上 下
47 / 125
揺れ動く心

16

しおりを挟む
「…悠河!」

俺が一人で壁に持たれて華やかなパーティーの様子を見ていると、向こうの方から瀬川が走って来て。

俺がそれを見てゆっくりと壁から起き上がると。

瀬川は俺の前まで来て、肩で呼吸を繰り返した後。

「…お前、瑞紀ちゃんは?!」

…は。

お前と一緒にいるんじゃなかったのか。

拳を握りしめて、眉を寄せながら。

「…知らないよ。」

「俺達と別れてから、一度も会ってないのか?!」

「だから、そうだけど。」

「…っ瑞紀ちゃんがいなくなったんだよ!絶対にここにいろ、って言ったのに!」



何で、こいつはそんなに慌ててるんだ。

「…ほら、悠河!」

俺の腕を持って走り出そうとする瀬川を睨みつけながら。

「子供じゃないんだから、ほかっとけば良い。戻って来るでしょ、そのうち。」

「…っば、お前!「自分でいなくなったんだから、何かあっても自業自得だよ。」

黙り込む瀬川を見ながら。

「どうせ、副社長の息子の所でしょ。」

俺がそう言うと、瀬川は意味が分からない、とでも言うように低い声で聞き返した。

「…は?」

鬱陶しい。

呆然とする瀬川を置いて歩き出すと、慌てて後ろから着いて来る。

「…どういう事だよ、おい、悠河!」

うるさい。

お前に関係ないだろう。

首を突っ込んでくるな。

「うるさいな。離婚する事にした、それだけだよ。」

俺がそっけなくそう言うと、瀬川は大きい声で
「は?!何言ってんだよ、お前!!」

「だから、そのままだよ。この前瑞紀が会社に来た時、瑞紀の事を見てて気に入ったらしい。
俺より若いし、かっこ良いし、瑞紀もその方が良いだろうと「瑞紀ちゃんの意思を勝手にお前が決めんなよ!」

そう言って瀬川にネクタイを引っ張りあげられて。

本当に鬱陶しい。

そう思いながら、瀬川から顔を逸らすと。



「どうせ瑞紀ちゃんに、何も言わせてないんだろ!お前な、あの子はな!」

「…」

瀬川も何も言わず一点を見つめる俺を不審に思ったのだろう。

俺と同じ方向を見つめて。

息を呑んだ。

俺と瀬川の視線の先には。

瑞紀が。

バルコニーで。

俺の知らない男と。

キスをしていた。
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

傷痕~想い出に変わるまで~

櫻井音衣
恋愛
あの人との未来を手放したのはもうずっと前。 私たちは確かに愛し合っていたはずなのに いつの頃からか 視線の先にあるものが違い始めた。 だからさよなら。 私の愛した人。 今もまだ私は あなたと過ごした幸せだった日々と あなたを傷付け裏切られた日の 悲しみの狭間でさまよっている。 篠宮 瑞希は32歳バツイチ独身。 勝山 光との 5年間の結婚生活に終止符を打って5年。 同じくバツイチ独身の同期 門倉 凌平 32歳。 3年間の結婚生活に終止符を打って3年。 なぜ離婚したのか。 あの時どうすれば離婚を回避できたのか。 『禊』と称して 後悔と反省を繰り返す二人に 本当の幸せは訪れるのか? ~その傷痕が癒える頃には すべてが想い出に変わっているだろう~

イケメン御曹司、地味子へのストーカー始めました 〜マイナス余命1日〜

和泉杏咲
恋愛
表紙イラストは「帳カオル」様に描いていただきました……!眼福です(´ω`) https://twitter.com/tobari_kaoru ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 私は間も無く死ぬ。だから、彼に別れを告げたいのだ。それなのに…… なぜ、私だけがこんな目に遭うのか。 なぜ、私だけにこんなに執着するのか。 私は間も無く死んでしまう。 どうか、私のことは忘れて……。 だから私は、あえて言うの。 バイバイって。 死を覚悟した少女と、彼女を一途(?)に追いかけた少年の追いかけっこの終わりの始まりのお話。 <登場人物> 矢部雪穂:ガリ勉してエリート中学校に入学した努力少女。小説家志望 悠木 清:雪穂のクラスメイト。金持ち&ギフテッドと呼ばれるほどの天才奇人イケメン御曹司 山田:清に仕えるスーパー執事

誰にも言えないあなたへ

天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。 マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。 年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

【完結】伯爵の愛は狂い咲く

白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。 実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。 だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。 仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ! そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。 両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。 「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、 その渦に巻き込んでいくのだった… アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。 異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点) 《完結しました》

友達の肩書き

菅井群青
恋愛
琢磨は友達の彼女や元カノや友達の好きな人には絶対に手を出さないと公言している。 私は……どんなに強く思っても友達だ。私はこの位置から動けない。 どうして、こんなにも好きなのに……恋愛のスタートラインに立てないの……。 「よかった、千紘が友達で本当に良かった──」 近くにいるはずなのに遠い背中を見つめることしか出来ない……。そんな二人の関係が変わる出来事が起こる。

処理中です...