シリウス・イントルーダー・ロード〜暗黒神に見染められた前作のラスボスは異世界で猛威を振るう〜

アンジェロ岩井

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パンゲール大陸攻略編

勇者パキラの決戦ーその①

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パキラにとってそれは衝撃的な事であった。彼とその仲間が魔界の城に着いた折には魔界の玉座の間には腐乱した魔界四天王の死体が散乱しており、城自体がもぬけの殻となっていた状態であった。
パキラはそれを見て怒りを覚えた。
理由はどうであれ、玉座の間に置かれている死体は全てシリウスなる人間のかつての部下なのだ。なのに、彼ら彼女らは葬儀にかけられる事も埋められる事さえもなく玉座の間の上で転がっている。
同時に彼自身が感じていたのは自分がもう後、四日ほど早く着いていればという自分への怒りもある。
パキラはそんな思いを忘れないためにも、死亡した長い金色の髪の女性の手を握り、シリウスの打倒を決意していく。どうやら、それは他の仲間も同じらしい。
ここに到着するなり、泣き喚いていたライジアも今では冷静になり、ただ瞳の中に復讐の青く燃えた瞳を宿していた。
聞く事によれば、魔界の摂政は突然、新たなる魔王へと変貌し、人々を圧政で苦しめているのだという。
また、あの男は大勢の軍隊を引き連れ、大陸の北へと攻め込んでいったという。
パキラは魔王城の探索を終えた後にシリウスとシリウスの軍隊を追い掛けようと試みたのだが、その間際、つまり、城を去る前に彼は城の地下から助けを求める声を聞き、仲間たちと共に地下の牢獄へと向かう。
彼がそこで見たのは目を覆わんばかりの凄惨な光景だった。パキラと仲間の目に映ったのはあまりにも惨たらしく悲惨な光景。
そう、そこに至るまでの経緯は知らないのだが、全身傷だらけの少年と少女が牢獄の中に繋がれていたのだ。
パキラは慌てて二人を解放し、コウタロウに水を要求した。
コウタロウと呼ばれた赤い肌の青年は慌てて地下の粗末なバケツに水を入れてパキラに渡す。
慌てるパキラとは対照的に冷静なライジアが心地の良い絹の小さな布を手渡す。
それは彼女のハンカチなのだろう。だが、彼女は気兼ねなくそれを困った人を助けるために差し出す。
彼女はインフエットの死とその後のパキラとの旅を経てそれまでの傲慢な性格のお飾りの女魔王ではなく優しい心を持った少女へと変わっていたのだ。
パキラは彼女のハンカチを使い稚拙な応急手当を施していく。
ボロボロになった少年と少女は傷口に水が染みるために泣き喚く。
「もうやめてェェェェ~!!痛いのはいやッ!ごめんなさい!謝るから辞めてよォォォォ~!!」
泣き叫ぶ少年に向かってパキラはあくまでも優しい口調で宥めすかす様に言った。
「大丈夫、ここにキミを傷付ける人はいないよ。安心して」
パキラは少年を優しく抱き締めていく。少年はそれにつられて両目の瞳から透明の液体を溢していく。
だが、その次にパキラが発した言葉により、彼は再び取り乱してしまう。
「大丈夫、オレたちはもうとっくにじゃないか」
それを聞くと少年は乱暴にパキラを突き飛ばし、弱っている少女を庇う様に立ちはだかる。
「こ、これ以上、妹を傷付けるなッ!ぼくはもうお前なんか怖くないぞ!こうやって手足が自由になれば、ぼくだってお前と戦えるんだッ!」
「待ってくれ、オレはただーー」
「黙れッ!お前だってあの女の手先なんだろう?また、ぼくや妹に拷問をーー」
「違うよ」
パキラはそう言って少年と少女の二人を包み込むように抱き締めていく。
二人はその時に感じ取ったのだ。パキラの匂いを。優しい母の様な匂いを。
二人はようやく解放されたと知り、泣いて彼に自分たちの置かれた状況を説明していく。
全員がルーベルラント帝国の皇帝の養女の正体はシリウスの妹である事、その妹が二人の姉を殺した後に二人を拉致し、拷問を加えていた事を知った。
全員が怒りで震えていたが、全員が見せた怒り以上に怒ったのはコウタロウだった。
彼は両手の拳を振るわせて叫ぶ。
「やっぱり、シャーロットの奴だッ!あいつは元の世界と明治の世界だけじゃあ飽き足らずに、この世界でもこんな事をーー」
パキラは仲間の一人に向かって尋ねた。“記憶が戻ったのか?”と。
コウタロウはいや、孝太郎は真っ直ぐに首を縦に動かす。
孝太郎は記憶の件とシリウスとシャーロットについて覚えている事をパキラたちに語っていく。
「あいつら……他の世界でもそんな事を……」
「何がお友達よッ!冗談じゃないわ!どうして、お友達になるためにそんな事をされなくちゃあいけないのよ!」
パキラとライジアの怒りの声が地下牢の中で響いていく。
他の二人も概ね同じ反応であり、特筆するべき事はない。
だが、この地下牢の中の誰もの心にもペンドラゴン兄妹に対する怒りの感情で満たされていた事は言うまでもあるまい。
彼らは弱った皇族を介抱し、地下牢から出し、魔界に存在する病院に二人を預ける。
孝太郎は病院の待合室で他の仲間、四人に向かって言った。
「ここから先はオレとシリウスとの戦いだ。あいつは竜王スメウルグの力を取り込み、他にも時間を吹き飛ばすという最強の魔法を使う。行くのなら、オレ一人でーー」
一人で席を立とうとする孝太郎をパキラは黙って腕を掴んで静止させる。
パキラは真っ直ぐな瞳で孝太郎を射抜くと真剣な声で彼に言い聞かせるように言った。
「ねぇ、ぼくらは仲間だよ。なら、仲間を頼ってよ」
パキラの言葉に他の四人も同調の言葉を投げていく。
「そうだぜ!水臭いぞ!コウタロウ!お前は記憶が戻る前の事を思い出せよ!オレたちはどんな困難も分割して乗り越えてきたじゃあねぇか!」
「そうだよ!頑張ろうよ!コウタロウ!」
「シリウスの正体を見抜けなかったのはわたしの責任……だから、私も責任を取ってあなたと一緒に戦う!」
孝太郎はその言葉にかつての人生の中で共に戦った仲間の顔を思い出す。
孝太郎は自然に溢れた涙を自分の手で拭うと四人に向かって笑顔を向ける。
「ありがとう。オレはこんな大切な仲間を持って幸せだよ。神様っていうのはどうやら、どんな状況でもオレを孤独にさせてくれねぇみたいなんだなぁ」
孝太郎はしみじみと語っていると、仲間の一人に頭を叩かれて、
「なーに、詩人ぶってんだよッ!当たり前だろ!お前を孤独になんかさせねぇよ!オレたちがいる限りはなッ!」
ジョージの激励とも突っ込みとも取れる行動に仲間たちが笑う。それに釣られて、普段は暗いはずの病院も今日ばかりは明るい空気へと包まれていく。
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