8 / 14
第8話 10月10日 その2
しおりを挟む
結局この日、俺と琴音が言葉を交わす事はなかった。いつもなら何通も交わす“業務連絡メール”さえ出来ず、周囲から見てもたぶんピリピリした空気はあったかもしれない。
早くこの状況を脱したいが琴音から完全に避けられている今、下手に動けば関係がさらに悪くなるのは想像できる。そんな感じで一日が過ぎようとした深夜、状況は良い方向へ向かい始めた。
――入るよ
今日はこのまま寝ようと決めた11時過ぎ。ただ一言、それだけ言っていきなり琴音が部屋に入ってきたのだ。
「何か言いたいことない?」
主の許可を得る事なく部屋に入ってきた琴音は、ドアを閉めるなり感情を抑えているような低いトーンで訊ねてきた。
「昨日の事か。あれは、ほんと悪かったと思ってるよ。ちゃんと声掛ければ良かった」
「他には?」
「他に? 他って言われても――」
「見てどう思ったかって聞いてるのっ」
急に感情を露わにした彼女は鋭い視線で俺を見つめている。
「いくら家族でも少しくらい何かあるでしょ!」
「何かって……っていうか、どうしたんだよ」
「ハルくん、何も言わないから」
「は?」
「何も言ってくれないからっ! 何も言ってくれないから、女の子として見てくれてないのかなって……」
「見るも何も俺たち姉弟だろ」
「関係ないよっ」
「琴音?」
「そんなの、関係ないもん。ハルくんにとって――」
「?」
「ハルくんにとって……わたしはやっぱり“お姉ちゃん”なの?」
「なに言って……」
立ちすくむ琴音は俯き、握りこぶしを作って涙を堪えている。そんな彼女を前にして俺は何も言えなかった。
琴音が求めている答えはそういう意味だ。それが分かっているから下手に言葉を紡げなかった。
「……なにか言ってよ」
「――ねぇよ」
「なによ」
「そんな事ねぇって言ってんだよっ」
「っ!?」
「……解ってるんだよ。琴音が聞きたい事は。でもそれは言っちゃいけないんだよ」
「――聞かせてよ。ハルくんの気持ち知りたい」
「琴音……」
そういう言い回しをするって事はやっぱりそういう事だよな。こうなったらアレだな。俺も正直になるしかないか。
「絶対、後悔しないな?」
「うん。聞かせて」
「正直、琴音の事を“姉”とは思えない」
「……うん。そうだよね」
「俺は琴音の事が好きだ」
「――っ!?」
「家族とかそんなんじゃなくて、一人の阿澄琴音としておまえが好きだ」
「それがハルくんの気持ち?」
「おかしなこと言ってるのはわかってる。でも俺の中じゃ感情が勝っちゃてる。ホントはとっくに理性が負けてるんだ」
これで終わったな。
勢いに任せて言ってしまったが、琴音の表情を見る限りバッドエンドだ。下を向いたまま俺の顔を見ようとしない。重苦しい空気が漂う中でただ時間だけが過ぎていく。
出来る事ならこの場から消え去りたかった。可能ならば同居する前、せめてペアグラスを買いに行ったあの日に戻りたい。そう願ってしまう程に居心地が悪く、息苦しい空間で先に口を開いたのは琴音だった。
「――そっか。良かった」
「え?」
「ハルくん」
「お、おう」
「いまの言葉、そういう意味で受け取って良いんだよね」
「ああ。そう受け取ってくれて良い。俺はお前の事が好きだ」
「もう、他人の事を『おまえ』なんて呼んだらダメって言ったでしょ。でもありがと。すごく嬉しい」
やっと顔を上げてくれた。ようやく顔を見せてくれた琴音の表情は柔らかく、どこかホッとした様子にみえた。
「ほんとはね、怖かったの。片想いだったらどうしよう。家族なのにって引かれたらどうしようって」
「そっか。そうだよな」
「そんなこと考えたらすごく不安で、怖くて……ごめんね。困らせちゃったよね」
「そんな事ねぇよ。謝るのは俺の方だ。元はと言えば俺が悪いんだし」
「もう良いよ。わざとじゃないのは分かってるから。でも“意外は”っていうのは失礼だよね?」
「覚えてたのかよ」
「自信あったから結構ショックだったんだよ?」
「あ、うん……確かにスタイル良いし、デカいよな」
「もう、それ普通なら怒られるよ。ねぇ、ハルくん?」
「どうした」
「ハルくんの気持ちはすごく嬉しい。でも、もう少しだけ、姉弟じゃダメかな」
「親父たちの為か?」
「わたしもハルくんが好き。だけどお母さんにも幸せになってほしい。だからわたしは我慢しなきゃいけないの」
「琴音……」
「……ハルくん。わたし、どうしたら良いのかな?」
琴音は答えを求めるように俺を見つめた。その目は潤み、必死にあふれるのを堪えていた。
俺も親父にはそれなりに迷惑を掛けてきたと思う。だが、琴音はそれ以上に――いや、琴音が一人で色んなもの抱え込み過ぎてきたんだ。そんな感じがした。
