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魔界侵略編
転げ転げた木の根っこ
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魔王の娘、ライジアは実の父親である魔王から疎まれ、彼女は王宮内に部屋を与えられていないばかりか、彼女は城下町で平民よりは少しばかり質の良くて広い家を与えられているばかりだ。使用人にしても執事の親子が二人いるばかり。
だが、そんな彼女にも好機が訪れたらしい。なんと、自分をこの平民の街へと追いやった父の側近ゴダスの死が報告されたのだ。
今より、二日も前の事らしい。彼女はそのニュースを執事の親子のうちに子の方である執事のインフェットからその報告を聞いた。
インフェットはその直後にその端正な口元を右端に吊り上げた事から、ちゃんとした情報であるのだと彼女は確信を得た。
インフェットは曖昧な情報を自分に教えるようなぼんやりとした人間では無い。
長い時間を魔王を継ぐ一家に仕えて来た父の教えもあり、十分に執事の任を果たせている。
そんな彼女をライジアは幼い頃から同い年の同性として信頼していた。
彼女は自分の最も信頼する相手がなぜ、男ものの服を着ているのかを父親のクローに聞いてみたが、これは歴代のグローリア家の家訓らしい。
男子が生まれたのであれば、上手くいったというべきであるが、もし、女子が生まれたのであるのならば、男装をさせて執事の任に就かせろと。
ライジアは自身の長くて青い髪を人差し指でクルクルと巻きながら、一言、「面倒くさい事ね」と、老齢の執事に告げたが、その執事はいつもの寡黙な表情を崩さずに「決まりでございますから……」と言うばかりであった。
最も、インフェットがその家訓を上手く果たせているのかどうかは分からないが……。
実際に彼女は街を歩くと、普通に女性のようだと思われ、社会から脱落したと思われる柄の悪い男に絡まれる事もある。
それだけではない。柄の悪い男の中には彼女の外見を見て、そういう趣味の人間が声を掛ける事もある。
最も、どの事例でも彼女か自身の下僕に不用意に手を出されたという理由から主人であるライジアがその男達に鉄槌を下す事が多いが……。
ライジアにとって嫌悪するべきなのは男であれ、女であれ幼い存在にそういった趣味を持つべき事であった。
その事から、インフェットは自分自身の趣味を懸命に隠しておく必要があった。
幾重ものプロテクトを施した上で、重い金庫の中に閉じ込めるかのような感覚に近いだろう。
実際、この世界に『プロテクト』という言葉に類する言葉あるので、彼女が先程の諺を持ち出されたとしても、解説があれば理解する事は可能だろう。
インフェットは幼い頃から、父共々仕えてきたこの少女の事を好いたので、そう言った意味でも知られたくは無いのだ。
実際に魔王の娘は同性であるインフェットから見ても美しく可愛らしい娘であった。
ライジア・フォン・ヴァートリーファルは店で売られる絹の布を思わせるような綺麗で長くい青の髪は勿論、冒険小説のヒロインが抜け出して来たような美しさを持つ女性である。
どんなに眠くても、幼い頃からの付き合いであるライジアが素っ気ない調子で「おはよう」と自分に囁いたのだとしたら、彼女の目は一瞬で開くだろう。
それくらい美しい女性であった。
舞台の役者を思わせるスレンダーな体型と物静かな態度で窓辺で茶を啜りながら、読書を行う彼女の姿は古来から伝わる絵画のようだ。
そんな彼女だからこそ、インフェットは魔王の後継争いの影の候補者として言われていたゴダスの死を告げたのだ。
彼女が魔王の地位に就く事を心から望んでいたのだから……。
「……フェット、インフェットッ!」
残念ながら、彼女の考えは敬愛する主人の手によって遮られてしまう。
インフェットは男性ものの黒いスーツで覆った肩を強張らせながら、最愛の主人の前で頭を下げる。
「はい、ライジア様……」
「先程から聞いているのだけれど……その情報は確かな情報なのよね?」
インフェットは首肯する。それから、彼女の目の前で一文字を切る真似をして、
「暗黒神ベリアドル様の名に掛けて誓います」
「随分、大それたわね。それだけの確証があるのよね?」
