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二人の間にある距離
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「んー」
目の前の、部長、と書かれた椅子に上品に座り口の前で手を組んでいる上司は、俺の今月のノルマが表示されたパソコンの画面をしばらく見て。
「今月も頑張ったね。お疲れ様。」
そう言って笑った。
「…ありがとうございます。」
そう言いながら頭を丁寧に下げる。
「悠河君、今月もこれでまた記録更新だね。」
優しく、俺に笑いかけてきて。
「部長や周りの同僚のおかげです。」
俺は入社当初から毎月の成績を上げ続けている。
「このままじゃ、君を上司として扱う日も遠くないねぇ。」
そう言いながら俺のパソコンを渡してくる。
そのパソコンを受け取りながら。
「いえ、そんな。」
そう言いながら礼をして自分の机に戻ろうとすると。
「そう言えば、悠河君。」
そう呼び止められて振り返る。
「…はい。」
「瀬川君から聞いたんだけど、
結婚したんだって?」
余計な事を。
苦々しく思いながらも。
「…はい。」
俺がそう答えると。
「扶養家族の書類もあるから、そういうのは言ってね。」
「…すみません。」
頭を下げると。
部長は笑いながら。
「それに祝い事なんだから、もうちょっと浮かれても良いんだよ。私も祝いたい。結婚式はいつの予定なの?」
祝い事?
浮かれる?
結婚式?
何で。
したくもない結婚させられて。
しかも顔も何も知らなかった女と。
最悪だ。
こんなもの、最悪以外の何者でもない。
「浮かれる事でも無いので浮かれていないだけです。祝っていただくほどの事でもありません。ただしょうがなく籍を入れて一緒に暮らしてるだけです。」
俺が素早くそう言うと。
部長は面食らったように目を見開いて。
「…悠「結婚式も挙げません。挙げる必要が無いので。無駄な支出としか思えません。」
俺がそう言うと。
「それで、奥さんは納得してるのかい?」
奥さん、ね。
俺にはそんなのいない。
厄介な子供の同居人が出来ただけ。
「さぁ。聞いた事もありませんし、聞こうとも思いませんから。」
部長は眉を下げながら。
「悠河君、それじゃあんまりにも可哀想だよ。女性に取ったら結婚式は、一世一代の重要なイベントだよ。」
「結婚式にそこまで思い入れがあるのなら、俺と結婚してないはずですから。」
俺の言葉に訝しそうな顔をした部長に向かって。
「恋愛結婚じゃありませんので。政略結婚です。お互いの間に愛情なんて無いし、湧いてもこない限り、そんなものありません。」
俺はそれだけ言って、まだ何かを言ってきそうな部長に一礼して自分の机に戻った。
目の前の、部長、と書かれた椅子に上品に座り口の前で手を組んでいる上司は、俺の今月のノルマが表示されたパソコンの画面をしばらく見て。
「今月も頑張ったね。お疲れ様。」
そう言って笑った。
「…ありがとうございます。」
そう言いながら頭を丁寧に下げる。
「悠河君、今月もこれでまた記録更新だね。」
優しく、俺に笑いかけてきて。
「部長や周りの同僚のおかげです。」
俺は入社当初から毎月の成績を上げ続けている。
「このままじゃ、君を上司として扱う日も遠くないねぇ。」
そう言いながら俺のパソコンを渡してくる。
そのパソコンを受け取りながら。
「いえ、そんな。」
そう言いながら礼をして自分の机に戻ろうとすると。
「そう言えば、悠河君。」
そう呼び止められて振り返る。
「…はい。」
「瀬川君から聞いたんだけど、
結婚したんだって?」
余計な事を。
苦々しく思いながらも。
「…はい。」
俺がそう答えると。
「扶養家族の書類もあるから、そういうのは言ってね。」
「…すみません。」
頭を下げると。
部長は笑いながら。
「それに祝い事なんだから、もうちょっと浮かれても良いんだよ。私も祝いたい。結婚式はいつの予定なの?」
祝い事?
浮かれる?
結婚式?
何で。
したくもない結婚させられて。
しかも顔も何も知らなかった女と。
最悪だ。
こんなもの、最悪以外の何者でもない。
「浮かれる事でも無いので浮かれていないだけです。祝っていただくほどの事でもありません。ただしょうがなく籍を入れて一緒に暮らしてるだけです。」
俺が素早くそう言うと。
部長は面食らったように目を見開いて。
「…悠「結婚式も挙げません。挙げる必要が無いので。無駄な支出としか思えません。」
俺がそう言うと。
「それで、奥さんは納得してるのかい?」
奥さん、ね。
俺にはそんなのいない。
厄介な子供の同居人が出来ただけ。
「さぁ。聞いた事もありませんし、聞こうとも思いませんから。」
部長は眉を下げながら。
「悠河君、それじゃあんまりにも可哀想だよ。女性に取ったら結婚式は、一世一代の重要なイベントだよ。」
「結婚式にそこまで思い入れがあるのなら、俺と結婚してないはずですから。」
俺の言葉に訝しそうな顔をした部長に向かって。
「恋愛結婚じゃありませんので。政略結婚です。お互いの間に愛情なんて無いし、湧いてもこない限り、そんなものありません。」
俺はそれだけ言って、まだ何かを言ってきそうな部長に一礼して自分の机に戻った。
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