上 下
38 / 99
アールランドリー大陸編

パチャテク帝国攻略史

しおりを挟む
目下の問題として、シリウスには二点の問題が突き付けられていた。一つはアールランドリー大陸の中でも有数の勢力を誇る神々の力を宿した帝国、パチャテク帝国。もう一つの問題はかつて自分を追い詰めた少年と酷似した勇者の存在。
どちらを取っても、シリウスには重くのし掛かっているような気がしてならない。
シリウスが玉座の間にてどうするべきかと自問自答をしていると、彼の元に一人の少年が現れて、頭を垂れる。
その少年に目を引かれたのか、玉座の上に座る魔王は考え事をやめて、彼の方を向く。
「ナルシーか?何用だ?」
ナルシーなる少年はその女性と見間違えられてもおかしくない程の美しい顔を上げて言った。
「恐れながら、摂政殿下に申し上げます。殿下がお考えになっておられるパチャテク帝国の侵攻の件ですが、私に妙案がございます」
ナルシーは声変わりもしていない美しい声で進言するものの、今日に至ってはその声も彼の興味を惹かないらしい。
シリウスは慇懃な様子で、彼の方を向いて、
「妙案?お前のような小僧にか?片腹痛いわ」
「恐れながら、話だけでも聞いていただければ幸いでございます。どうか、お聞きあそばせ、我がご主人様マイ・マスター
姿勢を正して、改めて言われると、シリウスとしても聞かざるを得ない。
主人がようやく聞いた事を確認すると、美少年は自信満々に自分の策を喋り出す。
彼は強大なパチャテク帝国に対し、内紛を仕掛けるように進言し、その方法も実に具体的に言っていくのである。
「まず、パチャテク帝国の中でも指折りの重臣を反逆に追い込ませます。その人物をそそのかせるためにも、情報をお仕入れあそばせ、さすれば、あなた様の侵攻は簡単にお進みになるでしょう」
「成る程、ならば、次はどうする?反乱で国力を削った後は?」
「次は重臣同士を対立させるのが宜しいかと存じます。さすれば、王は疑心暗鬼となり、いざという時に相談する事を躊躇いましょう」
シリウスは少年の言葉を聞いていたが、どれも一理ありそうな案ばかり。
彼は帝国を盗る際に、この少年を連れて行けばどうなるのかを考える。
彼は玉座から立ち上がるのと同時に、彼の頬に口付けをして、
「次に、大陸を渡る際にはお主も連れて行こうか、善弥……いや、ナルシー」
ナルシーなる少年は見知らぬ名前が出た事に首を傾げたらしいが、シリウスとしては知った事ではない。
早速、腹心の部下、霊蔵を呼び付け、また摂政の代行を命令し、彼はナルシーと共にもう一つの大陸へと渡っていく。
パチャテク帝国という国を盗る。
シリウスはこの一念のためだけに死ねたかもしれない。











