくお願いしますと返し、それから彼はパソコンに、礼人はレポートに向き合いながらお互いに少し話をした。
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