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第一章 聖女の誕生と異端審問

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祭壇から降りてから、一向にマリアが引き渡されない。
(それに、魔王討伐はしないって話だったのに…)
嫌な予感を振り払うようにシンシアは頭を振るった。
(もしかしたら、入れ違って既に宿舎戻ってるのかも)
そう思って官公区の宿舎に戻り、双子の部屋の扉をノックすると、閉じかけの扉がキィと音を立てて開いた。
「サルエル、なんか変なのよーー。ねぇ、ロッテン君?マリアちゃん!!」
誰も居ない室内、何が起こったのかもわからず、シンシアはしばらく立ち尽くした。


ロッテンが牢屋から引き摺り出されたのは、おそらくマリアの列聖式から丸一日が経った頃だと思われる。
「これより異端審問を行う」
荘厳な空間を演出する、どこまでも高い天井。
どんだけ金をかけたのかって位に凝ったステンドグラスや金の装飾。
礼拝堂の扉は閉ざされて、今は限られた者達だけが顔を揃えている。

無理やり跪かされて仰ぎ見た祭壇には、仁王立ちして発言をする青い祭服の神官。
その表情は1ミリも動かない。
(厳ついオッサンのクセに、おかっぱ頭なのがまた…悪趣味というか、怖ぇわ)
ロッテンは置かれた状況をまだ把握できず、ぼんやりとそんな事を考えていた。
出掛けに嗅がされた薬のせいか、頭が重だるく、声が出ない。
「此度の審問は、この者が魔王をその身に宿しているのかを確認するために開廷するものである」
(どうやって確認するんだ?まさか、教皇に証言させてお終いとかじゃないよな?)
ロッテンの思いは伝わらない。
枢機卿手を広げ、更に饒舌に語った。
「この者が、魔王を宿さぬ子供ならば、どんな困難があろうと神がお救いくださるだろう。逆に、神の目を欺き生まれ落ちた悪魔であるならば、この場で粛清される事となる」
(枢機卿のジイさん、絶好調だな)
身振り手振りを交えてのプレゼンは、なんとなく態とらしく見えた。
「まずは水の神に問うとしようではないか!」
枢機卿の示した先には、ロッテンがすっぽり収まるほどの大きな木樽があり、その中は水で満たされていた。
「あの樽は聖水で満たされている。あそこにこの子供を沈めようぞ。魔の物であれば全身を聖水で焼かれ滅されよう。逆に水神がその子を救うならば、生きて浮かび出ることが出来るはずだ」
その言葉に応じる様に、緑色の祭服の司祭がロッテンの体に重石をつけた鎖を巻き付け始めた。
(は?何やってんの、これ確実に死ぬじゃん)
枢機卿の殺るき満々の顔が目に入る。
何がなんでも魔王の憑代としてロッテンを殺し、教皇に成り代わるつもりなのだろう。
「さあ、では神の答えを見てみよう!」
高く挙げた手を振り下ろして、枢機卿は高らかに宣言した。

ーードボーン

突き落とされて、ゴボゴボと音を立てながら樽底に落ちる。
更に頭の上から、棒の様な物で押さえつけられた。
(やべっ!とりあえず、まずは鎖か)
巻き付けられた鎖を握り、腐食のスキルを発動する。
(ラッキー!!これ、魔法無効かかってないんだ)
ジャラリと重石のついた鎖は樽の底に残り、ロッテンは手足を動かせる様になった。
(このあたりか?)
樽を締めている箍の辺りに手を当てて、今度は腐敗スキルを発動する。

ーーベキベキッ!ジャバァッ!!

箍の外れた樽は、広がる様に壊れて中の聖水が漏れ出す。
残されたロッテンはヒュッと息を吸った。
「げはっ!はぁっ…ごほごほごほ!」
飲み込んだ聖水にむせながら、大の字に倒れた。
「なるほど、まずは水神の試練は突破した様だ。では、次に風神に問おう…」
(もしかして、七神全部に託けるつもりなのか!?)
ロッテンの予感は大当たりとなった。

風の試練は高い崖の上から落とされる試練だった。
曰く、風神に落下を軽減してもらえるかを見るものだそうだ。
ロッテンは崖の下の木々を腐食させてふかふかにし、落下の衝撃を耐えた。
あまりに軽々と試練を乗り越えられ、枢機卿は真っ赤な顔で震えていた。
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