100 / 105
第8章 戦乱の兆し
第100話 戦乱の兆し②
しおりを挟む
「では、エル・ドアンの説得とロングウッドの森の掌握、そしてその前にケルンの動向を探る、というところでいいですか?」
「うむ、それでよかろう」
よかろう、って師匠、随分偉そうだ。前はそれ程では無かったと思うんだが。
俺は取り急ぎエル・ドアンの元に向かった。一番近いし手っ取り速い。
一連のことをエル・ドアンに話す。
「そういうことですか。どうしましょうね」
「どうしましょう、って手伝ってくれないのか?」
「どうして僕が?」
「この国を乗っ取ろうとしているんだぞ?」
「この国がどうなったっていいじゃないですか。僕やあなたに関係ないと思いますよ」
エル・ドアンはこういう奴だった。元の世界に戻って世界征服でもやるつもりだったのか。
「そうだ、お前の目的は元の世界に戻ることだったよな」
「そうですが、それが何か?」
「だったら、それが出来るのはケルンのストラトス家の者しか居ないじゃないか」
「そうですね」
「だが、そのストラトス家の召喚魔法なら元の世界からお前をここに戻することが出来る」
「そう言う話ですが、それが何か?」
エル・ドアンの機嫌は頗《すこぶ》る悪かった。
「ストラトス家に元の世界に戻る魔法を教えてもらって、その後にストラトス家を捕まえる、というのはどうだ?」
我ながら杜撰《ずさん》な話だ。
「なるほど、そう言う手もありますね」
もしかしたらエル・ドアンは頭が悪いのか?まあ、本人が納得してくれたのであればいいんだが。
「じゃあ手伝ってくれるか?」
「いいでしょう。何をすればいいですか?」
「もし、直ぐに動けるのであればケルンの様子を調べて来て欲しいんだが」
「判りました。明日には立てると思います」
思いのほかあっさりとエル・ドアンは説得できた。念のためキサラを同行させることにする。
「えっ、私ですか?」
「頼むよ、エル・ドアンには監視が必要だから」
「コータロー様はどうされるのですか?」
「俺は師匠とロングウッドだ。だからキサラはケルンには最短距離の南周りで行ってもらうけど、帰りはシルザールを経由して北周りで戻って来て欲しいんだ。俺はロングウッドが片付いたらシルザールに向かうつもりだから」
ロングウッドの森の魔法使いたちを参戦させることに成功したらシルザールの魔法使いたちも仲間に引き入れる。マシュー・エンロールやダンテ・ノルン、特にダンテは役に立つはずだ。
ケルン側の魔法使いたちの規模は判らないが戦線が拮抗して膠着してしまった場合に、それを打破できる参謀的存在が必要だ。
本当ならジョシュアが居れば任せたいのだが、ジョシュアは魔法が使えない。それにセレスと幸せに暮らしているのなら巻き込みたくない。ジョシュアの代わりはダンテなら務まるだろう。
「では俺は師匠と明日ロングウッドに向かうからキサラはエル・ドアンとケルンに立ってくれ」
「判りました」
とりあえず段取りを整えて俺は王都の守りをお願いしにワンナー・ツースール王立図書館長
を訪ねた。稀覯書探しに協力してもらったことと、やはり伝説級魔法士であることは大きい。
ワルク・ゾルダン魔法学校長やカールーズ・トルレン魔法省大臣は特級魔法士ではあるがやはり頼りになるのはワンナー館長だろうと思う。
「判った。王都は任せておいてもらってよい。ただ」
「ただ?」
「王と王女に説明をしてからにしてもらおう」
「王と王女、ですか?」
それはそうだろう。王国を乗っ取る気でいるかもしれないケルン一党の動向だ、気にならない筈がない。もし本当なら王国を挙げて対抗しなければならないのだ。
「でも、相手は転生人軍団を組織しているかも知れないんですよ、魔法使いでないと対抗できないんじゃないですか?」
「騎士団ではどうしようもないであろうな」
「では王都魔法士隊あたりの出番ですか?」
王都の魔法士隊は王都魔法学校の卒業生が名を連ねる最低でも上級魔法士しか居ないアステア国最強の魔法士部隊らしい。俺も噂でしか知らない。
「王都魔法士隊か、あれは駄目だ。実戦を経験して者がほとんど居ないからな」
「館長は実戦の経験が?」
「昔な。お前の師匠やサーリールとはやり合ったことはある。一緒に戦ったこともな。ただ王国と対外的な戦争はもう数十年なかった。それで今の魔法士は実戦を知らない」
実戦を知っているのと知らないのでは、やはり相当差が生じてしまうのだろう。それは俺にもエル・ドアンにも言えることだし、相手のケルン一党にも言えるだろう。
「では国王に会いに一緒に行こう」
「判りました、よろしくお願いします」
こうして俺とワンナー館長は城へと向かうのだった。
「うむ、それでよかろう」
よかろう、って師匠、随分偉そうだ。前はそれ程では無かったと思うんだが。
俺は取り急ぎエル・ドアンの元に向かった。一番近いし手っ取り速い。
一連のことをエル・ドアンに話す。
「そういうことですか。どうしましょうね」
「どうしましょう、って手伝ってくれないのか?」
「どうして僕が?」
「この国を乗っ取ろうとしているんだぞ?」
「この国がどうなったっていいじゃないですか。僕やあなたに関係ないと思いますよ」
エル・ドアンはこういう奴だった。元の世界に戻って世界征服でもやるつもりだったのか。
「そうだ、お前の目的は元の世界に戻ることだったよな」
「そうですが、それが何か?」
「だったら、それが出来るのはケルンのストラトス家の者しか居ないじゃないか」
「そうですね」
「だが、そのストラトス家の召喚魔法なら元の世界からお前をここに戻することが出来る」
「そう言う話ですが、それが何か?」
エル・ドアンの機嫌は頗《すこぶ》る悪かった。
「ストラトス家に元の世界に戻る魔法を教えてもらって、その後にストラトス家を捕まえる、というのはどうだ?」
我ながら杜撰《ずさん》な話だ。
「なるほど、そう言う手もありますね」
もしかしたらエル・ドアンは頭が悪いのか?まあ、本人が納得してくれたのであればいいんだが。