「――ゆっくりで良いと思うぞ」
「え?」
「ゆっくり進めば良いだろ。どうせ一緒に住んでるんだし。何もいきなり付き合うとかしなくても良いだろ」
「で、でもっ! そんな中途半端だとハルくんが……」
「それは琴音も同じだろ」
「そ、それはそうかもしれないけど……」
「俺たちって再婚相手の子供と言っても“姉弟”だからさ、普通にいく訳ないだろ?」
「……うん。ハルくん?」
「なんだ?」
「ギュッてしてくれる?」
「は?」
「ハルくんにギュッて抱きしめてほしい。ダメ、かな?」
「っ!」
恥ずかしそうに上目遣いの琴音を前に心臓が止まりそうになった。正直、初めて見るその表情に俺は理性のタガが外れそうになる。
だがここで理性が崩れればそれこそ元には戻れなくなる。それなのに俺はゆっくりと琴音の身体を引き寄せ、彼女も呼応するように身体を俺に委ねる。
「……これで良いか?」
抱き締めたその身体は思った以上に華奢で、ガラス細工のように少し力を加えたら壊れてしまいそうだった。
「どうしてかな。すごく落ち着く。ハルくんだからかな?」
「ちょっ、恥ずかしい事言うな。俺だって――」
「ねぇ、ハルくん?」
「な、なんだよ」
「わたしね、ハルくんなら良いって思ってるよ」
「急になんだよ」
「ハルくんになら、このまま押し倒されても良いって思ってるよ?」
「っ!? おまっ、なに言って――」
「わかってるよ」
俺の胸に顔を埋めたまま答える琴音の声色に迷いはなかった。囁くような小さな声だったがハッキリとした意思を感じた。
「ちゃんと分ってるよ。こういうの“誘ってる”って言うのかな」
「誘ってるな」
「……あとはハルくんに任せるよ?」
この部屋には、家には俺たちしか居ない。
琴音は完全に俺に身体を委ねているし、このまま……なんて邪な気持ちが無いわけでもない。
――でもな、琴音?
「――バカかよ」
「え?」
「バカなのかって言ってんだよ。変な意地張るなよ。すげぇ震えてるぞ」
「…………」
「安心しろ。何もしねぇから」
「……うん」
「もう少し姉弟でいたいって言っての誰だよ」
「ごめん」
「そりゃ、裸見てしまったし、正直ドキッてしたけどさ――」
「ハルくん?」
「琴音の事、傷付けたくねぇんだよ」
なんか自分で言って恥ずかしくなった。こんなセリフが出てくるとは。あぁ、今すぐ穴を掘って隠れたい。
「俺も男なんだからさ。少しは考えて言えよ」
「ごめん……傷付けたくない、か。ハルくんカッコ良すぎだよ」
「うるせぇ」
「あのね、一つだけお願い聞いて?」
「今度はなんだよ」
「もうちょっとだけこのままで良い?」
「ったく、ちょっとだけだぞ。あと、さっきのは聞かなかったことにするから、ほんとやめてくれよ」
「……うん。ありがと」
気付けばとっくに日付は変わっていた。さすがにおばさんも帰ってくるはずだ。
このまま一緒に居てはいけないと俺の理性が叫ぶが、なぜか抱きしめる手を離せずにいた。俺自身、もうちょっとだけこのままで居たかった。
見つかった時は――その時は包み隠さず全てを打ち明けよう。
早くこの状況を脱したいが琴音から完全に避けられている今、下手に動けば関係がさらに悪くなるのは想像できる。そんな感じで一日が過ぎようとした深夜、状況は良い方向へ向かい始めた。
――入るよ
今日はこのまま寝ようと決めた11時過ぎ。ただ一言、それだけ言っていきなり琴音が部屋に入ってきたのだ。
「何か言いたいことない?」
主の許可を得る事なく部屋に入ってきた琴音は、ドアを閉めるなり感情を抑えているような低いトーンで訊ねてきた。
「昨日の事か。あれは、ほんと悪かったと思ってるよ。ちゃんと声掛ければ良かった」
「他には?」
「他に? 他って言われても――」
「見てどう思ったかって聞いてるのっ」
急に感情を露わにした彼女は鋭い視線で俺を見つめている。
「いくら家族でも少しくらい何かあるでしょ!」
「何かって……っていうか、どうしたんだよ」
「ハルくん、何も言わないから」
「は?」
「何も言ってくれないからっ! 何も言ってくれないから、女の子として見てくれてないのかなって……」
「見るも何も俺たち姉弟だろ」
「関係ないよっ」
「琴音?」
「そんなの、関係ないもん。ハルくんにとって――」
「?」
「ハルくんにとって……わたしはやっぱり“お姉ちゃん”なの?」
「なに言って……」
立ちすくむ琴音は俯き、握りこぶしを作って涙を堪えている。そんな彼女を前にして俺は何も言えなかった。
琴音が求めている答えはそういう意味だ。それが分かっているから下手に言葉を紡げなかった。
「……なにか言ってよ」
「――ねぇよ」
「なによ」
「そんな事ねぇって言ってんだよっ」