パキラ一行は町を出て、近くの平原で食事をする事になった。
敷物を広げて、仲間全員で食べる食事は軽いピクニック気分であったが、それでも油断はできない。
彼らの敵は各地に巣食う魔物。
魔物はいつ何処から襲って来るのかは分からない。
だからこそ、勇者は仲間を守るために、警戒の目を怠らない。
パキラはピクニック気分を味わいつつも、仲間達を守るという事を同時にやりながら、更にサンドイッチを持って食事をするという事を同時に進めている最中であった。
パキラは殺気のようなものを感じ、背中に背負っていた剣を取り出し、殺気のした方角に剣を向けて叫ぶ。
「出て来い!お前が何者かは知らないが、何か言いたいのなら出て来たらどうだ!?」
その言葉を聞いたのか、草葉の陰から一人の異形の生物が現れた。
その生物は体を真っ黒なローブで包まれている上に、足が無いという幽霊のような体をして顔は骸骨といういかにも『怪物』のような姿をしていた。
骸骨の幽霊は両手に青い炎を宿しながら、パキラ達に向かって攻撃を仕掛けて来る。
パキラは仲間達に散らばるように指示を出すと、自身は剣を携えて魔物へと向かって行く。
だが、魔物はパキラの剣を寸前の所で首を下げて回避し、剣を大きく振りかぶった事により、生じた隙を利用し、彼の腹に向かって炎をぶつけようとする。
それに真っ先に反応したのが、赤い肌の青年であり、彼はパキラの元を訪れると、右手の掌を大きく広げて、彼の炎を消す。
そして、彼に向かって手の拳を丸めて、それを喰らわせようとしたが、咄嗟に骸骨幽霊はその場から離れて、もう一度両手の掌に人魂のような不気味な青い炎を宿し、今度は直接向かって来るのではなく、両手に宿した炎を投げていく。
赤い肌の青年と勇者パキラは互いに肩を預けて、骸骨の幽霊へと向かって行く。
骸骨の幽霊は向かって来る二人に向かって、青く燃える炎を投げ付けたのだが、パキラは炎を光の神から預かった剣でかき消し、赤い肌の青年はその不思議な右手で彼の炎を消していく。
万策が尽きたかのように思われた幽霊であったが、何やら呪文を唱えると、今度は両手に緑の炎を宿し、空中に向かって放り投げていく。
すると、緑の炎が炎の形をした化け物へと変貌し、二人に襲い掛かっていく。
二人は手と剣を使って炎の形をした怪物を片付けようとするのだったが、骸骨の幽霊が繰り出した炎の形をした怪物は素早く、二人が遅れを取っていたその時であった。
背後から光の矢が飛び、彼らを消滅させていく。
パキラが背後を振り向くと、そこには親指を上げて笑顔を浮かべる二人の仲間の姿。
どうやら、遠距離魔法で二人を支援してくれたらしい。
二人はそれを見ると、互いに首を縦に動かし、真っ直ぐに骸骨の幽霊へと向かって行く。
それを見た骸骨の幽霊は二人が真っ直ぐに自分の元へと向かって来るのだと思われたのだろう。
両手の掌から青い炎を繰り出し、二人を牽制しようとするが、並んでいた二人のうち、勇者パキラは宙を飛び、代わりに赤い肌の青年が彼の前に立ち塞がり、二人に向かう筈だった青い炎をたった一人で消していく。
まるで、獲物を狩る肉食動物のように早く、正確に。
骸骨の幽霊がその青年の動きに圧倒されている時だ。
勇者パキラが骸骨の幽霊に向かって飛び掛かり、幽霊の首を光の神から授かった剣で斬り飛ばす。
流石の骸骨の幽霊もそれには耐え切れなかったのか、
「摂政殿下ァァァァァ~!!!」
と、断末魔を上げて消滅していく。
勇者パキラはその言葉に片眉を上げて、 
「摂政殿下?誰だそいつは?」
と、疑問を呈したが、赤い肌の青年は恐らくと前置きを置いてから、
「魔界の神前試合を魔王の娘、ライジアに代わり、王子三人を殺し、現在魔界を支配している男の事だろう。名前は確か……」
赤い肌の青年は暫くの沈黙を置いてから、重々しい口を開いて、
「シリウス・A・ペンドラゴン」
パキラはその言葉を聞いた途端に思わず身を震わせてしまう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界でも男装標準装備~性別迷子とか普通だけど~

結城 朱煉
ファンタジー
日常から男装している木原祐樹(25歳)は 気が付くと真っ白い空間にいた 自称神という男性によると 部下によるミスが原因だった 元の世界に戻れないので 異世界に行って生きる事を決めました! 異世界に行って、自由気ままに、生きていきます ~☆~☆~☆~☆~☆ 誤字脱字など、気を付けていますが、ありましたら教えて頂けると助かります! また、感想を頂けると大喜びします 気が向いたら書き込んでやって下さい ~☆~☆~☆~☆~☆ カクヨム・小説家になろうでも公開しています もしもシリーズ作りました<異世界でも男装標準装備~もしもシリーズ~> もし、よろしければ読んであげて下さい

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

悪役令嬢の騎士

コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。 異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。 少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。 そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。 少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

魔法少女のなんでも屋

モブ乙
ファンタジー
魔法が使えるJC の不思議な部活のお話です

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...