「じゃあ手伝ってくれるか?」
「いいでしょう。何をすればいいですか?」
「もし、直ぐに動けるのであればケルンの様子を調べて来て欲しいんだが」
「判りました。明日には立てると思います」
思いのほかあっさりとエル・ドアンは説得できた。念のためキサラを同行させることにする。
「えっ、私ですか?」
「頼むよ、エル・ドアンには監視が必要だから」
「コータロー様はどうされるのですか?」
「俺は師匠とロングウッドだ。だからキサラはケルンには最短距離の南周りで行ってもらうけど、帰りはシルザールを経由して北周りで戻って来て欲しいんだ。俺はロングウッドが片付いたらシルザールに向かうつもりだから」
ロングウッドの森の魔法使いたちを参戦させることに成功したらシルザールの魔法使いたちも仲間に引き入れる。マシュー・エンロールやダンテ・ノルン、特にダンテは役に立つはずだ。
ケルン側の魔法使いたちの規模は判らないが戦線が拮抗して膠着してしまった場合に、それを打破できる参謀的存在が必要だ。
本当ならジョシュアが居れば任せたいのだが、ジョシュアは魔法が使えない。それにセレスと幸せに暮らしているのなら巻き込みたくない。ジョシュアの代わりはダンテなら務まるだろう。
「では俺は師匠と明日ロングウッドに向かうからキサラはエル・ドアンとケルンに立ってくれ」
「判りました」
とりあえず段取りを整えて俺は王都の守りをお願いしにワンナー・ツースール王立図書館長
を訪ねた。稀覯書探しに協力してもらったことと、やはり伝説級魔法士であることは大きい。
ワルク・ゾルダン魔法学校長やカールーズ・トルレン魔法省大臣は特級魔法士ではあるがやはり頼りになるのはワンナー館長だろうと思う。
「判った。王都は任せておいてもらってよい。ただ」
「ただ?」
「王と王女に説明をしてからにしてもらおう」
「王と王女、ですか?」
それはそうだろう。王国を乗っ取る気でいるかもしれないケルン一党の動向だ、気にならない筈がない。もし本当なら王国を挙げて対抗しなければならないのだ。
「でも、相手は転生人軍団を組織しているかも知れないんですよ、魔法使いでないと対抗できないんじゃないですか?」
「騎士団ではどうしようもないであろうな」
「では王都魔法士隊あたりの出番ですか?」
王都の魔法士隊は王都魔法学校の卒業生が名を連ねる最低でも上級魔法士しか居ないアステア国最強の魔法士部隊らしい。俺も噂でしか知らない。
「王都魔法士隊か、あれは駄目だ。実戦を経験して者がほとんど居ないからな」
「館長は実戦の経験が?」
「昔な。お前の師匠やサーリールとはやり合ったことはある。一緒に戦ったこともな。ただ王国と対外的な戦争はもう数十年なかった。それで今の魔法士は実戦を知らない」
実戦を知っているのと知らないのでは、やはり相当差が生じてしまうのだろう。それは俺にもエル・ドアンにも言えることだし、相手のケルン一党にも言えるだろう。
「では国王に会いに一緒に行こう」
「判りました、よろしくお願いします」
こうして俺とワンナー館長は城へと向かうのだった。
0
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説
幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話
島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。
俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
魔境暮らしの転生予言者 ~開発に携わったゲーム世界に転生した俺、前世の知識で災いを先読みしていたら「奇跡の予言者」として英雄扱いをうける~
鈴木竜一
ファンタジー
「前世の知識で楽しく暮らそう! ……えっ? 俺が予言者? 千里眼?」
未来を見通す千里眼を持つエルカ・マクフェイルはその能力を生かして国の発展のため、長きにわたり尽力してきた。その成果は人々に認められ、エルカは「奇跡の予言者」として絶大な支持を得ることになる。だが、ある日突然、エルカは聖女カタリナから神託により追放すると告げられてしまう。それは王家をこえるほどの支持を得始めたエルカの存在を危険視する王国側の陰謀であった。
国から追いだされたエルカだったが、その心は浮かれていた。実は彼の持つ予言の力の正体は前世の記憶であった。この世界の元ネタになっているゲームの開発メンバーだった頃の記憶がよみがえったことで、これから起こる出来事=イベントが分かり、それによって生じる被害を最小限に抑える方法を伝えていたのである。
追放先である魔境には強大なモンスターも生息しているが、同時にとんでもないお宝アイテムが眠っている場所でもあった。それを知るエルカはアイテムを回収しつつ、知性のあるモンスターたちと友好関係を築いてのんびりとした生活を送ろうと思っていたのだが、なんと彼の追放を受け入れられない王国の有力者たちが続々と魔境へとやってきて――果たして、エルカは自身が望むようなのんびりスローライフを送れるのか!?
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
気がついたら異世界に転生していた。
みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。
気がついたら異世界に転生していた。
普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・
冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。
戦闘もありますが少しだけです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる