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パンゲール大陸攻略編

魔界の神々との最終決戦ーその④

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パキラとシリウスは暫くの間、剣を打ち合っていたのだが、やがてパキラの剣がシリウスの剣によって弾き飛ばされてしまう。
シリウスは砂浜の上に倒れたパキラに向かって剣先を突き付けて、
「分かったか?小僧……これで私と貴様との間には明確な差というものがある事に気付いたであろう?私は神に許されるし存在……それに比べて貴様はどうだ?神の手は差し伸べられず、私一人に負けて、這いつくばっている……惨めだとは思わぬか?」
パキラは首を大きく横に振ってシリウスの問い掛けを否定した。
「違うッ!オレは自分が惨めだとは思わない!間違っているのはお前だッ!シリウス!お前には必ず神罰が下る!」
「笑わせるな。神罰だと?私は神に気に入られし存在……貴様とでは格が違うのだ。そして、そのお主を助けない所を見るに、お主を守護する光の神とやらも大した事がない様に思うのぅ」
シリウスの顔に浮かんでいたのは明らかな嘲笑が含まれた笑い。
悪魔に相応しい陰湿でいやらしい勝者の笑み。
だが、パキラはそれを見て襲い掛かっていったりはしない。
少年は至極冷静な様子でシリウスを狩る瞬間を狙う。あの神に等しい竜の形をした怪物でも何処かに隙はあるだろう。
時間を飛ばす魔法は光の力により、奴の空間の中に潜り込み、奴と同じ土台に立てるから奴はもうその時間を使えるのは自分だけだと油断する隙はない。
では、奴が竜の力を使用して空中にでも飛び上がったらどうだろう。飛び上がる瞬間のみは奴にも隙が出来るだろう。
いや、あの僅かな時間に掛かるのは至難の業。それに、剣であの不気味な体を突き刺したとしても今の状況のあの男はそれさえもチャンスに変えてしまうだろう。
油断のならない男であるから、それくらいの事はしそうだ。では、火炎を吐く瞬間はどうだ。
火炎を吐く瞬間、あの一瞬だけは流石に手足を激しく動かす事は不可能に近いかもしれない。
だが、飛んだまま火炎攻撃をしたために、その考えさえも打ち消されてしまう。
パキラが頭を抱えていると、彼の頭に天啓とも言える提案が思い浮かぶ。
彼は辺りを見渡し、背後にシリウス自身が率いている密接した大船団の姿を目視する。
大船団の上には無数の大砲。あれを利用する事が出来れば……。
パキラはシリウスに背中を向けるのと同時に急いで大船団へと向かう。
それを見てシリウスは口元を緩める。
彼にはお見通しであった。パキラの視線が大砲へといっている事に気が付く。
シリウスはパキラを追って、大船団の上空に佇む。
そして、彼が船上で多くの大砲や弾薬、油に囲まれている姿を見て確信する。
あれで自分を殺すつもりである、と。
シリウスはあの船ごと、焼き殺すつもりで大きな火炎を下へと吐いていく。
だが、シリウスは自分が火を吹く瞬間に、パキラが意味深な表情を浮かべている事に気が付く。
シリウスはパキラの笑みの中に含まれた真意を察した。
だが、時既に遅し。シリウスの火炎はパキラが海の中に飛び込むまでに彼が用意していた多くの弾薬や油に囲まれた場所に直撃し、シリウスの大船団を焼いていく。
中でも運が悪かったのは先程、焼いた船に油が転がっていた事。
パキラはシリウスの火炎が到達するまでの僅かな時間を利用して、樽の中に入っていた油を海上にばら撒き、一隻に付いた火が延焼する様に仕向けたのだ。
たちまちのうちにシリウスの大船団が焼けていく。
シリウスの用意したオークたちが阿鼻叫喚の悲鳴を上げながら、海の中へと飛び込む。
船の中に用意したのは戦闘用のオークであるから、犠牲者の大半は理性のない怪物となる。
パキラは逃げる最中に、この事を思い付いたのだろうか。
シリウスは歯をギリギリと鳴らしていく。と、言うのもまるで、赤壁の船団の炎上の場面をリアルで見ているかの様に感じられたからだ。
曹操が呉に攻め入った時に自分たちより遥かに少ない筈の劉備と孫権の連合軍に負けた時の気持ちを痛い程に理解できた。
おまけに今は東南の風すら吹いていない。つまり、風すら吹いていないのにも関わらず、火はここまで広がり、大船団は大きな衝撃を受けたのだ。
シリウスはこの雪辱を晴らすために、いち早く海中へと逃げた生意気の少年の存在を捜す。
そして、彼は砂浜に戻り、剣を構えて深い意味を込めた笑みを浮かべた少年の姿を見つける。
彼は急いで地面へと降りて、無言で炎の形を模した剣でパキラへと斬りかかっていく。
パキラにはもう武器がない。彼が両手で握っていた剣は砂の地面の上に転がってしまっている。
だから、このまま自分が怒りのままに剣を振るったとしても、目の前の勇者を気取る生意気な餓鬼に対抗手段などない筈だ。
が、シリウスの確信はいとも簡単に打ち破られてしまう事になる。
彼と少年の間に黄金に輝く煌びやかな剣が突き刺さり、少年は砂の上に刺さった聖剣を手に取り、シリウスの迎撃に向かう。
シリウスとパキラとは激しく打ち合った末に、今度はパキラが両手に持っていた聖剣が金色に光り、眩いばかりの輝きをシリウスへと浴びせていく。
シリウスは悲鳴を上げてのたうち回っていく。
「ば、バカな!?あれはただの光の筈、何故か様な衝撃を受けておる!?」
「神の力だよ。シリウス……オレを助ける光の神がお前を倒すための力を与えてくれたんだッ!」
それを聞いたシリウスは慌てて手に持った剣でパキラへと斬りかかっていくが、シリウスが手に持っていた剣はパキラの手により粉々になってしまう。
次にシリウスは翼から無数の剣先を放出したのだが、それすらも容易にパキラは弾いていく。
その上、シリウスの放った剣先を全て地面の上に斬り落としてしまう。
シリウスは次にその竜の様に鋭い爪をパキラへと向けていくが、そのどれも両手に持っている剣の前に弾かれていく。
シリウスは今度は炎の攻撃を試みる。
これには流石のパキラも困惑した様で剣を真っ正面に添えて彼の吐く火炎が通るのを待っていく。
が、それでも効果は見込めない。シリウスはここで切り札を使う事にした。
この切り札は本来ならば、大陸を制するために必要なものであった筈であるのに、今、目の前の少年を始末するために使う方が先決だと判断したのだ。
彼は自らもう一度、炎を吐き出し、剣を作ったものの、それを頭上へと放り投げる。
すると、それを黒色の雷が包み込み、炎の形を模した剣を槍に変えただけではなく、それを漆黒の色に包まれた前方と後方に先の存在する槍へと変貌させ、それを両手で持ってパキラに向き合う。
「待たせたな。小僧……これこそが、かつてテスカトリが帝国で猛威を振るいし時に使いし暗黒の槍だ。闇の力が存分に伝わってくるであろう?これで決着を付けようではないか?」
パキラは首を縦に振って肯定した。
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