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プロローグ

一話 姫の夢は冒険者

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 魔法が盛んになった現代において、私の魔法適正値はただの宝の持ち腐れに過ぎないことに気づいたのは十年前のことだったと記憶している。

 魔法適正値ーー10000オーバー。

 魔法適正測定器で、興味本位に測った結果、測定器はものの見事に針が限界を振り切り壊れた。
 9999までしか測れない測定器が壊れ、私に使えてくれるメイド達は測定器の故障を疑ったが、その次の日に、私がこれも興味本位で城丸ごとを基礎から宙に浮かしたことで疑いは晴れた。
 晴れたが故に、危険視された。それも親に。

 その日から、いや、その前からではあったけど。
 私は外に出ることを一切許されなくなり、魔法を使うなら王城敷地内の広大な広場でのみ、魔道士の付き添いの元で許された。
 でも私は、測定器を壊した日から自分の魔法適正値のおかげである夢を持てた。
 それは冒険者ーー王族らしからぬ、夢だった。
 
 私は魔法先進国バルテン王国の王女ーーバルテン・リリー。
 バルテン王国は魔法先進国となり、今では世界有数の冒険者の国とされている。
 だから私はーーだからこそ私はーー冒険者を夢見た。
 自由に魔法を使い、モンスターと戦うとされる壮大なファンタジーに憧れを抱いた。

「ねえ爺。どうして私は魔法を外で使えないのかしら?」

「それはですな。姫様の魔法適正値は国内でまだ数少ない事例の一つに入り、そして数少ない存在の一人であるためにございます。私も姫様の自由は姫様自身にあると思ってはおるのですが……」

「父上ね。全く、過保護で鬱陶しさを感じなくもないわ。でも、一度で良いから外で暴れてみたーい」

 そんな会話をS級魔道士の爺ことジーゼルと交したのは十歳の時。
 今では十八歳となってしまった私だからこの時の会話を懐かしむ半分、馬鹿な自分に笑いが込み上げなくもなかった。
 
 王族に生まれ、王女であり、また姫様と呼ばれる立場の一人の小娘がーー。
 外で暴れてみたいなんて言えば、一国を率いる王の父上が黙っていることは無かったのだから。

 でも、それで諦めることをしなかったのが今の私であった。
 いつか、もしかしたらーーそんな期待をしながら、夢を見ながら、私は十八歳を迎えた。
 十八歳の誕生日の日に、

「リリー。祝の品は何が良い」

 父上からそう聞かれた。
 もちろん、夢を叶えたい……なんて言えば、部屋に監禁されるがオチ。
 二年後には第十七代目バルテン王国女王の座に座ることになる私がだ。
 それは王族に生まれたが末の結末と分かっていた。
 だから私は、もし王族から離れて自由を手にした時のため。そして冒険者のための制度を作ることを祝の品にしてもらった。

 ーー冒険者支援制度。

 魔法先進国であり、冒険者の国と呼ばれる有名なバルテン王国だからこそ確立することが容易だった制度。
 魔法適正値の高い冒険者には、国から多額の活動資金を貰うことが可能となり、また保険等も魅力的なものである。
 
 ……でも、生まれつき魔力が高くないと意味がないのでは?

 母上には、そう言われた。
 それを私は素早く否定した。
 魔法適正値は、努力で上げることが可能になる。
 私みたいな生まれつきと、努力の結晶、どちらにも優しい制度は確立されるのに一ヶ月と経たなかった。

 確立されてからは更にバルテン王国の冒険者活動は盛んになった。
 町を見下ろせば冒険者ばかり。ギルド一行だったり、ソロ冒険者だったり。中には女性冒険者も混ざっていた。

 制度のおかげかは分からないけれど、王国には感謝状が届くことも珍しくなくなった今日この頃だった。
 でも……私は鳥籠の姫であり、冒険者ではなかった。





 十八歳になって二ヶ月が経った今日。
 私はいつものように爺の付き添い元、魔法を広場で使い遊んでいた。
 魔法で遊ぶ姫ーーなんて国民に知れたら、どうなることかは想像がつく。でも、ここなら何をしていても、国民の目には触れない。
 
「姫様、今日はどういたしますかな?」

「爺、今日は魔力が漲っているわ! とりあえず、隕石でも落として頂戴!」

 隕石を落としてと、普通の姫なら頼まない件について、触れないでほしい。
 だって私は、異常なのだから。普通の姫なんかではなく冒険者を夢に見ているのだから。

「隕石となりますと……グレモリーを呼んだほうが早いですな」

「呼んだー?」

「何処から自然と湧いて出るのやら……。いや、不自然にか」

「あらひどーい。ジーゼル様ったら、私の魅力は霧になっても放たれているから見つけて頂戴なあ」

「あー、わがまま爆弾ボディーなのは、認めてやるとしよう。さて、姫様。今日はグレモリーに隕石やら雷やら、落としていただくと良いでしょう」

 ジーゼルは白髪で、片目を眼帯で隠した老人とは言い難いがそこそこの年齢である。
 ジーゼルの特徴は眼帯と、いつも着ている黒竜の鎧といったところ。
 特にこれと言い、パッとしないのだけど、それでも魔道士としては少数の凄腕に入る一人。