「……司法の手で調べられ、その情報が一斉に各街の新聞社に流れたので、間違いは無いと思われますが……」
その言葉を聞いてようやく、ライジアは両頬を弛緩させた。
「ようやく、時が来たわね。これからの時代は古い考え方は価値観は消え、新しい考えが世界を覆う時代なの、各時代の伝統とやらを主張するお兄様方もお父様も所詮は亡霊に過ぎないわ」
ライジアはそこで手元の机に置いてあった紅茶を啜る。
彼女はティーカップをカップ皿に置くと、インフェットの側に向き直り、
「いい、伝統に囚われる価値観は終わりなの、男性のみで戦っていたからこそ、魔界はーー」
彼女はそこで、大演説を切った。扉をノックする音が聞こえたのだ。
彼女は「入りなさい」と命令し、入室を許可する。
部屋を開けて入って来たのはインフェットの父にして彼女に仕えるもう一人の執事であるクロー・グローリアであった。
息子同様の黒色のスーツに身を固めたクローは丁寧に一礼をしてから、本件に入る。
「ライジア様にお客様が見えられております。是非とも、面会の程をーー」
「客!?どうせ、勧誘か押し付け商売のどちらかよ!追い出しなさい!」
「ですが、訪れたらお二方は自分達はゴダスの始末を指示した人間だと主張しておりまして……」
『ゴダスを始末した』という一言で彼女の片眉が微かに動く。
彼女は柔和な笑みを浮かべて、
「そうね。折角、私を訪れて来たのだから……いいわ、案内してちょうだい」
クローは丁寧に頭を下げ、彼女の書斎を後にした。
ライジアは執事のインフェットに自分の隣に立つように指示を出してから、書斎に用意された緑色の長椅子に座り、来客を待った。
暫くの後に令嬢の書斎の扉が開き、彼女の前に金色の髪をした壮麗な顔をした男女が現れた。二人は双子のように瓜二つの顔であった。
ライジアの前で二人は丁寧に頭を下げてから、彼女の目の前に用意された長椅子に座る。
最初に口を開いたのは長い金髪の髪の女性であった。
「初めまして、私の名前はシャーロット・A・ペンドラゴンと申しますわ、隣に居りますのは私の兄のシリウス・A・ペンドラゴンです」
妹に連られてシリウスも丁寧に頭を下げる。
ライジアもその後に魔王の娘らしく名を上げた。
二人の名乗りが終わると、いよいよ彼女は本題を切り出す。
「あなた様は魔王になりたくはございませんか?」
彼女は部屋中に伝わるようなハッキリとした声で言った。
だが、そんな彼女にも好機が訪れたらしい。なんと、自分をこの平民の街へと追いやった父の側近ゴダスの死が報告されたのだ。
今より、二日も前の事らしい。彼女はそのニュースを執事の親子のうちに子の方である執事のインフェットからその報告を聞いた。
インフェットはその直後にその端正な口元を右端に吊り上げた事から、ちゃんとした情報であるのだと彼女は確信を得た。
インフェットは曖昧な情報を自分に教えるようなぼんやりとした人間では無い。
長い時間を魔王を継ぐ一家に仕えて来た父の教えもあり、十分に執事の任を果たせている。
そんな彼女をライジアは幼い頃から同い年の同性として信頼していた。
彼女は自分の最も信頼する相手がなぜ、男ものの服を着ているのかを父親のクローに聞いてみたが、これは歴代のグローリア家の家訓らしい。
男子が生まれたのであれば、上手くいったというべきであるが、もし、女子が生まれたのであるのならば、男装をさせて執事の任に就かせろと。
ライジアは自身の長くて青い髪を人差し指でクルクルと巻きながら、一言、「面倒くさい事ね」と、老齢の執事に告げたが、その執事はいつもの寡黙な表情を崩さずに「決まりでございますから……」と言うばかりであった。
最も、インフェットがその家訓を上手く果たせているのかどうかは分からないが……。
実際に彼女は街を歩くと、普通に女性のようだと思われ、社会から脱落したと思われる柄の悪い男に絡まれる事もある。
それだけではない。柄の悪い男の中には彼女の外見を見て、そういう趣味の人間が声を掛ける事もある。
最も、どの事例でも彼女か自身の下僕に不用意に手を出されたという理由から主人であるライジアがその男達に鉄槌を下す事が多いが……。
ライジアにとって嫌悪するべきなのは男であれ、女であれ幼い存在にそういった趣味を持つべき事であった。
その事から、インフェットは自分自身の趣味を懸命に隠しておく必要があった。
