48 / 52
Karte11:誰かを助ける為に
第49話 突然の来局者①
しおりを挟む
アリサさんが噂の薬局まで足を運んでくれたのは翌日の昼前。エドはバートさんのところへポーションを届けに行っているから店には私だけ。店番をしながら二人の帰りを待つ私は窓の外を見つめます。
「アリサさん、大丈夫だよね」
途中で盗賊に襲われたりしてないよね。向こうの薬師に正体がバレれて捕まってたりしないよね。
推理小説の一片のようなことを想像してしまう私は気分を変えようと大きく息を吸う。大丈夫。アリサさんはウチに来る前は旅をしていたんだ。エドに守って貰うばかりの私なんかより心得はあるはず。
「それより、いまはこっちを優先しないとね」
水を張った鍋に大きめの煮出し袋を入れ、薬草からエキスを抽出して作るのは麻酔薬。ある意味タイミングが悪いと言えるけど、ハンスさんから注文が入ったので仕方ありません。
(――時間は掛かるけどこっちの方が良いんだよね)
鍋を火にかけグツグツと煮出す方法がエキス剤の調薬法としては主流だし、私も急ぐときは煮出して作るけど時間を掛け、ゆっくりと水出しする方が良いと教えてくれたのは師匠。時間が掛かっても質の良い薬を作るのが薬師の仕事。その教えを守って作る麻酔薬にはもちろん弱毒化した“アヤカシキャロット”も入っています。
「正しく使えば薬になるのに、なんか悲しいよね」
私たちが作る薬は誰かを助ける為にある。けれども使い方を誤れば身を滅ぼしてしまう。だから調薬が許されているのは薬師だけなのだと。私はこの言葉を事あるごとに師匠から聞かされ育ちました。その教えを胸に薬師になった私はどんな理由があろうと人を不幸にする薬は作れません。作っちゃいけないんです。
(ほとんどの薬師は私と同じ気持ちなんだよね)
薬師の知識を悪用しようなんて愚か者はほとんどいません。それでも中には道を外れてしまう薬師が現れ、その大半が生活苦から裏取引を始めてしまうそうです。それに生活苦と言う意味では私も大差ありません。エドたちには内緒だけど、どちらかと言えばその日のごはんを食べるのが精いっぱいの日々が続いてます。これは二人のお給金を優先する限り変わらないと思います。それでも私は誰かを不幸にすることは出来ない。だって私は――
――薬師はいないか
「――患者さん?」
待合室の方から聞こえる声に首を傾げる私。確か表の札は『休診』にしていたはずだけどな。
「困ったな。調薬中だから出来ればここから離れたくないんだよな」
普段なら調薬途中でも対応するけど、いま作ってるのは『麻酔薬』だから完成までここを離れたくないんだよね。考え過ぎなのは分かってるけど、目を離した隙にに盗まれないって保証はないからね。
――薬師はいないのか
「……ん? この声聞いたことないかも」
最初は村の人かと思ったけど声色からしてどうやら違うみたい。というか1年もいれば100人ちょっとの村人の声程度なら聞き分けることが出来るようになるし、そもそも村の人たちが私のことを“薬師”などとは呼びません。
「旅人さんかな?」
声のトーンから緊急性は感じないし、村の人なら後から対応しても良いけど旅人が相手ならそうはいかないよね。仕方ない。ちょっと相手するかな。
緊急性がなければ時間を改めてもらおう。そう考えた私は作業を中断して一旦、来客の対応をするために待合室に入りました。
「お待たせしました。薬師のソフィアです。どうかなさい……っ⁉」
調薬室から待合室に入った私は来客者の姿を見るや否や、その異様さに思わず後ずさりしてしまいました。
「アリサさん、大丈夫だよね」
途中で盗賊に襲われたりしてないよね。向こうの薬師に正体がバレれて捕まってたりしないよね。
推理小説の一片のようなことを想像してしまう私は気分を変えようと大きく息を吸う。大丈夫。アリサさんはウチに来る前は旅をしていたんだ。エドに守って貰うばかりの私なんかより心得はあるはず。
「それより、いまはこっちを優先しないとね」
水を張った鍋に大きめの煮出し袋を入れ、薬草からエキスを抽出して作るのは麻酔薬。ある意味タイミングが悪いと言えるけど、ハンスさんから注文が入ったので仕方ありません。
(――時間は掛かるけどこっちの方が良いんだよね)
鍋を火にかけグツグツと煮出す方法がエキス剤の調薬法としては主流だし、私も急ぐときは煮出して作るけど時間を掛け、ゆっくりと水出しする方が良いと教えてくれたのは師匠。時間が掛かっても質の良い薬を作るのが薬師の仕事。その教えを守って作る麻酔薬にはもちろん弱毒化した“アヤカシキャロット”も入っています。
「正しく使えば薬になるのに、なんか悲しいよね」
私たちが作る薬は誰かを助ける為にある。けれども使い方を誤れば身を滅ぼしてしまう。だから調薬が許されているのは薬師だけなのだと。私はこの言葉を事あるごとに師匠から聞かされ育ちました。その教えを胸に薬師になった私はどんな理由があろうと人を不幸にする薬は作れません。作っちゃいけないんです。
(ほとんどの薬師は私と同じ気持ちなんだよね)
