52 / 92
第二部
突然の別れ⑤(東弥side)
しおりを挟む
__あれ、俺…。
身体が酷く重たい気がする。
自分が今どんな状態か分からなくて、東弥は戸惑いながらもゆっくりまぶたを開いた。
静留はもう起きているだろうか。
「…あっ、東弥、やっと起きた!もう!こんなに寝て!!心配したんだからー。」
目を開いた先、海外にいるはずの母が映って東弥は口をぽかんと開ける。
しかし消毒薬の匂いと今いる部屋を見てなにがあったのかを思い出し、慌てて身体をおこした。
「母さん!静留は!?」
この場にいないのは、ただ単に少し離れているだけなのか、それとも家に帰ってしまったのか。
家に帰ったなら一人で彼が生活していけるわけがないし、そもそも帰れたのかも怪しい。
例えばお手洗いに行っているとして、変な男に絡まれたりしていたら…。
「…しずる?なによ。とりあえずまだ横になってなさい。」
彼のことを知らないような母の口ぶりに、さらに焦る。
「長い黒髪で、すごく綺麗な男の子!いたでしょう!?」
「…ああ、あの子。とりあえず追い出しておいたわよ。」
__追い出した?静留を?
「なんで!!俺の恋人なのに!!」
思わず声を荒げてしまった。
親に対してこんなにも大きな声で反発したのは、人生で初めてかもしれない。
母が唇を尖らせて眉間にシワを寄せる。
「だってあの子Subでしょう?collarもしてないし。大切な相手ならcollarくらい渡すものでしょう?男だし、子供ができてるわけでもあるまいし。」
母に痛いところを突かれて言葉に詰まった。
付き合って半年。まだcollarを渡してないなんておかしい。
それは確かにそうだ。
でも東弥だって静留に自分のパートナーの証であるcollarをつけたいと考えている。
しかしそれには一つ壁があって、結果東弥はまだ静留にcollarを渡すことができていないのだ。
「…collarはいずれ渡すよ。でもともかく俺には静留以外いないんだ。静留が今どこにいるか教えて。」
「知るわけないじゃない。大体あの日ここから出して以来ここには来てないわよ。」
__そんな…。
では今静留はどこにいるのだろうか。
枕元に置いてあったスマートフォンの電源ボタンを押すと、光がついた。
誰が繋いでくれたのかはわからないが、ありがたいことに充電器に繋がれている。
通知を見ると幹斗と谷津から大量のメッセージが入っていた。
ひとまずそれを見て安心した。静留は幹斗の家にいるらしい。
「友達の家にいるみたい。今から行ってくる。」
腕に繋がれている点滴が邪魔で抜こうとすると、母に強く押さえつけられ止められた。
いつものノリでそのまま怒鳴られると思ったが、なぜか突然笑い声が聞こえてきて、東弥は戸惑う。
「なにもおかしくないし、静留に会いに行きたいんだけど。」
「ごめんっ…、なんか嬉しくて。貴方がそんな向こう見ずな行動をするなんて、その子のこと、本当に大切なのね。追い返してごめんなさい。
でもcollarは渡してあげなきゃダメよ。そんなに大切な相手なら尚更、相手に対して不誠実だわ。
あと、無理したらかえって退院までの期間が延びるんだから、ここを抜け出したりしないこと。
あー、とりあえず安心したし先生呼んだら私ホテルに戻るわ。お正月はその子も連れてかえってきなさい。じゃあね。」
母はそのまま軽やかな足取りで東弥に手を振ると、ドアの方へ歩いていった。
「あのっ。」
思わず呼び止めると、彼女が振り向く。
「?」
「…その、…ありがとう。」
「はーい。じゃあね。」
なんとも軽い返事をして、今度こそ出て行ってしまった。
相変わらず嵐のような人だなと思う。
__とりあえず母さんとのことは後で考えるとして…。
母が部屋から出てすぐに、幹斗に連絡を入れた。おそらく昼休みだが大学にいるはずなのでLINEに留めておく。
“すぐに静留君と会いに行く。”
10秒もたたないうちに既読がつき、簡潔なメッセージが返ってきた。
“真鍋さん、入りますよ。”
ノックの音とともに医師が入ってくる。
静留のことを心配しながらも、東弥はスマホを棚の上に置いた。
身体が酷く重たい気がする。
自分が今どんな状態か分からなくて、東弥は戸惑いながらもゆっくりまぶたを開いた。
静留はもう起きているだろうか。
「…あっ、東弥、やっと起きた!もう!こんなに寝て!!心配したんだからー。」
目を開いた先、海外にいるはずの母が映って東弥は口をぽかんと開ける。
しかし消毒薬の匂いと今いる部屋を見てなにがあったのかを思い出し、慌てて身体をおこした。
「母さん!静留は!?」
