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第二部

夏休みのある一日②(東弥side)

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東弥たちの暮らす家に着いた後、日が暮れるまではまだ少しあったのでみんなで静留の演奏を聴いて。

全員聞き入っていたが、中でも由良はピアニストとしての静留のことを知っていたようで、“すごい偶然だ”、と驚いていた。

「バケツあるー?水張って持ってきてー!明楽は蝋燭つけてねー。」

「はーい!」

日が暮れて、真希と谷津を主導に準備を始めた。なぜか一番真希がはしゃいでいるところが面白い。

話し合いの結果、はじめに打ち上げ花火をやることにした。

「みんな離れて。」

由良の指示でみんなが距離を置くと、彼も手早く火をつけて離れる。

その手慣れた様子に横で幹斗がうっとりと見入っていた。

__…認めたくないけど、やっぱり無駄に格好いいんだよな、あの人…。


ぱん、と空に光が弾ける。

静留はその音に一度ぴくりと肩を震わせたが、次の瞬間オニキスのような瞳が大きく開いて空の光でキラキラと輝いた。

「きれい…。」

由良が火をつけた花が空で弾けるたび、静留はこれでもかと言うくらいに大きく目を見開く。

そして買ってきた5本の打ち上げ花火はすぐに終わったから、“みじかいね”、とどこか遠くを仰ぎながら寂しげに呟いた。

「来年もしようね。」

東弥がそういうと、

「うん。」

と向日葵のように静留は笑う。

「あっつ!!ちょ、わわっ!!」

「ちょっと明楽点けすぎ!!ほら一本貸して。…って、こらっ!もう点けないの!!その3本が終わってからにしなさい!!」

谷津と真希は両手を使って勢いのある花火を次々と点けていく。

「幹斗君、それは?」

「色が変わる花火みたいです。オレンジはCa、青はCuなのかな?高校でやった炎色反応を思い出しますね。」

「そういえば昔やった気がするよ。じゃあ次はこれにしようかな。においがするんだって。幹斗君、火、もらっていい?」

「えっと、…よかった、点いた。」

対して幹斗と由良は一本ずつ着実に、けれどまるで大切な何かを繋いでいくようにして移し火をし合っていた。

それぞれがそれぞれの時間を過ごしている。

そして東弥と静留もまた、2人の時間を過ごしていて。

でも2人きりじゃない。こうして少しずつ由良と幹斗、谷津と真希との時間や空間が交わっていくのを、どうしてかひどく心地よく感じた。

「あっ、おちちゃった…。東弥さんのは長くひかるのに、なんでだろう…。」

「たまたまだよ。それに落ちたらまたつければいい。」

しゅんとする静留に、東弥は花火を持っていない方の手で最後の一本を渡し、ライターで火をつけてやる。

手元の線香花火は柳。もうすぐきっと散り菊になる。

“どっちが早いか競争しようか。”
“兄さん強いから嫌ー。”
“まあまあそう言わずに。”

そういえばいつの日か西弥ともしたなと、ふと思い出した。

幼い日の記憶。

東弥はそれに感慨深く思いを馳せる。

「東弥さん、見て見て。」

無邪気な声に呼び戻され、見ると静留の手元の線香花火が散り際まで来ていた。

「すごい。よく続いたね。」

「うん。…あっ…。」

東弥の持っていた花火が散り、そしてすぐに静留の方も終わりを見せた。

「おわっちゃった…。」

寂しそうに目を伏せる静留の頭を東弥は優しく撫でてやる。

静留は気持ち良さそうに目を瞑り、東弥に静かに身を委ねた。

「楽しかった?」

「うん。」

「おっ、そっちも終わり?こっちも全部終わったよー!!」

明るい谷津の声。

「あっ、じゃあ俺スイカ切ってくるよ。キッチン借りていい?」

「うん。幹斗よろしくね。」

真希が言い出したので食べたくなって、結局スーパーでスイカを買ってきたのだ。

幹斗と由良を除いた4人で後片付けをした後は、ウッドデッキに腰掛ける。

みんなで食べたらきっと美味しい。


「お待たせ。」

「わっ、美味しそー!やっぱり雰囲気出るね♪」

幹斗と由良がスイカを運んできたのを真希がはしゃいで受け取る。

幹斗は一応スプーンをつけてくれたが、真希以外は使っていない。

「うっまー!スイカ久しぶりに食べたわー!!」

豪快にがぶりつく谷津を真似ようとした静留を止め、東弥は種のないところを匙ですくい、静留の口へともっていく。

「静留、あーん。」

開いた薄い唇に水々しい果実を入れてやると、その顔は次第に綻んで。

「あまい…。」

静留は頬に手を当てあどけなく笑んだ。

「かわいい!天使!!持ち帰る!!」

静留の隣にいた真希が突然声を上げる。

「えっ、なに俺のこと?」

「…明楽にはこれあげる。」

「やった!ブラックコーヒー!!いつの間に買ってきたの??」

様子を伺っていた幹斗と由良がくすりと笑い合う。

「賑やかですね、由良さん。」

「うん。楽しいね。」

そしてそれぞれの反応を呼び起こした張本人である静留は、スイカが気に入ったのか淡く口を開き、東弥に次をねだるのだった。
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