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二人の間にある距離

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三日後。

俺が深夜1時ごろにマンションの鍵を開けて、いつもの様に自室へと直行しようと、ドアノブに手をかけた時。

カチャリ。

「…。」

隣の部屋のドアが開いた。

そんな事気にもせずに、ドアの中へ入ろうとすると。

「…あの、と、もやさん…」

控えめに声をかけられて。

何だ。

疲れているのに。

そう思いながらも開かれたドアの中に視線を投げたまま動きを止める。

「…お帰りなさい。仕事、お疲れ様です。」

疲れてるのが分かっているのに声をかけたのか、鬱陶しい。

俺は瑞紀の言葉には返事もせずに
「要件は何。疲れてるから手短に言ってくれる。」

そう言いながら俯く瑞紀を見下ろす。

瑞紀は少し戸惑いながらも口を開いて。

「…あ、の。学校からもらったプリントで、知哉さんに見てもらいたい物があって…」

は?

学校のプリントを?

俺が見る?

そんなの、まるで保護者だ。

まぁ、あながち間違ってないけど。

見なきゃいけない物はしょうがない。

「…分かった。さっさと持って来て。俺は部屋にいるから。」

瑞紀の返事も聞かずに部屋の中に入りドアを閉めた。

コートを壁に掛け終わった時。

コンコン

静かに部屋のドアがノックされて。

良いよ、と返事をする。

すると瑞紀は妙に赤い顔で部屋のドアを開いて。

俺はベッドに腰掛けながら瑞紀が部屋に入って来るのを待っていたのだが。

…。

何で入ろうとしない。

さっさと終わらしてくれ。

俺はため息をつきながら、
「何してんの。」

「…あ、」

瑞紀は手に持ったプリントを握りしめながら、身じろぎをする。

「早く入って来てドア閉めて、そのプリント、見せてよ。」

「…」

俺の言葉に瑞紀は観念した様にゆっくりとドアを閉めて俺に近づいてプリントを差し出した。

そのプリントを受け取って、書かれている文字を見る。

「…は。」

思わず声が漏れた。

いやいや。

この仕打ちは流石に無いだろう。

絶対に嫌だ。

俺は眉間にしわを寄せながら、
「…嫌だよ。絶対に、行かない。」

「でも先生が、進路の事を話すから今回だけは絶対来てもらえ、って私だけ念押されて…」



「…“今回だけ”?」

「…いつも、断わってましたから…」



ぴらっとプリントに書いてある、三者面談、という文字を見つめて。

今の話を聞いてる限り、無理だろうけど一応聞いてみる。

「君のお父さんとお母さんに来てもらう事は「無理です…っ!絶対に…」

瑞紀が握りしめている手をちらっと見ながら。

こういうのにも出席しない旦那と思われるのも。

来週の火曜日と水曜日と木曜日ね…

会社の予定は…

プリントに目を通しながら、そう頭で考えていると。

瑞紀は小さな声で。

「…あの。」

「…」

無言で視線を向ける。

「やっぱり、無理ですよね。仕事だってあるでしょうし…私、断ります。先生と私だけで「あのさ。」

俺が言葉を遮ると瑞紀はピクリと体を揺らす。

「うるさいね、何も言ってないのに勝手に自分で俺の返事を決めないでよ。」

「…すみません。」

そんな瑞紀にプリントを差し出して。

「水曜日。」

「…っえ。」

瑞紀はプリントを受け取りながら、驚いた様な顔で俺を見返す。

「水曜日しか空いてないから、絶対にその日にして。その日以外だったら行けない。っていうか行かない。」

俺がそういうと。

瑞紀は内容を把握した様で心底嬉しそうな顔をして、
「ありがとうございます…っ!」
と言った。

そんな瑞紀を横目に、ベッドから立ち上がって
「…シャワー浴びるから。君ももう寝なよ。」

そう言いながら瑞紀の横を通り、部屋を出ようとドアを開けて瑞紀を待つ。

にも関わらず一向に自分の部屋に戻ろうとしない瑞紀を少し睨みながら。

この女。

まさか、ここにいるわけじゃないだろうな。

そんなの最悪だ。

絶対にやだ。

「…ちょっと。ドア、開けてあげてるんだから早く出なよ。」

「あ、はい…、すみません…」

そう言いながら瑞紀が急いで外に出る。

その様子を確認してから自分も外に出てドアを閉めてお風呂場に直行しようとすると。

「…っ本当に、ありがとうございます。」

背後からの言葉に、思わず足を止める。

「おやすみなさい、知哉さん。」

その言葉に。

思わず、おやすみ、と返してしまった。

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