上 下
66 / 105
第5章 展開する物語の章

第66話 ロングウッドの森を後にした

しおりを挟む
「それで、一体どうしたっていうの?やっと私のところに修行に来たってこと?」

 そうなのだ、元々師匠からルナの元で修業をしろと言われていたのだった。

「そうですね、いずれはお願いしたいのですが、今日来たのはちょっと別件なのです」

「別件?」

 俺はルナにジョシュアとセリスがロングウッドの森に居る間、できれば追手から守ってくれないか、ということをお願いした。

「なるほと、そういうことね。でも、それならあなたも一緒にここで彼らを守ってあげたら?」

 そうなのだ、それは俺も考えた。でも最終的にはその考えは捨てたのだ。

「いいえ、それは確かにそうなのですが、ジョシュアたちと俺が一緒に居ることのデメリットの方が大きいと判断したんです」

「デメリット?」

「ああ、ええっと俺と一緒に居た方が悪いことが起きる確率が上がる、と言う感じですかね」

「そういうものなの?」

「そうですね」

「それじゃあ、あなたはどうするのよ」

「俺は、そうですね、王都にでも行ってこようかと思っているんですが」

「アステアールへ?」

「そうです。王都に行ってエル・ドアンの顔でも拝んでこようかと」

 俺はそう言うまでそんなことを考えても居なかったのだが、まあそれもいいだろう、程度の話だ。

「例の天才少年か。でも大丈夫?捕まったりしない?」

「そうですね。一旦見つかって、そのまま一目散に逃げる、とかになりそうですが」

 そうだな、できるだけロングウッドの森から離れる方向に逃げるのがいいかもな。

「俺たちに目を向けてくれると助かるんだが」

「囮という訳ね。いいわ、君がその覚悟で行くなら、ここは任せておいて。伊達に歳は重ねていないから。ナーザレスも手伝ってね」

「何をだ?」

 クマさんは今までの二人の会話を全く理解していなかった。ルナが丁寧に説明する。

「なんだ、そういうことか。それなら任せておけ、この森のことなら何でもな」

 クマさんは頼りになるのかならないのかよく判らない。

「森の外周に居る魔法使いたちには、見かけない者が来たらすぐに知らせてくれるように頼んでおくわ。普段は誰が来ようが気にしない人たちなんだけど」

 やはりナーザレスよりもルナの方が顔が広いようだ。

「変わった人が多いからね。でも私には協力してくれると思うんだけど」

「我にも協力してくれるぞ。皆我を尊敬しておるからな」

「はいはい、あなたは偉いわ」

 ルナは相手にしていない。501歳のナーザレスに対して497歳だから少し年下の筈なんだが。

「ジョシュアたちを紹介するからルナ、来てくれ」

 俺はルナとクマさんを連れてクマさんの別荘に戻った。

「ここに居る間は、まあ安心しておいてね」

「ありがとうございます。ご迷惑をおかけします」

「いいのよ、時々私やナーザレスの話し相手になってさえくれれば。結構ここの暮らしは暇なことが多いから」

 ロングウッドの森では各々が結界を張っていて出会うことが珍しい。たまにナーザレスが迷い込んでくるくらいが関の山だ。あとは余程親しい者同士が行き来しているだけだった。

 セリスは自分よりも見た目がかなり若いルナの本当の年齢が信じられなかったが俺のれいもあるから納得するしかなかった。見た目15,6歳の少女に守ってもらうことが少し気が引けてしまうようだ。

「で、コータローは直ぐに出るの?」

「えっ、コータロー様はどこかに出かけられるのですか?」

 キサラが驚いて問う。何一つ聞かされていなかったからだ。俺が居ないと二人の邪魔にしかならない。

「そうだな、王都にでも行こうかと思っているんだ」

「そうですか、当然私も連れて行ってくださるんですよね」

 それが当然のことと言う感じだ。まあ、仕方ない、ジョシュアとセリスの間にお邪魔虫は不要だろう。

「ああ、まあ、そうだな。ここに置いて行く訳にも行かないか」

「当り前です。私はそれほど野暮ではありません」

 キサラは少し怒っているかのように言う。そのキサラにしても自分よりも年下にしか見えないルナが500歳近い魔法使いなのが少し信じられていない。

「王都に行く、ってどういうつもりだ?」

 ジョシュアが問う。俺が何もないのに王都に行くなんて言い出す筈がないと思っているのだ。俺のことがよく判っている。

「見物?」

「おい」

「まあまあ。お前が捕まったっていうエル・ドアンをこの目で見たい、とか?」

「あり得ない。あの子供はお前の手には負えないぞ」

「そうか。じゃあ王都見物だけにしておくかな」

 ジョシュアは付き合い切れないという表情を浮かべただけで、それ以上は何も言わなかった。俺がやることで自分たちが不利になることはない、と信じているからだ。

「それじゃ、ルナ、クマさん、後のことはよろしく頼むよ、あと師匠が戻ったら俺は王都に行ったと伝えてくれるとありがたい」

 それはそれだけ言うとキサラと二人でロングウッドの森を後にするのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

処理中です...