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第3章 飛躍する物語の章

第33話 シルザールの街で深夜徘徊してみた

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 その夜、師匠は深夜に戻って来た。

「どこ行ってたんですか。ワリスさんも心配していましたよ」

「それは無いな。あの男が儂を心配する訳がない」

 うむ。尚更二人の関係はよく判らなくなった。信頼しているのか、それとも例えばヘマをして捕まってもいいと思っているのか。

「少なくとも俺は心配していましたよ」

「お前は儂がいないと単純に困るからだろうて。まあいい、少しくらいは修行をしておったのであろうな?」

 師匠はお見通しだ。というか、俺がだらだらとサボって無聊な時間を過ごしていたとは思っていないのだ。そんな信頼は要らないのだが。

「今日はまだ始めただけですよ。ちゃんと教えてください」

 俺は深夜からでも修行をするなら、そのつもりだった。倒れるように眠ることが多いのだが、死にはしない。
 なんだか前世で徹夜続きだったことを思い出して嫌な気持ちにはなるが、今はなんだか少し楽しい。やったらやっただけちゃんと成果が出る。だから言われるまでもなく修行を続けるのだ。

 修行ハイというやつかも知れない。そんな言葉があるかどうかは知らないが。

 その夜はとりあえず隠形魔法を完璧にしたいので、それ修行だ。師匠からも隠れられるようになれば俺の隠形魔法は超一流だと言える。

 隠形魔法を使いながら、師匠の後ろからそっと近づく。隠形魔法は触れているものも隠せるので当然服や持っている剣なども隠れる。

 後ろから剣を振り上げて打ち込む。頭を勝ち割るくらいの強さでだ。当然師匠は躱してしまうと思ってのことだが、万が一当たってしまったら大怪我するかもしれない。

「おっと」

 師匠は難なく避ける。老人にしては動きが早い。俺のことが認知できているのだ。ただ、やはり年齢なのか余裕をもってではなくギリギリで避けている。

「おい、儂を怪我させるつもりか、今本気で打ち込んだだろう」

「はい。当然です。師匠なら避けると信じていましたから」

「まあ、避けられるのは違いないが。それにしても強く打ちすぎていないか?」

「いいえ、大丈夫です。師匠ならちゃんと避けられますから」

 俺は少し意地悪く言う。判っていても避けられないこともあるのだ。

「今度はどうですかね」

 俺は今までの隠形魔法に闇属性の魔法を混ぜ込んで黒い隠形魔法とも言うべき魔法を使ってみた。

「うむ。なんだから格段によくなったな。儂からは隠れないが、そこらの上級であれば気づかれないかも知れん」

「本当ですか。では打ち込んでも?」

「いやいや、それはもうよい。今の魔法を無詠唱で使えるようにしておくように。闇属性をもっと強くできれば暗く深い隠形になるであろう」

 まさか、師匠が避けられるかどうか心配になってくるくらい俺の隠形魔法は上手くなってきているのだろうか。師匠はああいったが、内緒で打ち込んでみるか。

「ちょっと、このまま出てきます」

 俺はそう言うと、師匠に判り易いようにドアを開けて、部屋からは出ないでまた閉めた。

 そして、そおっと師匠に近づく。後ろで束ねられた師匠の髪を後ろから引っ張ってみた。

「痛っ、なんだ」

「すいません師匠、俺です」

 師匠は全く気が付いていなかった。

「おい、今出て行ったんじゃなかったのか」

「そのまま部屋にいました」

「うむ、油断してしもうたわ。油断だ、油断」

「すいません、今度は本当に行ってきます」

 俺は少し笑いを堪えながら今度は本当に部屋を出た。師匠にも気づか れない、ということは、特級でも大丈夫ということか。

 俺はワリスの居る屋敷を出て、別棟に行ってみた。そこはお抱え魔法士がいる屋敷だ。何人かはワリスと同じ屋敷でワリスの隣の部屋に待機しているのだが、普段はこの別棟の一つに居ると聞いている。

 俺はその屋敷の部屋を一つ一つ探索することにした。この屋敷には使用人たちが多く暮らしている。ここに居るのは主に庭師や馬車の御者たちだ。他にも幾つも建物が建ち並んでいる。全部で多分百人は超えているらしい。

 一階の右側から順番に部屋に入る。当然鍵は掛かっているが問題は無い。最初の部屋には顔見知りの御者が眠っていた。

 眠っている時に悪いとは思ったが、鼻を摘まんでみる。御者は一旦起きたが、周りに誰も居ないことを確認し不思議そうな顔をしてそのまま寝てしまった。うん、魔法使いでなければ全く気が付かれない。

 次の部屋には庭師がいたが、やはり起きても気が付かない。大丈夫だ。

 どうも一階には魔法士がいないようなので2階へと向かう。ここには多分10人の中級や3人の上級がいる筈だ。特級魔法士のオメガ・サトリームはワリスと同じ屋敷なのでここには居ない。

 2階に上がると一番手前の部屋に入る。いかにも魔法士の屁や、という感じの部屋だ。魔法士独特のローブや杖のようなものも置いてある。

 この杖が、いいものであれば相当高いらしい。そして高ければ高いほど自らが発する魔法を増幅してくれる機能があるのだ。師匠も持っているが、片時も手を離さない所を見ると相当な優れものの杖だと判る。

 中級か上級かは判らなかったが、魔法士には違いないので、やはり鼻を摘まむ。魔法士は飛び起きた。

「だっ、誰だ?」

 やはり俺には全く気が付かない。

「オメガ様ですか?悪戯は止めてください、眠れるときにちゃんと眠ることも仕事のうちだと仰ったのはオメガ様じゃないですか、いつもいつも勘弁してください」

 どうも特級魔法士のオメガも夜中に度々配下の魔法士の部屋を訪れて悪戯をしているようだ。

「もう寝ますから出て行ってくださいね」

 そういうと、その魔法士はまたベッドに入った。完全にラムダの悪戯だと思っている。オメガであれば認知できなくとも仕方ない、という感じだ。うん、なんだか大成功のようだ。

 他にも数人試してみたが、ほぼ全員か同じ反応だった。どうもラムダは相当悪戯好きのようだ。

 俺は一旦部屋に戻って最後の難関であるオメガの部屋に行くことにした。ここで上手く行けば俺の隠形魔法は完成だ。
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