上 下
85 / 92
第二部

※誕生日の日に④※(静留side)

しおりを挟む

楔を中から抜いた後、唐突に東弥が抱きしめる腕を解き、“風邪ひいちゃうから”、と言いながら先程脱いだカーディガンを静留に雑に着せた。

どうして離れてしまうのだろう。静留が何か東弥の気に入らないことをしてしまったのだろうか。

大きな不安に包まれながら彼を見つめたが、彼はこちらを振り返らずにヘッドボードに手を伸ばしている。

何かを探しているみたいだ。

先ほどまであんなにもぴったりと東弥の肌と重ねられていた肌は、まだその名残で熱を帯びており、そのせいで余計に空気の冷たさを感じてしまう。

柔らかな布と肌がこすれる感覚もまた悲しい。

寂しさに耐えきれず静留は目を固く閉じたが、そうしてからすぐベッドと静留の背中の間に大好きな彼の手が入れられた。

そのまま抱きしめるようにして起こされ、東弥の膝に乗せられる。

「静留。」

大好きな低い声が、優しく静留の名前を呼んだ。

顔を上げて目に入ったダークブラウンの瞳は柔らかに細められており、口では何も言わずとも、その瞳が静留に愛おしいと伝えてくれる。

だから静留は黙って彼の言葉を待った。

骨張った大きな手が静留の手を優しく掬う。

「静留、愛してる。」

「えっ…?」

続いた言葉と考えていた言葉との差異が大きすぎて静留は変な声を上げてしまった。

そのことについて彼が何かを気にする気配はなく、再び端正な唇が開かれる。

「この、誰よりも美しい音を奏でる手が好きだよ。」

言いながら、手の甲にそっと口付けられた。

突然の告白に再び心臓がうるさく鳴り始め、静留は口をぎゅっと結んだまま何もいえずに固まってしまう。

そんな静留の、今度は髪の毛を東弥は掬い、その場所にも優しく唇を落とした。

「さらさらの黒い髪も好きだよ。いつまでも触っていたくなる。

それから、淡い唇も、囀るような綺麗な声も、宝石のような瞳も、透き通るような白い肌も、全部好きだ。だから…。」

たくさんの場所に、数えきれないほどのキスを落とされる。

その言葉の、口づけの、一つ一つに甘く溶かされ、静留はとても幸せで、けれどあまりにも幸せだったからこの先に何かとてもよくないことが起きるのではないかと考えてしまった。

だから、の後の言葉が怖い。

東弥が緊張した面持ちで言葉を切ったのを、どうしてなのかと不安に思う。

彼の唇が動くのをやけにゆっくりに感じて、静留はごくりと唾を飲み込んだ。

「…だから、俺のパートナーになってください。」

そう言って何かを手に握らされ、その正体に気づいた静留は驚いて大きく目を見開く。

ぶわっ、と目元から涙が溢れ出した。

そして今更のように東弥と初めて繋がることはこれを渡すための儀式でもあったことを思い出す。

__これで、ほんとうに、東弥さんのパートナーになれる…。

手に握らされたのは、三日月のチャームがついた黒いcollarだった。

嬉しくてなかなか泣き止むことができない静留の身体を東弥は優しく抱きしめ、とんとんと赤子をあやすように背中を叩いてくれた。

「おねがいっ、…しますっ…。」

震える声で紡ぎながら受け取ったcollarを彼に差し出せば、うなじに静留の大好きな指が柔らかに触れる。

「誕生日おめでとう。この世界に生まれてきてくれてありがとう、静留。」

collarをつけながら紡がれた言葉に、また静留は大粒の涙をこぼした。

お願いだから、もうこれ以上優しくしないで欲しい。

涙が溢れて止まらなくて、ありがとうを言うことができないから。

「そんなに泣いたら目が溶けちゃうよ。」

結局、東弥の舌に涙を掬われてびっくりして固まるまで、静留が泣き止むことはなかった。

そして泣き止んだ静留には、ありがとう以外にもう一つ、伝えたい言葉ができていて。

「東弥さん、ありがとう。あの、ね、…僕も、…愛してる。」

今度は東弥が驚いたような表情を浮かべ瞳を潤ませる。

“好き”、はわかっていたが、“愛してる”、の意味をわかっているかというと、今まで答えはNoだった。

しかし行為中になぜか静留が覚えた切なさや、彼が幸せだと言った瞬間に静留が感じた大きな幸せを思ったとき、どうしてかその言葉がぴったりと当てはまるような気がして。

「ありがとう、静留。」

東弥の顔面に陽だまりのように優しく幸せな笑みが咲く。

なんて素敵な日だろうと思ったら、また静留も幸せな涙をこぼしてしまった。

ふと窓の外に目を向ければ、綺麗な満月が浮かんでいる。

その満月に静留は、心の中で願った。

__これからもずっと、こんなしあわせがつづきますように。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

腐男子ですが、お気に入りのBL小説に転移してしまいました

くるむ
BL
芹沢真紀(せりざわまさき)は、大の読書好き(ただし読むのはBLのみ)。 特にお気に入りなのは、『男なのに彼氏が出来ました』だ。 毎日毎日それを舐めるように読み、そして必ず寝る前には自分もその小説の中に入り込み妄想を繰り広げるのが日課だった。 そんなある日、朝目覚めたら世界は一変していて……。 無自覚な腐男子が、小説内一番のイケてる男子に溺愛されるお話し♡

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

くまさんのマッサージ♡

はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。 2024.03.06 閲覧、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。 2024.03.10 完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m 今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。 2024.03.19 https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy イベントページになります。 25日0時より開始です! ※補足 サークルスペースが確定いたしました。 一次創作2: え5 にて出展させていただいてます! 2024.10.28 11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。 2024.11.01 https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2 本日22時より、イベントが開催されます。 よろしければ遊びに来てください。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

壊れた番の直し方

おはぎのあんこ
BL
Ωである栗栖灯(くりす あかり)は訳もわからず、山の中の邸宅の檻に入れられ、複数のαと性行為をする。 顔に火傷をしたΩの男の指示のままに…… やがて、灯は真実を知る。 火傷のΩの男の正体は、2年前に死んだはずの元番だったのだ。 番が解消されたのは響一郎が死んだからではなく、Ωの体に変わっていたからだった。 ある理由でαからΩになった元番の男、上天神響一郎(かみてんじん きょういちろう)と灯は暮らし始める。 しかし、2年前とは色々なことが違っている。 そのため、灯と険悪な雰囲気になることも… それでも、2人はαとΩとは違う、2人の関係を深めていく。 発情期のときには、お互いに慰め合う。 灯は響一郎を抱くことで、見たことのない一面を知る。 日本にいれば、2人は敵対者に追われる運命… 2人は安住の地を探す。 ☆前半はホラー風味、中盤〜後半は壊れた番である2人の関係修復メインの地味な話になります。 注意点 ①序盤、主人公が元番ではないαたちとセックスします。元番の男も、別の女とセックスします ②レイプ、近親相姦の描写があります ③リバ描写があります ④独自解釈ありのオメガバースです。薬でα→Ωの性転換ができる世界観です。 表紙のイラストは、なと様(@tatatatawawawaw)に描いていただきました。

【完結】人形と皇子

かずえ
BL
ずっと戦争状態にあった帝国と皇国の最後の戦いの日、帝国の戦闘人形が一体、重症を負って皇国の皇子に拾われた。 戦うことしか教えられていなかった戦闘人形が、人としての名前を貰い、人として扱われて、皇子と幸せに暮らすお話。   性表現がある話には * マークを付けています。苦手な方は飛ばしてください。 第11回BL小説大賞で奨励賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。

処理中です...