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序章

ほんの腕試しでござる 前編

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シリウスは地獄から蘇った二人の転移衆を相手にこの世界の事を熱弁していく。この世界が中世ヨーロッパ若しくは古代ローマ帝国レベルの文明を持っている事、他にもこの世界の魔法を活用できるように覚えておく事。各々の事を狭い家の中で述べ終えると、降魔霊蔵は目を輝かせて、
「そのような情報まで把握しているとは流石でございます!頭領!で、まずはどうなさるおつもりですかな?」
霊像の質問に対し、シリウスは顎に人差し指と親指を絡ませて悩むポーズを見せていたが、その間に彼女の妹が割って入り、
「では、どうでしょう?お兄様の力をお役に立たせるために、この山の下に存在する村を襲うというのは?村を襲うというのは既にお兄様の頭の中では規定事項だったのでございましょう?その村で多くの人間を捕まえれば、きっと、地獄転移の術も捗る筈でございますわ!」
シリウスは手を叩いて、勝手に割って入った妹を褒め称える。
「その通りだ。では、明日の夜に村を襲うとするか……それまでは寝て体力を温存しておくと良いだろう……」
シリウスの言葉に従い武士と忍者というこの世界では見かけない奇抜な格好をした二人組は散らばっていた本を除けて、床の間に寝そべる。
シリウスも家の中に用意されていた長椅子の上に寝そべり、妹を呼び寄せる。
シリウスに呼ばれたシャーロットは頬を赤く染めて、
「お兄様、今宵、私を呼ばれたという事は……」
「久し振りにお前を……」
そう言って、シリウスは自身の上に妹を寄せて、自身の顔の近くに迫った彼女の肌を舐める。
シャーロットは優しく撫でられる度にその顔を熟れたての果実のように赤く染めていく。
シャーロットは我慢できなくなったのか、兄の唇に自身の唇を重ねた。











