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第二部

※温泉旅行※①(東弥side)

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玄関先で静留の鼻歌が聞こえてくる。

彼は玄関の段差に座って足をパタパタと楽しそうに揺らしていた。

澄んだ声で奏でられるメロディーは弾むようで、彼が今からの外出を本当に楽しみにしているのだと教えてくれる。

きっかけは東弥がニュースを見ようとしたときにたまたま流れていた温泉番組。それを見て珍しく静留がここに行きたいと言い出し、そういえばまだデートらしいデートをしたことがなかったとも思い、一泊二日でそのホテルの露天風呂付きの部屋を予約したのだった。

しかし一つだけ懸念がある。

ホテルまでは東弥の運転で行くのだが、途中でかなりの山道を通るのだ。

酔い止めを飲ませたいが、彼は過去に錠剤を噛んでひどく苦かった経験があるらしく、普通には錠剤を飲んでくれない。

しばらく考えて、錠剤とペットボトルを見えない位置に隠してから東弥は静留の隣に行った。

「静留。」

「?」

静留が振り返り、大きな黒い瞳が不思議そうにゆっくりと瞬く。

「口開けて。あーんって。」

「あーん…?」

glareを放ちながら言うと、彼は首を傾げながら小さな口を目一杯開いた。

その小さな口の中に錠剤を入れ、今度は自らの口にペットボトルの水を含むと、そのまま静留の唇に自分のそれを重ねる。

そのまま静留の口に水を流し込むと、こくりと喉が鳴って。

「ちょっと見せてね。…うん、ちゃんと飲めてる。えらい。」

念のため彼の口の中を確認すると、もう錠剤は残っていなかった。

もう一度甘いglareを注いで、たくさん頭を撫でてやる。

「あれ、静留大丈夫?顔赤いよ?」

静留の頬が真っ赤に染まっていて、東弥はそれを疑問に思う。

ただの酔い止めにそんな副作用はあっただろうか。

「…東弥さんのお口のお水、僕の口の中に… 」

__…確かに。

潤んだ瞳で見つめながら途切れ途切れに紡がれ、やってしまったと反省する。

「嫌だったね、ごめんね。」

「ちがう…きもちかったけど…、お顔熱いの、僕だけ…?」

「えっ… 」

__あれ、そういえば口移しって…。

静留の反応を聞いてからもう一度考え直すと、確かにかなりすごいことをしてしまった気がする。

自分の口に含んだものが静留の身体の中に入っているだなんて…。

急に身体が熱くなって、思わず口を押さえた。

「…ごめん、俺も熱くなった…。」

「じゃあ、…おそろい…?」

「うん。」

「それならうれしい。」

猫のような瞳を柔らかに細め、静留がくすぐったそうに笑う。

__…かわいすぎて本当に困るな…。

こんなに可愛らしい存在は静留以外に一度だって見たことがない。

「じゃあ、行こうか。」

心臓が煩くて声が震えてしまいそうなのを、静留に気付かれてしまわないだろうか。

そんな意味不明な懸念事項を思いながら東弥は靴を履き静留に手を伸ばした。

「うん!」

ぱっとひまわりのような笑みを浮かべ、静留が東弥の手を取る。

ドアを開ければ、静留の長い黒髪が、秋風に靡いてさらりと揺れた。
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