一番近くに。

沈丁花

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ss2「サンタさんの正体は」

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淡い光に包まれた広いホールには、1000を超える人が集まっている。男性は自社のスーツ、女性は華やかなパーティードレスを身に纏い、会場全体がキラキラとした雰囲気に包まれていた。

普段全く関わりのない部署の人とでも接し合えるよう、テーブルの割り振りは乱雑。未婚の女性は主に地位を、男性は主に美を求め目を光らせている(らしいとロナルドから聞いた)。

帰りたい、と強く思う。初見の人と接するのが得意ではないテオにとって、この状況は随分と過酷だ。

「ねえ、今夜一緒にどう?」

「先約があるので、申し訳ありません。」

「社長に一際目を置かれているデザイナー」という地位は、パッとしないテオにも魅力を与えるらしく、先程から女性からの誘いがちらほらとある。

女性への恐怖心はまだ完全には克服できておらず、息が苦しい。かといっていきなり立ち去るわけにも、無理に跳ね除けるわけにも行かない。

これに耐えればあとは楽しいことしかないからと、どんどん硬くなる自分の表情を精一杯柔らかくするように努めた。大丈夫、きっとこの中に怖い人はいないから。

今日は会社も午前中で解散だ。クリスマスにかけて繁忙期が続いたから、午前中もお疲れ様会、と言った感じ。普段会社の食事会などは出ないテオも、流石に年で一番大きなイベントだからと強制参加させられた。


今日はクリスマスイブ。テオには今夜とある計画がある。夜、アシュリーが眠った後にサンタさんというものをしてみたいのだ。

というのも、街を歩いているとき何度か、サンタさ
んの正体が家族だという話が聞こえてきたからだ。

子どものために今年は何を買おうか、と相談している夫婦の姿はとても幸せそうに見えた。大切な人に感謝をを込めて届けることは、きっと幸せに違いない。

アシュリーはいつも通り今夜から明日にかけて二日間休みを取ってくれた。病院は、毎年ロイさんとルバートさんが留守を引き受けてくれている。

だからおととい、アシュリーが喜んでくれそうなものを必死で探した。彼の目と同じ色の、ガラス細工のオルゴール。見つからないように今日もカバンに入れてある。壊れないように、大切に。

「あの、すみません。」

少し疲れてきてホールの奥で休んでいると、不意に会場内でひときわ輝いている、真っ赤なドレスの女性に声をかけられた。

「…はい。」

きつい香水の匂いと、濃い化粧。その人は何も悪くないのに、めまいがしそうになる。

「倉庫で社長がお呼びですよ。なんでも、急用だそうで。今日はみなさんこちらにいるでしょう?だから、人目のないところで話があるんですって。」

…ロナルドが?彼と何か話す内容などあっただろうか。しかも、この時期に。

ちゃんとアシュリーにも会わせたから、クリスマスの予定がどうこう言ってくることもないだろう。

「わかりました。行ってみます。」

ただ、これ以上近くにいたら吐いてしまいそうで、一刻も早く離れたくて倉庫の方に向かう。

「急いでくださいね!」

彼女の声はそこまで慌てている様子には聞こえない。少しわざとらしく、妙な寒気を覚える。

いや違う、僕が人間不信すぎるんだ…

人を信じることをアシュリーが教えてくれたのに、どうして未だに人を疑ってしまうのかと、自分に嫌気がさした。

そう、彼に出会ってから、テオの見てきた世界はいつも幸せと愛情に溢れていた。
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