「っ!?」
「……解ってるんだよ。琴音が聞きたい事は。でもそれは言っちゃいけないんだよ」
「――聞かせてよ。ハルくんの気持ち知りたい」
「琴音……」
そういう言い回しをするって事はやっぱりそういう事だよな。こうなったらアレだな。俺も正直になるしかないか。
「絶対、後悔しないな?」
「うん。聞かせて」
「正直、琴音の事を“姉”とは思えない」
「……うん。そうだよね」
「俺は琴音の事が好きだ」
「――っ!?」
「家族とかそんなんじゃなくて、一人の阿澄琴音としておまえが好きだ」
「それがハルくんの気持ち?」
「おかしなこと言ってるのはわかってる。でも俺の中じゃ感情が勝っちゃてる。ホントはとっくに理性が負けてるんだ」
これで終わったな。
勢いに任せて言ってしまったが、琴音の表情を見る限りバッドエンドだ。下を向いたまま俺の顔を見ようとしない。重苦しい空気が漂う中でただ時間だけが過ぎていく。
出来る事ならこの場から消え去りたかった。可能ならば同居する前、せめてペアグラスを買いに行ったあの日に戻りたい。そう願ってしまう程に居心地が悪く、息苦しい空間で先に口を開いたのは琴音だった。
「――そっか。良かった」
「え?」
「ハルくん」
「お、おう」
「いまの言葉、そういう意味で受け取って良いんだよね」
「ああ。そう受け取ってくれて良い。俺はお前の事が好きだ」
「もう、他人の事を『おまえ』なんて呼んだらダメって言ったでしょ。でもありがと。すごく嬉しい」
やっと顔を上げてくれた。ようやく顔を見せてくれた琴音の表情は柔らかく、どこかホッとした様子にみえた。
「ほんとはね、怖かったの。片想いだったらどうしよう。家族なのにって引かれたらどうしようって」
「そっか。そうだよな」
「そんなこと考えたらすごく不安で、怖くて……ごめんね。困らせちゃったよね」
「そんな事ねぇよ。謝るのは俺の方だ。元はと言えば俺が悪いんだし」
「もう良いよ。わざとじゃないのは分かってるから。でも“意外は”っていうのは失礼だよね?」
「覚えてたのかよ」
「自信あったから結構ショックだったんだよ?」
「あ、うん……確かにスタイル良いし、デカいよな」
「もう、それ普通なら怒られるよ。ねぇ、ハルくん?」
「どうした」
「ハルくんの気持ちはすごく嬉しい。でも、もう少しだけ、姉弟じゃダメかな」
「親父たちの為か?」
「わたしもハルくんが好き。だけどお母さんにも幸せになってほしい。だからわたしは我慢しなきゃいけないの」
「琴音……」
「……ハルくん。わたし、どうしたら良いのかな?」
琴音は答えを求めるように俺を見つめた。その目は潤み、必死にあふれるのを堪えていた。
俺も親父にはそれなりに迷惑を掛けてきたと思う。だが、琴音はそれ以上に――いや、琴音が一人で色んなもの抱え込み過ぎてきたんだ。そんな感じがした。
「――ゆっくりで良いと思うぞ」
「え?」
「ゆっくり進めば良いだろ。どうせ一緒に住んでるんだし。何もいきなり付き合うとかしなくても良いだろ」
「で、でもっ! そんな中途半端だとハルくんが……」
「それは琴音も同じだろ」
「そ、それはそうかもしれないけど……」
「俺たちって再婚相手の子供と言っても“姉弟”だからさ、普通にいく訳ないだろ?」
「……うん。ハルくん?」
「なんだ?」
「ギュッてしてくれる?」
「は?」
「ハルくんにギュッて抱きしめてほしい。ダメ、かな?」
「っ!」
恥ずかしそうに上目遣いの琴音を前に心臓が止まりそうになった。正直、初めて見るその表情に俺は理性のタガが外れそうになる。
だがここで理性が崩れればそれこそ元には戻れなくなる。それなのに俺はゆっくりと琴音の身体を引き寄せ、彼女も呼応するように身体を俺に委ねる。
「……これで良いか?」
抱き締めたその身体は思った以上に華奢で、ガラス細工のように少し力を加えたら壊れてしまいそうだった。
「どうしてかな。すごく落ち着く。ハルくんだからかな?」
「ちょっ、恥ずかしい事言うな。俺だって――」
「ねぇ、ハルくん?」
「な、なんだよ」
「わたしね、ハルくんなら良いって思ってるよ」
「急になんだよ」
「ハルくんになら、このまま押し倒されても良いって思ってるよ?」
「っ!? おまっ、なに言って――」
「わかってるよ」
俺の胸に顔を埋めたまま答える琴音の声色に迷いはなかった。囁くような小さな声だったがハッキリとした意思を感じた。
「ちゃんと分ってるよ。こういうの“誘ってる”って言うのかな」
「誘ってるな」
「……あとはハルくんに任せるよ?」
この部屋には、家には俺たちしか居ない。
琴音は完全に俺に身体を委ねているし、このまま……なんて邪な気持ちが無いわけでもない。
――でもな、琴音?
「――バカかよ」
「え?」
「バカなのかって言ってんだよ。変な意地張るなよ。すげぇ震えてるぞ」
「…………」
「安心しろ。何もしねぇから」
「……うん」
「もう少し姉弟でいたいって言っての誰だよ」
「ごめん」
「そりゃ、裸見てしまったし、正直ドキッてしたけどさ――」
「ハルくん?」
「琴音の事、傷付けたくねぇんだよ」
なんか自分で言って恥ずかしくなった。こんなセリフが出てくるとは。あぁ、今すぐ穴を掘って隠れたい。
「俺も男なんだからさ。少しは考えて言えよ」
「ごめん……傷付けたくない、か。ハルくんカッコ良すぎだよ」
「うるせぇ」
「あのね、一つだけお願い聞いて?」
「今度はなんだよ」
「もうちょっとだけこのままで良い?」
「ったく、ちょっとだけだぞ。あと、さっきのは聞かなかったことにするから、ほんとやめてくれよ」
「……うん。ありがと」
気付けばとっくに日付は変わっていた。さすがにおばさんも帰ってくるはずだ。
このまま一緒に居てはいけないと俺の理性が叫ぶが、なぜか抱きしめる手を離せずにいた。俺自身、もうちょっとだけこのままで居たかった。
見つかった時は――その時は包み隠さず全てを打ち明けよう。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
【立場逆転短編集】幸せを手に入れたのは、私の方でした。
Nao*
恋愛
11/14最新『私から婚約者を奪い幽閉までした姉が謝罪して来ましたが、当然受け入れはしないのでした。』
様々な悪意や裏切り、不幸を乗り越え幸せを手に入れた主人公の逆転劇を集めたSS・短編集です。
婚約していないのに婚約破棄された私のその後
狭山ひびき@バカふり160万部突破
恋愛
「アドリエンヌ・カントルーブ伯爵令嬢! 突然ですまないが、婚約を解消していただきたい! 何故なら俺は……男が好きなんだぁああああああ‼」
ルヴェシウス侯爵家のパーティーで、アドリーヌ・カンブリーヴ伯爵令嬢は、突然別人の名前で婚約破棄を宣言され、とんでもないカミングアウトをされた。
勘違いで婚約破棄を宣言してきたのは、ルヴェシウス侯爵家の嫡男フェヴァン。
そのあと、フェヴァンとルヴェシウス侯爵夫妻から丁重に詫びを受けてその日は家に帰ったものの、どうやら、パーティーでの婚約破棄騒動は瞬く間に社交界の噂になってしまったらしい。
一夜明けて、アドリーヌには「男に負けた伯爵令嬢」というとんでもない異名がくっついていた。
頭を抱えるものの、平平凡凡な伯爵家の次女に良縁が来るはずもなく……。
このままだったら嫁かず後家か修道女か、はたまた年の離れた男寡の後妻に収まるのが関の山だろうと諦めていたので、噂が鎮まるまで領地でのんびりと暮らそうかと荷物をまとめていたら、数日後、婚約破棄宣言をしてくれた元凶フェヴァンがやった来た。
そして「結婚してください」とプロポーズ。どうやら彼は、アドリーヌにおかしな噂が経ってしまったことへの責任を感じており、本当の婚約者との婚約破棄がまとまった直後にアドリーヌの元にやって来たらしい。
「わたし、責任と結婚はしません」
アドリーヌはきっぱりと断るも、フェヴァンは諦めてくれなくて……。
漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?
みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。
なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。
身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。
一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。
……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ?
※他サイトでも掲載しています。
※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。
【R18】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる