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慰めの報酬を渡した俺とそれを渡された彼女

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俺がその場から去ろうと庭の土を踏むのと、向こうから怒声が轟くのは殆ど同時であった。
「グレース様ッ!あなた様はここで何をしておられるのですか!?修練開始の時間は既に過ぎておりまするぞ!」
怒り心頭の様子の騎士団長様は腰に下げていた剣を取り出し、感情のままにそれを地面へと突き刺す。
その様子に、俺は思わずたじろいでしまう。苦笑いでこの場を切り抜けようとした時だ。
「あ、あの、騎士団長閣下は修練の時間と仰られましたが、グレース様とどの様な訓練をなさっておられるのですか?」
「あ、あぁ、グレース様と私は放課後に剣の修練をしておるのですよ。このお方、希望でね」
『たっての』という箇所を強調する事で、今日、俺が遅れた事を咎めているらしい。
俺の胸に後で、グサグサと突き刺さっていく。
だが、話さないわけにいくまい。俺が遅刻の理由を語ろうとしたまさにその時だ。
「お待ちください!私に高貴な方々の事情は分かりませんが、今日、グレース様がお遅れになったのは理由があるんです!」
クロエは私に被せる様に、今日、私が遅れた理由を騎士団長に話したのだ。
健気な少女の訴えに、団長も絆されたのだろう。ううむと声を唸らせて、一歩足を下がらせていた。
彼女が俺が遅れた理由を説明すると、騎士団長は両目を瞑り、また唸り声を上げたかと思うと、突然、大きな声を上げる。
それから、無言で俺に近寄り、不意に俺の手を力強く握り締める。
同時に「グレース様ッ!」と叫ぶ。周りの空気が震えるくらいの大きな声だ。
今が放課後のみんなが帰ってしまった時間帯で良かった。
俺は大きく目を見開き、鼻を啜り、今にも泣きそうな顔の団長を見ながらそう思った。
「この、ロイヤル・ウェントワース!感激致しましたぞ!まさか、その様な事があったとは思いもしませんでした!なら、どうでしょう?今宵の修練にあなた様もお付き合いをなさるというのは!?」
「え、私がですか?」
「ええ、覚えておいて損はありませぬぞ、それに剣を使う事ができたとあらば、その様な方々の嫌がらせにも何かしらのアクションを起こせるのではござりませんかな?」
目を輝かせながら告げる団長に、引き攣った笑顔を浮かべるクロエ。
なんと言えば良いのか分からないのだろう。可哀想に。
ここは、俺が助け舟を出してやろう。俺は二人の間に割って入り、彼女が剣をやる意思がない事を告げると、団長は大きく溜息を吐いて、名残惜しそうにもう一度だけ、クロエを見てから、俺を修練の場へと連れて行く。
連れ去られる間際、団長と団長に引っ張られて引き摺られる俺を彼女は微笑ましそうに見つめていた。
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