薬師の知識を悪用しようなんて愚か者はほとんどいません。それでも中には道を外れてしまう薬師が現れ、その大半が生活苦から裏取引を始めてしまうそうです。それに生活苦と言う意味では私も大差ありません。エドたちには内緒だけど、どちらかと言えばその日のごはんを食べるのが精いっぱいの日々が続いてます。これは二人のお給金を優先する限り変わらないと思います。それでも私は誰かを不幸にすることは出来ない。だって私は――
――薬師はいないか
「――患者さん?」
待合室の方から聞こえる声に首を傾げる私。確か表の札は『休診』にしていたはずだけどな。
「困ったな。調薬中だから出来ればここから離れたくないんだよな」
普段なら調薬途中でも対応するけど、いま作ってるのは『麻酔薬』だから完成までここを離れたくないんだよね。考え過ぎなのは分かってるけど、目を離した隙にに盗まれないって保証はないからね。
――薬師はいないのか
「……ん? この声聞いたことないかも」
最初は村の人かと思ったけど声色からしてどうやら違うみたい。というか1年もいれば100人ちょっとの村人の声程度なら聞き分けることが出来るようになるし、そもそも村の人たちが私のことを“薬師”などとは呼びません。
「旅人さんかな?」
声のトーンから緊急性は感じないし、村の人なら後から対応しても良いけど旅人が相手ならそうはいかないよね。仕方ない。ちょっと相手するかな。
緊急性がなければ時間を改めてもらおう。そう考えた私は作業を中断して一旦、来客の対応をするために待合室に入りました。
「お待たせしました。薬師のソフィアです。どうかなさい……っ⁉」
調薬室から待合室に入った私は来客者の姿を見るや否や、その異様さに思わず後ずさりしてしまいました。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった
お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。
全力でお母さんと幸せを手に入れます
ーーー
カムイイムカです
今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします
少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^
最後まで行かないシリーズですのでご了承ください
23話でおしまいになります
転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ
如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白?
「え~…大丈夫?」
…大丈夫じゃないです
というかあなた誰?
「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」
…合…コン
私の死因…神様の合コン…
…かない
「てことで…好きな所に転生していいよ!!」
好きな所…転生
じゃ異世界で
「異世界ってそんな子供みたいな…」
子供だし
小2
「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」
よろです
魔法使えるところがいいな
「更に注文!?」
…神様のせいで死んだのに…
「あぁ!!分かりました!!」
やたね
「君…結構策士だな」
そう?
作戦とかは楽しいけど…
「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」
…あそこ?
「…うん。君ならやれるよ。頑張って」
…んな他人事みたいな…
「あ。爵位は結構高めだからね」
しゃくい…?
「じゃ!!」
え?
ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉
Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」
華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。
彼女の名はサブリーナ。
エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。
そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。
然もである。
公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。
一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。
趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。
そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。
「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。
ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。
拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる