よくある悪役令嬢ものの性悪ヒロインのポジにTS転生してしまったので、前世で培った知識を活用して、破滅フラグを回避しようと思います！

対決、サミュエルとガブリエル

「何をしているのですか？ガブリエル？」
怒りも心頭のサミュエルに対し、ガブリエルは黙って口元を歪ませて、
「やだなぁ、ただ、彼女に友人としてキスをしようとしただけですよ。まさか、そんな事で私を罰したりはしませんよね？」
ヘラヘラと笑いながら告げるガブリエルにサミュエルは無言で近付き、拳を振り上げる。
だが、拳が振り下ろされる瞬間に、空を静止する声が廊下中に鳴り響く。
全員が声の方向を振り向くと、そこに立っているのは両腕を組み、両者を睨むオリビアの姿。
彼女は二人の元に近付くと、両方を目で牽制しつつも、サミュエルの耳元で叫ぶ。
「サミュエル王子殿下！幾ら腹が立ったとはいえ、目の前で人を打つというのは王族にあるまじき態度です！」
「だ、だが、グレースがーー」
「にしたって、言葉で表現すれば良いでしょう！？」
と、大きな声で捲し立てるオリビアに周囲の面々は引き、あまつさえはオリビアに批判的な目を向けている。
言っている事は正しいのだが、これでは、オリビアに批判的な論調が湧き起こってしまい、そのまま、オリビアは婚約者と俺をいじめた悪役令嬢になってしまうのではないのだろうか。
そして、そのまま、断罪イベントに繋がり……。
駄目だ。考えただけで、恐ろしい。断罪イベントに繋がる様な出来事は今のうちに潰して置かなくてはなるまい。
なので、俺は慌ててグレースの元に駆け付け、目を潤ませて、彼女に向かって言った。
「オリビア様、確かに言葉は悪いですが、ここはあなた様の方に分があると思います。そして、サミュエル王子殿下」
俺はサミュエルに向き直ると、彼が暴力に頼ろうとした事を批判した。
サミュエルは不満そうであったが、こんなくだらない事で、俺が破滅しては敵わないので、多少口も悪くなってしまう。
いや、少し違うかもしれない。この時の俺の中には、こんなに格好良くて、完璧なサミュエル王子が俺如きのために、手を汚して欲しくないという思いもあったかもしれない。
やはり、あの時の淡い思い出が俺の中で糸を引いていたのであろうか。
俺が仲介に入ると、ようやく、サミュエルも矛を収めてくれたらしい。
彼は眉を顰めると、そのまま教場へと向かってしまう。
去りゆくサミュエルの姿を眺めていると、ガブリエルはクックッと笑って、
「まさか、キミが、オリビア嬢の肩を持つとは思わなかったよ。普通だったら、サミュエル王子殿下の方に肩を持つだろうに、それとも、本当はぼくのキスを受けたかったのかな？」
ガブリエルは唇の代わりに、首元に軽く口付けを落とし、思わず耳を赤くする俺を放って、手を振って教場へと向かっていく。