上 下
82 / 99
パンゲール大陸攻略編

勇者パキラの決戦ーその⑩

しおりを挟む
才蔵は素早くその場を離れるのと同時に宿屋に着くのと同時にフロントの人間に尋ねた後にお萩の止まっている部屋を尋ねて部屋の中に駆け込む。
そこでは椅子の上に座っている長い金髪の女性とそれに目線を合わせて尋問する前世の妻にして今世の妹の姿。
彼女は狭い部屋の中で忍び式のやり方でヴィクトリアを問い詰めていた。
時に鞭を、時に飴を用いたやり方は戦国の世においては忍びが敵の口を割る際に最も効果的なやり方とされており、捕まってしまえばいかに屈強な修練を積んだ忍びといえども吐いてしまう。
なので、捕まりそうになった時は自害をする様に言われていたという。
才蔵は応仁から元和の日本という国が戦乱に覆われた時代の記録をかつて里で読んだ事があり、それをお萩にも読ませていたから、今回、彼女の尋問が上手くいこうとしているのだろう。
最も、尋問を行なっている場所が甲賀の里ではないので今回は話術と僅かな手作りの道具のみを使用して椅子の上に座っている女から言葉を引き出そうとしているらしい。
才蔵は扉を閉め、扉のすぐ側の壁に背中を預けながら、尋問の様子を眺めていく。
すると、椅子に縛られた金髪の女性は泣き喚き、お萩に情報を喋っていく。
シリウスの征服のやり方、シリウスが城を落とすために使用した方法、そして彼がどの様に自分を甦らせたのかを。
わっと泣くヴィクトリアをお萩は優しく抱き締めた後に側に立っていたかつての師に頭を下げる。
「良い。情報は全て引き出せたらしいな。これをパキラや孝太郎に伝えれば良いな」
「ええ、私たちで一刻も早く行きましょう!」
お萩は短刀を構えたのだが、才蔵はそれを右手で静止させて、
「すまぬが、次の戦いは儂一人のみを行かせてもらえぬか?お主をもう戦いには巻き込みたくはーー」
「嫌ですッ!」
お萩の鋭い眼光が才蔵を射抜く。
「あなた様とは前世で契りを交わし、今世においては兄妹として同じ母から産まれた身ではありませぬか!なして、そのような事を申されますか!?」
お萩の言葉は正論だ。才蔵は思わずたじろいでしまう。今世においてはローレンスという名前であり、生まれも育ちも前世とは雲泥の差であるのだが、奇しくも前世の記憶を思い出し、夫婦兄妹という差はあれども、共に運命を共にする男女という事に変わりはあるまい。
加えて、お萩もあの甲賀の里の襲撃の夜に死に別れた時の様な未熟な忍びではない。
お萩を置いていくという意見に対し、これ程の反対意見が出た今、彼女を止める理由はただ一つしかない。
才蔵は椅子の上で両肩を落とし、ぶつぶつと呟いている金髪の女性を指差して、
「彼奴はどうするつもりじゃ?儂とお主の両名が行けば、あの女が逃げ出し、シリウスの奴に加担する可能性は高かろう?」
お萩は反論ができずにいる。と、言うのも才蔵の意見は的を射ているからだ。
両方のどちらかが行けば、確実にヴィクトリアは決戦の場に馳せ参じるだろう。
それだけは妨げなければなるまい。心苦しいが……。
才蔵かお萩のどちらかがその言葉を口にしようとする前に、その肝心のヴィクトリア本人が二人の前に現れ、不意を突いてお萩の持っていた短刀を奪う。
このまま反抗するのかと思って短刀を奪われたお萩は素手で身構え、才蔵は腰に下げていたサーベルに手を掛けたのだが、何とヴィクトリアは短刀を自らの腹に突き刺したのだ。
あまりの行動に思わず表情を曇らせる二人に対してヴィクトリアは弱々しい微笑
を浮かべて、
「これで最終決戦の場に行けますね?」
ヴィクトリアはもう一度微笑んだ後に自らの体を鞘にしている短刀を自らの手で引っこ抜き、それを地面の上に乱暴に落とす。
ヴィクトリアは腹を抑えながら、二人に向かってもう一度笑い掛ける。
「……私はあの男の部下となり、多くの人を不幸にし、殺しました。きっと、死後は地獄に行きます。いや、あのお方に生き返らせてもらった時点で私はもう既に地獄に堕ちていました。人を殺した廉によるものです」
切々と告白するヴィクトリア。彼女は瞳から透明な液体を溢しながら、
「あなた達二人の姿を見ていて思い出したんです。私とあの人との思い出を……」
息も絶え絶えに語る彼女をお萩は強く抱き締めて、
「もう良いッ!もう喋らないでください!それ以上、喋ったのなら、あなたの傷が……」
ヴィクトリアは首を横に振ってから、お萩の髪を優しく撫でて、
「マルグリッドさん。いえ、お萩さん……あなたは素晴らしい夫をお持ちですね。もし、あなた達二人と違う形で出会えていたのなら、私はもう少し楽だったと思います」
そう言ってマルグリッドは両目を閉じた。そして、その後に彼女が目を開ける事はもう無かった。
才蔵はヴィクトリアの亡骸を抱き抱えながら泣くお萩を暫く眺めた後に、黙って首を動かし、城へと伴う。
二人の忍びはヴィクトリアの死体を放置し、城へと向かって行く。
最後の決戦へと向かうために。












「己ッ!目障りなッ!」
シリウスは竜の腕を使用してパキラを振り払おうとしたのだが、パキラはその場から素早く離れるのと同時にシリウスの元へと斬りかかり、彼の神経を狭めていく。
竜の腕から伸びた鋭い爪で攻撃を防いだ少年をシリウスは忌々しい目で睨んでいた。
「邪魔なクソガキめッ!さっさとオレの前から消え去れ!」
「消えないッ!お前の罪を自覚させてお前を再び地獄へと送るまではッ!」
シリウスはギリギリと歯を噛み締めていく。目の前の少年は何を言っているのだろう。少年は何処までも纏わりつくつもりらしい。
まるで、明治の世にて自分の野望を邪魔したあの忌々しい鬼麿そのものではないか。
シリウスは改めて周囲の状況を確認する。先程の爆発で多くの被害を被り、皇帝は爆破の衝撃により死亡した筈だ。
他の二人は何とか生き残ってはいるが、代わりにジョージなる男が犠牲になったらしい。
シャーロットも霊蔵も生き残っており、瓦礫に覆われた城の中をあの忌々しい勇者の仲間と戦っている。
霊蔵はあの村で出会った少女と。シャーロットは前世にて因縁深い刑事と。
そして、自分は同じく前世にて自分の命を奪った忌々しい少年と似たような空気を纏っている少年と。
シリウスは少年の相手をする中で考えた。これでは竜王城での再現ではないかと。
あの城で自分も仲間も全滅し、結果として地獄へと堕ちた。
だが、あの世界と唯一違うのはあの世界では使えなかった魔法も今は使えるという事だ。シリウスは少年を確実に殺すべく、この世界で得た魔法を不意に使用する事に決めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

悪役令嬢の騎士

コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。 異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。 少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。 そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。 少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...