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第一章

第十七話

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「アストリカ、あなたにはしょせんみじめな平民の気持ちはわからないわ。そうでなくてもあなたは浮き世離れしているのに。そう、現実はあなたがいつも読んでいるわけのわからない異常な恋愛小説とは違うのよ」

「そんな――」

 アストリカは悄然と黙り込んでしまいます。

 そのとき、わたしは憤然とその場に立ち上がりました。たったいま、我慢の限界を突破したのです。

 アストリカはわたしの最初の友人です。その友人を公然と侮辱されて黙っていられるはずがありません。

 貴族派だろうが平民派だろうが、王侯派だろうが庶民派だろうが知ったことではありません。

 わたしの友達を誹謗する人は、わたしの敵。とても単純でわかりやすい話ではないでしょうか。

「な、何、あなた?」

 椅子に座ったまま、わたしの勢いにちょっと怯えた様子で後じさりかけたその少女に向け、わたしは一気呵成に云い放ちます。

「わたしはクンツァー伯爵家の娘でリラマリアと申します。わたしの友人のアストリカを侮辱するのはやめてください! 彼女はたしかに貴族の生まれですが、平民を差別して見下したりするような人ではありません。むしろ、あなたのほうこそ貴族に対し偏見を抱いているのではありませんか。たしかに料理の汁をかけてしまったことは申し訳ありませんが、それはアストリカ自身のせいじゃないし、何よりこうして謝っているじゃありませんか。あなたもここは度量を示してその謝罪を受け入れたらどうです? それから、アストリカの趣味について何やら偏見を開陳されたようですけれど、他人の好きなものを謗るのは狭量というものです。恥ずかしいとは思わないのですか」

 あまりの勢いに、わたしのまわりがしいんと静まり返りました。幾人か、面白そうに見つめている人たちもいます。

 しまった、目立たないようにするはずだったのに、と思いましたが、もう遅きに失していました。

 ひょっとしたら、わたしはいま、貴族派と平民派のいさかいに巻き込まれるどころか、自らその渦のなかへ飛び込んでしまったのではないでしょうか。

「な、何よ」

 一気にまくし立てられたその生徒は唖然としてほとんど言葉も出ないようです。

 また、アストリカは、なぜかちょっと失笑を抑えているように見えました。

 彼女はそのとなりの生徒に無理やり手巾を押しつけると、自分の料理を手に持って立ち上がりました。

「ごめんなさい、あなた。わたしたちはあちらへ行くわ。洗濯代が必要ならいつでも云って来て。その手巾は、捨ててしまっても良いから」

 そして、わたしに向かい目配せします。

 あわててわたしもわたしも自分の盆を持って立ち上がりました。

 内心では激しく後悔していましたが、ひょっとしたら、まわりからは昂然とした高慢な貴族の令嬢に見えていたかもしれません。

 とほほ。
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