 グレモリーはお姉さんキャラだけど、性格はど変態の爆弾ボディー。
 ボン、キュッ、ボンで、高身長。いつも私は、城内で会うと抱きしめられて頭を犬猫のように撫でられている。
 青紫の長い髪には羨ましい限りだ。
 そして彼女は、一年前に魔法学院を首席で卒業し、魔道士歴一年でジーゼルの補佐におかれるこれまた凄腕の魔道士。

「まだ姫様は冒険者になりたいのーお? なら、私が駆け落ちに付き合って、あ・げ・る♡」

「もうグレモリー! 駆け落ちしたら私達の関係は複雑でしょ!?」

「それこそ、親は泣くでしょうな。さあ、グレモリーは馬鹿なこと言ってないで始めよ」

 プクーと残念そうに頬を膨らませて(膨らませる意味が分からない)、グレモリーは持っていた杖を空に向けた。
 地響きが突如起こる。
 何度か経験したことはあるものの、やっぱりこの地響きだけは慣れない。

「メテオ、おいでなさーい」

 ジーゼルが張り巡らせた結界から、隕石がゆっくりと姿を現しみるみるうちに全貌を晒した。
 壊さなければ、国一つ吹き飛ぶだろう隕石が。
 雲のあるくらいの高さから、全身見えた隕石は不可思議な速度上昇で私の頭上目掛けて落ちてくる。
 
「さて、壊しちゃってえ? ドS風にドンッ! とっ!」

「グレモリー……気が散るのだけど。まあ、石ころ程度の大きさに粉砕してあげるわあ!」

 迫ってくる隕石を見つめながら、私は全身に魔力を高速で巡らせる。
 こんなの簡単ーー。
 全身に魔力を張り巡らせて、一気に放出して簡易的な結界をそのまま隕石にぶつければ良いだけのこと。

 でも並大抵の冒険者では、無理なことらしい。

 まあ、でも私が並大抵のそこら辺に転がる冒険者とは別格である違いが、それを簡単にさせる。
 本当……どう生まれたら、魔法適正値の低い父上と母上から私みたいな化物級が生まれることやら。

「ーーハッ!」

 魔力を隕石に向けて解き放った。
 城一つ分はあるだろう隕石を私は凝縮した魔力のみで粉砕し、石ころ程度にしてみせる。
 朝飯前ーーいや、起床前よ。

「流石、改造魔力少女ねえ!」

「姫様に変なあだ名をつけるでないグレモリー。さて、どうですかな姫様、魔力はまだ溢れておるのでは?」

「そうねえ、今からまだ海を割いて道を作れる程度には」

「どこの神話よそれ。それはさておき、それだけ魔力が有り余っているのなら……もうすぐモンスター狩りのイベントが開催されるのよ姫様? そっちに行ってみるのは、どうかしら~?」

 モンスター……狩り?
 
 私が首を傾げると、ジーゼルが首を左右に振った。
 グレモリーはニコニコ笑顔で、行くことを顔だけで勧めてくる。
 行ってみたいーーと、思ったのは一瞬だった。
 私が外に出れば、確実に騒動になることは間違いないからだ。

「でも……」

「みんなに心配掛けるなんて思うのなら~、まず冒険者なんて夢を胸に抱いていたらダメよ。夢って叶えるために抱くもので、ただ見ているだけでは意味ないもの。叶えるためなら、時には歯向かう勇気よ!」

「馬鹿者! 姫様に変なことを吹き込むでないグレモリー! ……姫様、行ってはいけないと言えないのも私の立場でしてなあ。グレモリーに夢は叶えるために抱けと説いたのは私なのです。ですから、行くのでしたら騒ぎが起きないよう対処はこちらでいたしますが……」

 ジーゼルは額から吹き出る嫌な汗を拭いながら、私に選択肢を委ねてくれた。
 止めるのではなく、選択肢。選択する権利を。
 結界が貼られている今、この会話は私達三人だけが共有していることで他人は誰一人干渉していない。

 私は、冒険者の夢を抱いている。でも裏を返せば、それは見ているだけであって叶えるために見ていなかった。
 なら、一度で良いから叶えるために……動いてみたい。
 グレモリーの手を私は気づいたら強く握っていた。

「ーーグ、グレモリー! 私をそこへ連れて行ってお願い!」

「あいあい! 姫様の頼みなら喜んで~!」

「はあ……いつかはこうなるのではないかと思っていたのだが、時が少し早い気もする……しかし、そうなれば、もうイベントは始まる時刻です故、早速移動をしろグレモリー。姫様には黒マントを着せてフードで顔を隠しておくように。私は姫様が自室に閉じこもっているとでも、言っておこう」

「あら~物分りの良いことねジーゼル様。じゃあ姫様、飛びますので私の手を離さないように」

「離すとどうなるの?」

「異空間に取り残されて永遠に戻ってこれない、片道切符が切られます♡」

 とだけ言って、グレモリーはカウントもせず私と共に異空間を経由して目的地である城外へと連れ出してくれた。
 私は一度だけーー冒険者になれる日が来たのだった。
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