この場にいないのは、ただ単に少し離れているだけなのか、それとも家に帰ってしまったのか。
家に帰ったなら一人で彼が生活していけるわけがないし、そもそも帰れたのかも怪しい。
例えばお手洗いに行っているとして、変な男に絡まれたりしていたら…。
「…しずる?なによ。とりあえずまだ横になってなさい。」
彼のことを知らないような母の口ぶりに、さらに焦る。
「長い黒髪で、すごく綺麗な男の子!いたでしょう!?」
「…ああ、あの子。とりあえず追い出しておいたわよ。」
__追い出した?静留を?
「なんで!!俺の恋人なのに!!」
思わず声を荒げてしまった。
親に対してこんなにも大きな声で反発したのは、人生で初めてかもしれない。
母が唇を尖らせて眉間にシワを寄せる。
「だってあの子Subでしょう?collarもしてないし。大切な相手ならcollarくらい渡すものでしょう?男だし、子供ができてるわけでもあるまいし。」
母に痛いところを突かれて言葉に詰まった。
付き合って半年。まだcollarを渡してないなんておかしい。
それは確かにそうだ。
でも東弥だって静留に自分のパートナーの証であるcollarをつけたいと考えている。
しかしそれには一つ壁があって、結果東弥はまだ静留にcollarを渡すことができていないのだ。
「…collarはいずれ渡すよ。でもともかく俺には静留以外いないんだ。静留が今どこにいるか教えて。」
「知るわけないじゃない。大体あの日ここから出して以来ここには来てないわよ。」
__そんな…。
では今静留はどこにいるのだろうか。
枕元に置いてあったスマートフォンの電源ボタンを押すと、光がついた。
誰が繋いでくれたのかはわからないが、ありがたいことに充電器に繋がれている。
通知を見ると幹斗と谷津から大量のメッセージが入っていた。
ひとまずそれを見て安心した。静留は幹斗の家にいるらしい。
「友達の家にいるみたい。今から行ってくる。」
腕に繋がれている点滴が邪魔で抜こうとすると、母に強く押さえつけられ止められた。
いつものノリでそのまま怒鳴られると思ったが、なぜか突然笑い声が聞こえてきて、東弥は戸惑う。
「なにもおかしくないし、静留に会いに行きたいんだけど。」
「ごめんっ…、なんか嬉しくて。貴方がそんな向こう見ずな行動をするなんて、その子のこと、本当に大切なのね。追い返してごめんなさい。
でもcollarは渡してあげなきゃダメよ。そんなに大切な相手なら尚更、相手に対して不誠実だわ。
あと、無理したらかえって退院までの期間が延びるんだから、ここを抜け出したりしないこと。
あー、とりあえず安心したし先生呼んだら私ホテルに戻るわ。お正月はその子も連れてかえってきなさい。じゃあね。」
母はそのまま軽やかな足取りで東弥に手を振ると、ドアの方へ歩いていった。
「あのっ。」
思わず呼び止めると、彼女が振り向く。
「?」
「…その、…ありがとう。」
「はーい。じゃあね。」
なんとも軽い返事をして、今度こそ出て行ってしまった。
相変わらず嵐のような人だなと思う。
__とりあえず母さんとのことは後で考えるとして…。
母が部屋から出てすぐに、幹斗に連絡を入れた。おそらく昼休みだが大学にいるはずなのでLINEに留めておく。
“すぐに静留君と会いに行く。”
10秒もたたないうちに既読がつき、簡潔なメッセージが返ってきた。
“真鍋さん、入りますよ。”
ノックの音とともに医師が入ってくる。
静留のことを心配しながらも、東弥はスマホを棚の上に置いた。
0
お気に入りに追加
264
あなたにおすすめの小説
強く握って、離さないで 〜この愛はいけないと分かっていても、俺はあなたに出会えてよかった〜
沈丁花
BL
____それでも俺は、あなたに出会えてよかった____
Subでありながらglareが効かず、思い悩みながらも行きずりの相手と望まないプレイを繰り返していた。
痛めつけられ、プレイ相手からは罵られ、身体的にも精神的にも追い詰められていて。
そんな日々の中、ある日自分を助けてくれた男性に、目があった瞬間忠誠を誓いたいと感じた。
互いに溺れるように惹かれていった。
こんな日々がずっと続けばいいと思っていた。
けれど現実は残酷で。
…ねえ由良さん、それでも俺は、貴方に出会えて良かった。
出会わなければ良かっただなんて、思わない。
だから、お願い。
俺の手を、
…握ったその手を離さないで。
※Dom/Subユニバースの設定をお借りしていますが、特に前知識なしでも読めるようになっております。未読の方も是非!
※近親相姦表現あり。また、道中シリアスですので、苦手な方はお戻りください(>人<;)
表紙イラスト、挿絵は園瀬もち様(Twitter→@0moti_moti0)に依頼させていただきました。
※エブからの転載になります
ロマンチック・トラップ
るっぴ
BL
※オリジナル設定あります。
執着系Dom×トラウマ持ちSub
【あらすじ】高校生のころから付き合っていた白石 達也(Dom)と望月 蓮都(Sub)。ところがある日、蓮都は達也が浮気をしていたことに気づきどんどん暴力的になっていく達也に別れを切り出す。パートナーがいなくなった蓮都は仕方なくSub専用のプレイバーに通っていたが甘やかしてほしい欲を持つ蓮都には合わないDomが多く、体調が限界に達し、寒い雪の日に路地裏で倒れこんでしまった。そんな蓮都を救ったのはハイランクのDom、和倉 柊で、、―――。
トラウマを多く持つ蓮都が幸せになるまでのお話。
※最初はシリアス展開ですが最終的にはハピエンになるのでご安心を。
【完結】いつか幸せになれたら
いちみやりょう
BL
父からも兄からも愛されないオメガのカミーユが魔王の妻になり幸せになる話。
夜になるとたまに悲しくて、辛くて、寂しくて、どうしようもなくなる時がある。
そんな日の夜はいつも、ずっと小さい頃から1冊だけ持っている絵本を読んで夜を明かす。
辛い思いをしている女の子のところに、王子様が現れて王子様の国に連れて行ってくれて、今まであった辛いこと、全部忘れて過ごせるくらい幸せになる女の子の話。
僕には王子様は現れたりはしないだろうけど、でも、いつか、僕の中に流れてる罪で汚れた汚い血が全部流れたら、僕はこの国を出て幸せに暮らすんだ。
感想コメントやエール本当にありがとうございます🙇
声を失ったSubはDomの名を呼びたい
白井由貴
BL
高校一年生でダイナミクスが発現した弓月。
Sub──それもSランクだとわかり、家を離れる決意をする。しかしその前にSubであることをDomである兄に知られてしまい、抵抗虚しく監禁されてしまった。両親からはいないものとして扱われ、実兄からは手酷くされ、聞きたくもない命令に従わなければならない毎日。
そんなある日、身も心も弱りきっていた弓月に救いの手が差し伸べられる。しかしその時にはすでに声が出なくなっていて───?
これは声を失ったSubが幸せになるためのお話。
【Dom/Subユニバース(※独自解釈あり)】
※性的描写を含む話には「*」がついています。
※ムーンライトノベルズ様でも掲載しています。
※R18は中盤以降からの予定です。
※進行はかなりゆっくりです。
※PTSDや精神支配などを連想させるような表現や描写があります。苦手な方はご注意ください。
※いじめや虐待などの暴力表現があります。苦手な方はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる