社内で秘密の恋が始まる

美桜羅

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10*雫サイド*

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勢いで、わかりました、と言ったはいいけどどうしよう…

松永さんとのご飯の帰り、比較的すいてる電車の中で私はぼんやり考えていた。

東京に一人暮らしのOLのお弁当なんて本当にたいしたものではないのに。

謙遜でもなんでもなく、ただ食費を浮かせたくて毎日惰性で作っているお弁当なのに。

おかずだって冷凍のものが多いし、女の子っぽくないし…
とても人様に渡せるものでは…

そこまで考えて、豪華なご飯を奢ってもらう申し訳なさと勢いで、わかりましたと言ってしまった過去の自分の口を殴りたくなる。

…でも仕方ない、言ってしまったものは…

そう観念して、冷蔵庫に残っていたものはなんだったか必死に記憶を辿る。

っていうか、そもそもお弁当箱…
二個もない…

どうせ毎日洗うし、消耗品だし、悪くなれば買い換えればいいと思って一個を洗って毎日使っているのだ。

あーどうしよう
まぁいいか、パックで…
家にピクニック用の可愛いパックがあったはず…

ごめんなさい!松永さん!
期待してくれているようなもの、私には無理です!

心の中で必死に松永さんに謝りながら、お弁当のおかずを考える。

まずは定番のものは入れたほうがいいよなぁ…
いつも松永さん何食べてるんだろ?

今日のお昼ご飯のことを思い出すと、松永さんがお昼休憩の間一度も席を立っていないことに気づく。

あれ?
食べてないかったっけ?
機会を掴めなかった私はその後、松永さんに促されて時間をずらしてお昼休憩に行った。

だけど松永さんは、私が急いで帰ってきたときにはもう席に着いていた。

しかも、盗み見たパソコンの作業画面は私がお昼ご飯に行く前よりも進んでた…気がする。


お昼ご飯、食べない人なのかな…
それなら量はあまり多くないほうがいいよね…

今まで男性にお弁当なんて作ったことがない私は、何を入れればいいのか悩みに悩んで、ネットで検索してヒットした生姜焼きをとりあえず作ることにした。

ミニトマトを添えて、もともと作るはずだったほうれん草入り卵焼きを入れれば見栄えはいいはず…

ひとまずメニューは決まったことに安堵を覚えて、電車の外の景色をぼーっと見る。

なんか…
恋人じゃなくても、男の人にお弁当作るのってドキドキするなぁ…

…松永さん、怖い人かもって思ったけどそんなことないのかも…

あと、手…好きかも…

コーヒーを持つ、少し血管が浮き出た白くて細い手。

…男の人の手だった。

ぼんやりと、そんなことを考えているうちに家の最寄駅に着いてしまった。

いつもより帰宅時間が遅くなって、心身ともに疲労は溜まっているはずなのに何故か足取りが軽い自分を少しおかしく思いながら。

…これから、楽しみだな。
仕事、がんばろう。
できなくても、精一杯やろう。

そう決意する。

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