「昨夜は頭領も副頭領もお楽しみでしたなぁ、そうは思わんか?誠一郎?」
格上の自分に平伏せよと言わんばかりの傲慢な態度が癪に触ったのか、誠一郎は毒を含ませた口調で返す。
「口を慎まぬか、霊蔵。それに、あの言い方は何だ。今の我々には上下関係は無い事は昨晩の頭領の説明で知っておろう。転移衆は前とは違って上下の差はござらんよ」
腰に下げた小太刀で近くの森で取れた鹿を捌きながら誠一郎は言った。
霊像も誠一郎に負けじとばかりに、多くの薪を割っているが、彼からは見向きもされないらしい。
誠一郎の態度に苛立ったのか、暫くの間、霊蔵は黙々と薪を割っていたが、飽きたのか、斧を割っていた切り株の間に突き刺し、自分はその横に腰を掛けて、大袈裟に手を広げて、
「なぁ、誠一郎殿よ。この世界では妖魔術は一つでは無いらしいでは無いか、なんでも書物を読み、その呪文を覚えれば、自由自在に作れるというでは無いか。朝の仕事が終われば、二人で書物を漁らぬか?」
霊蔵は無邪気な調子で言ったが、逆にその言葉が反感を買ったらしい。
切り株に座っていた彼の上に星型の手裏剣が飛ぶ。
霊蔵は猿のような軽業を見せて、その手裏剣を避けると、自身の懐の中に仕舞い、彼に向かってニヤニヤとした笑顔を浮かべて、
「いやぁ~おしゅうござるな。後、ほんの少しでオレの眉間をこの手裏剣で割れたのに……心中お察し致しまする」
霊蔵は懐から先程、手に入れた手裏剣を人差し指と中指で挟み、ワザと見せるように左右に揺らす。
それを見た、誠一郎は舌を打ち、また鹿を解体する作業に戻っていく。
「あれぇ~つれぬなぁ~もっと怒っても良いと思うがのう?」
誠一郎は忍耐力を付けるための修行と思いながら、以後は霊蔵の言葉を風が吹く音だと思いながら、鹿の脚を切っていく。
一通りの仕事を終え、割った薪を使用し、昼食の用意を行い、二人は自分の主人二人を火を焚いている場所へと呼び寄せる。二人が用意を行なっていた場所は深い森と二人が目覚めた頭領の家の狭間にあり、呼ぶのに時間は掛からなかったらしい。直視すれば斬られそうなほどの鋭い瞳を宿した男と柔和な笑顔を浮かべた女の二人が現れ、部下の用意した焚き火の周りに腰を下ろす。
霊蔵と誠一郎はそれを見届けると、二人で料理を用意しながら、二人と襲撃の段取りを話していく。
「成る程、面白いことになるでしょうな。逃げようとする民衆には儂ら忍びのような妖魔術は持ってござらぬ。そうなれば、実力の差は歴然としておる。そういう事でございますかな?」
「その通り、そこは我々が元いた世界と変わらぬ。魔法が使える奴は使えるし、使えない奴は使えない“弱者”だ」
シリウスは鹿の脚を食いながら答えた。
焚き火の周りをこの世界では見られない洋服と和服を着た男女で焚き火を囲んでいる姿は側からみれば相当奇妙な光景に見えたかもしれない。
だが、ここは山奥であり、見つかる可能性は殆ど無いと言っても良いだろう。
故に安心して、この姿で食事を取る事も出来ただろう。
だが、誠一郎は焚き火を囲んでいる時に、確実に生き物の気配を感じた。
彼は懐からクナイと呼ばれる小さな武器を取り出し、気配のした方向に向かって放り投げる。
すると、小さな悲鳴が聞こえた。誠一郎は自身の横の地面の上に置いてあった太刀を左手で持って、悲鳴のした森の入り口にある藪へと向かう。
すると、そこには長く高い鉤鼻と全身をペンキで塗ったかのように全身を緑に染めた体に股間部だけを隠すような形で布を纏った自身の身長の半分程のサイズの生物が倒れていた。
誠一郎はその生物の背中に自身が先程放ったクナイが刺さった事を確認し、それがもう言葉を話さぬ死体になったという事を悟った。
仕留めたという事を主人に証明するために、その生物の足を掴もうとしゃがみ込んだ時だ。
突如、その生物はそれまで重たく閉じていた両目の目蓋を開き、背中に刺さったクナイを乱暴に抜き取り、逆に誠一郎に向かって攻撃を仕掛けた。
誠一郎は忍びらしく体をのぞけ返らせて避け、引き続き攻撃を仕掛けようとする生物の右腕を掴み、鞘に納めたままの刀で緑色の怪物の腹を思いっきり突く。
鞘の先端で思いっきり腹を突かれた怪物は口から短い悲鳴を出し、再度地面の上に倒れた。
誠一郎はクナイを懐に仕舞い直すと、刀を抜いて、その抜いた刀で地面の上にて転がる怪物に向かって突き付ける。
この世界に日本刀は無かったのだが、その刃は日にかざすと、キラリと光り、その鋭さを刀を知らない異世界の怪物にも分からせたらしい。
怪物は舌を暫くブルブルと動かした後に、ようやく口を開く。
「ま、参った……あんたは強いよ。で、で、でも見てくれよ。このオレの傷を……背中を刃物で貫かれ、たった今、脇腹をあんたの妙な武器で小突かれた……も、もうオレは長くねぇ!だから、助けてくれないか!?」
小鬼は無理だと分かっていながらも、両手を合わせて懇願する。
が、彼に返ってきた返事は予想を超えたものであった。
「まぁ、そなたを助けてやらんでもないが……」
「ほ、本当か!?」
自身の助命を聞き届ける言葉を聞いて、目を輝かせる小鬼であったが、次の瞬間に、その目から急速に輝きを失った事に誠一郎は気が付く。
「貴様がオレの主人である頭領の元に来てくれれば、文句は無い。頭領も貴様のような異形の存在を見るのは初めてであろうからな。楽しみにしておると思うぞ」
小鬼はその体を緑から青に変えるのかと危惧するくらいに全身を震わせたが、直ぐに自身の命と仲間の命とを天秤に掛けると、やはり自身の命が惜しいのか首を縦に動かす。
誠一郎は小鬼を右手で抱えて、元来た道を引き返す。
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