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20. 解読

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 巻物のようにして握っていた紙にはそう書かれていた。
「雨の守護者、或いは我が罪状を謳う声」
 縦書きで、筆ペンでも使ったのかえらく達筆で、それでいて紙の端の方に書き損じがあったり、ボールペンで小さな英単語がいくつか書いた形跡があって、また基本的に一枚に二行程度なので、しかも筆圧の落差も異常で、また字体も不安定だった。

 単純に読めば、「雨雲」、「黒雲」は高確率で詩雨のことだと思われる。となると「過去、傷」云々はおそらく中学校時代のいじめか。そして「太陽」、「日光」は詩日さん本人で、「雨の守護者」は……俺だ。

 二つ目のパラグラフは俺と出会う前の詩雨、ひとりで目立たないように「沈黙」していたわけだ。
 となると次の段落は、俺へのお礼のように見える。”Gratitude”は感謝の念を表す単語だし。だけど、『嗚呼、有り難し』というお礼を言えないのが詩日さんであり、「業火の円盤」はアレか、お好み焼きを作っていたホットプレートだ。 
 そこからはあのバスルームの一件の話だ。こちらもやはり、詩日さんは俺に謝罪できない、と書かれている。
 最後は、要するに『これからも詩雨をよろしく』といった意味合いになるだろう。

 何だか不思議な笑みがこぼれた。
 詩雨のことを詩日さんは本当に大事に思っているのが伝わってくるし、俺なんかに感謝や今後のことまで書かれていて、何だか微笑ましくて、俺は笑ったのだ。
 
 俺のような人間としては、この紙に書かれていることなら、
「弟と仲良くしてくれてありがとう。お風呂のこと、ごめんね。これからも弟をよろしく」
 のひとことで相手に言えてしまう。
 しかしどうやら詩日さんは違うようだ。
『口頭で言えないから書いて渡す』というのは極普通の発想だが、この文体とこの達筆、紙の使い方やレイアウトのユニークさを加味すると、詩日さんは確かに変わった人だ。良い意味で。

「あ」

 目の前のドアが閉まり、電車が出発した。

……降り損ねた。

 でもそれもどうでもよくなるような気分だった。
 日光と雨雲は、今後俺の中ででかい存在になるかもしれない。何となくそう思った。 

 そしてそれは、俺の予想とは違う形で現実となる。
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