幾重ものプロテクトを施した上で、重い金庫の中に閉じ込めるかのような感覚に近いだろう。
実際、この世界に『プロテクト』という言葉に類する言葉あるので、彼女が先程の諺を持ち出されたとしても、解説があれば理解する事は可能だろう。
インフェットは幼い頃から、父共々仕えてきたこの少女の事を好いたので、そう言った意味でも知られたくは無いのだ。
実際に魔王の娘は同性であるインフェットから見ても美しく可愛らしい娘であった。
ライジア・フォン・ヴァートリーファルは店で売られる絹の布を思わせるような綺麗で長くい青の髪は勿論、冒険小説のヒロインが抜け出して来たような美しさを持つ女性である。
どんなに眠くても、幼い頃からの付き合いであるライジアが素っ気ない調子で「おはよう」と自分に囁いたのだとしたら、彼女の目は一瞬で開くだろう。
それくらい美しい女性であった。
舞台の役者を思わせるスレンダーな体型と物静かな態度で窓辺で茶を啜りながら、読書を行う彼女の姿は古来から伝わる絵画のようだ。
そんな彼女だからこそ、インフェットは魔王の後継争いの影の候補者として言われていたゴダスの死を告げたのだ。
彼女が魔王の地位に就く事を心から望んでいたのだから……。
「……フェット、インフェットッ!」
残念ながら、彼女の考えは敬愛する主人の手によって遮られてしまう。
インフェットは男性ものの黒いスーツで覆った肩を強張らせながら、最愛の主人の前で頭を下げる。
「はい、ライジア様……」
「先程から聞いているのだけれど……その情報は確かな情報なのよね?」
インフェットは首肯する。それから、彼女の目の前で一文字を切る真似をして、
「暗黒神ベリアドル様の名に掛けて誓います」
「随分、大それたわね。それだけの確証があるのよね?」
「……司法の手で調べられ、その情報が一斉に各街の新聞社に流れたので、間違いは無いと思われますが……」
その言葉を聞いてようやく、ライジアは両頬を弛緩させた。
「ようやく、時が来たわね。これからの時代は古い考え方は価値観は消え、新しい考えが世界を覆う時代なの、各時代の伝統とやらを主張するお兄様方もお父様も所詮は亡霊に過ぎないわ」
ライジアはそこで手元の机に置いてあった紅茶を啜る。
彼女はティーカップをカップ皿に置くと、インフェットの側に向き直り、
「いい、伝統に囚われる価値観は終わりなの、男性のみで戦っていたからこそ、魔界はーー」
彼女はそこで、大演説を切った。扉をノックする音が聞こえたのだ。
彼女は「入りなさい」と命令し、入室を許可する。
部屋を開けて入って来たのはインフェットの父にして彼女に仕えるもう一人の執事であるクロー・グローリアであった。
息子同様の黒色のスーツに身を固めたクローは丁寧に一礼をしてから、本件に入る。
「ライジア様にお客様が見えられております。是非とも、面会の程をーー」
「客!?どうせ、勧誘か押し付け商売のどちらかよ!追い出しなさい!」
「ですが、訪れたらお二方は自分達はゴダスの始末を指示した人間だと主張しておりまして……」
『ゴダスを始末した』という一言で彼女の片眉が微かに動く。
彼女は柔和な笑みを浮かべて、
「そうね。折角、私を訪れて来たのだから……いいわ、案内してちょうだい」
クローは丁寧に頭を下げ、彼女の書斎を後にした。
ライジアは執事のインフェットに自分の隣に立つように指示を出してから、書斎に用意された緑色の長椅子に座り、来客を待った。
暫くの後に令嬢の書斎の扉が開き、彼女の前に金色の髪をした壮麗な顔をした男女が現れた。二人は双子のように瓜二つの顔であった。
ライジアの前で二人は丁寧に頭を下げてから、彼女の目の前に用意された長椅子に座る。
最初に口を開いたのは長い金髪の髪の女性であった。
「初めまして、私の名前はシャーロット・A・ペンドラゴンと申しますわ、隣に居りますのは私の兄のシリウス・A・ペンドラゴンです」
妹に連られてシリウスも丁寧に頭を下げる。
ライジアもその後に魔王の娘らしく名を上げた。
二人の名乗りが終わると、いよいよ彼女は本題を切り出す。
「あなた様は魔王になりたくはございませんか?」
彼女は部屋中に伝わるようなハッキリとした声で言った。
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