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魔界侵略編

魔界乗っ取りの段

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シリウスとシャーロットのペンドラゴン兄妹が南部に位置する場所で新たなる僕を得る事が出来たのは良い収穫であった。二人が入手したのは殺人鬼と放火魔による最悪のコンビであった。このコンビは他の転移衆に比べれば、潜入などの諜報には使えないかもしれない。
が、それを補うだけの強さと凶悪さがあった。もし、この二人ならば、強力な刺客となり、自らの障害となる人物を容易に殺してくれるであろう。
加えて、時雨誠一郎や降魔霊蔵と言った強力な部下と共に迎撃に当たれば、かつて自分たちを追い詰め、苦しめた忌々しい若い刑事と子供の侍でも死んでしまうかもしれない。
シリウスはそんな確信を得ていた。だからこそ、彼は南部の荒れた石壁の酒場の中で泥泥とした色を見せる奇妙な酒を何度も飲んでいたのであった。
南部の通貨は何百年か前に当時の魔王が北部、中部の人間達と取り決めを決めたために、統一した通貨が使われているらしい。
すなわち、北部、中部にて得た金がこの場所でも使用できるという事なのである。
二人が杯を交わしながら、酒場にて用意された粗末な長い机の前に座りながら、酒を何度も喉に流し込んでいたとしても心配する素振りを見せないのはそのためであった。
加えて、果物屋の一家から巻き上げた金や二人がこの街で情報収集を行う際に仕事をして手に入れた金もあったのだ。
と、なれば躊躇する必要は無い。兄妹は手駒を揃えられたという事と情報の収集に成功したという事を肴にその日の美酒に酔いながら、今後の事を話し合っていたのであった。
シリウスは泥泥とした奇妙な酒を5杯ほど飲んだ後に、溜め息を吐き、その口を開き、結論を息ごと吐き出す。
「私は魔王の城に乗り込み、魔王の地位を奪う事こそが良いと思っているが、まぁ、今の所は難しいかもしれんな」
「魔王の城に乗り込むというのは難しいですものね」
シャーロットの意見をシリウスは首肯する。
彼は人差し指を彼女の目の前に掲げて、酒を飲みながら、自身の考え出した結論を話していく。
「魔王の城に乗り込み、南部の魔王を亡き者にするのが理想的だが、安直過ぎるな、となるとやはり、もう一つの方法でいくしか無い……」
物騒な会話ではあるが、もし、この会話を聞かれたとしても、酔っ払いの戯言と流されていただろう。
それに加えて幸運だったのは酒場が他の客の騒ぎによって盛り上がっていたという事だろう。
酒を飲む音が煩過ぎて、二人の密談が聞こえていなかった事も無論、シリウスの策略であった。
敢えて、賑やかな場所で話す事により、本来の会話をカモフラージュするのである。
勿論、思い付きであったが、この効果は思ったよりも出たらしい。何より、ここが魔王の側近、ゴダスの治める街であったという事も影響しているらしい。
酒場で喋る人々は二人の会話に耳を傾けようとする気配は見せない。
シリウスはここぞとばかりに妹を相手に話を続けていく。
シャーロットは目の前で話す兄の話に熱心に耳を傾けていた。
少なくとも、彼の兄、シリウスは魔王城の存在する暗黒の街、ゾッドムで彼が行動を起こす事は間違いが無いと言う事であった。
果物屋を焼いたあの日、シリウスは二人を北部のホリスター将軍の屋敷へと向かわせ、自身の信頼する部下、二名と共に戻るように指示を出し、二人はこの街で情報を得る事にしていた。
現地に溶け込む戦略はかつて地球の覇権を握っていた強大な帝国の特殊部隊として活躍していた二人にとってはお手の物であった。
二人はこの街で固い岩盤に魔力で精製された特殊な筆で文字を削り、記事として販売するというかつての世界でいう新聞を生成する場所でそれらのものを配るという仕事を得て、新聞を作成していたのであった。
岩盤を横に置いて、街行く人々を呼び止め続けるという作業は苦痛であったが、それ以上に金と情報が手に入るのが嬉しかった。
二人は二階建てのログハウス風の宿屋の一室に共に宿を借り、そこで情報の整理をし合っていた。
二人はここで魔王と魔王の城に関する情報を互いに出し合う。
その結果、現在、魔王が弱っている事、魔王の三人の跡継ぎが互いに喧嘩をし合っているという事、魔王は信頼する老齢の側近にその地位を渡そうとしている事、それを不満に思う魔王の娘がいる事。
これらの情報から導き出した結論は二人で魔王の娘を老齢の魔王の跡継ぎに添え、その魔王の娘を背後から操り、ペンドラゴン兄妹で魔界を操るという事であった。
今宵の酒場での話し合いはそれの最終の打ち合わせといっても良かった。
「お前に異論が無ければ、その案でいくが……」
「ええ、ですから、お兄様……あのお二方と二人が連れて来る部下を待ち望んでおるのでございましょう?」
シリウスは妹の考えに沿って頷く。
「流石はお兄様です!まさか、まずは老齢の側近を亡き者するために、降魔霊蔵をーー」
「シャーロットッ!」
兄の雷を思わせる一言に長い金髪の美女は思わず両肩を震わせてしまう。
それを見てか、シリウスは直ぐに両眉を寄せて、
「すまなかったな、だが、あんな事を言えば……」
「いいえ、シャーロットが悪いのですから、怒られても当然ですわ、至らぬ考えのわたしをお許しくださいませ」
「もういいさ、今日の所は帰ろう」
シリウスが席を立ち上がった時だ。酒場の油を刺していない木の扉が悲鳴を上げながら開き、
二人が待ちわびていた来訪者がついに到着した。
来訪者と思われるオークの青年とネズミ頭の男の両方はペンドラゴン兄妹を見つけると、右手を強く振って、
「マイ・マスター!私でございます!あなた様に言われた通りの方をお連れして参りました!」
そう言うと、オークの青年とネズミ頭の男は共に身を引き、扉の奥から現れた二人の男女を迎え入れる。
男女のうち男は両側の頬に傷の入った不気味な笑顔を浮かべた柿色の服を着た男であった。
もう片方はそんな男とはお世辞にも馬が合いそうにない真っ直ぐな瞳を持つ金髪の騎士然とした雰囲気を持つ美しい女であった。
シリウスはそんな二人の到着を他の客の目も構う事なく、手を叩いて出迎えた。
「ようやく来てくれたか、霊蔵にドロシー!」
異形の雰囲気を纏った四人の人物は周囲の魔物たちの視線など気にする事なく、シリウスの前に跪く。
跪いた中で一番先に口に開いたのはこの中でも一番異彩を放ち、酒場の人間の注目を集めていた柿色の奇妙な服を着た男であった。
「来るのに遅れて申し訳ございませぬ。何分、距離があるものでして……で、私はどのように責任をお取り致しましょうか?目玉を刳り取って見せましょうか?それとも、この指を詰め、あなた様に差し上げましょうか?」
「必要無い。貴様の指や目など、私が貴様に求めているのはお前の俊敏な力だ。お前にはやってもらう仕事がある」
そう言って、シリウスは霊蔵に自分の隣の席に腰を掛けるように指示を出す。
霊像は他の転移衆を差し置き、シリウスの隣に座り、その話を聞く事にした。
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