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天使王編

最後に微笑むのは

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私は呆然としていた。どうしてポイゾが血を流して倒れているのだろう、と。
だが、喧騒の中で一人高笑いをしている少年を見て私はようやく何が起きたのかを思い出した。
ポイゾは目の前の男に刺し殺されたのだ。この男の身勝手な動機によって無惨にもその命を奪われてしまったのだ。

醜く歪んだ顔で高笑いを続けながら男はポイゾを執拗に蹴り続けている。
に馬車の中に潜り込んだと言われる男は訳のわからない言葉ばかりを叫び続けていた。『お前のせいで、おれの人生がめちゃくちゃになった』とか『お前のせいで、おれの名優人生が終わりを告げた』とか『落ちこぼれのくせに』とかそんなことを言って既に事切れたポイゾに向かって執拗に蹴りを食わせ続けている。

それを見た瞬間に私の中が切れた。私は雄叫びを上げながら自らの力に強力な力を纏わせていく。
気が付けば私の腕は目の前の男の首を強く掴んでいた。

今の私は万力になったような心境であった。自分の両手で挟んだ柔らかいものを押し潰す万力機だ。
ちょうどいいこの柔らかいものを砕いて二度と日の目が見えないようにしてやろう。そう決意して私は柔らかいものを潰すために力を強めていく。

目の前の柔らかいものは人間以下の汚物のくせして人間みたいな台詞をペラペラと喋り立てていた。
その一言一言が不愉快だ。私は目の前の汚物が一言何か余計なことを喋るたびにその力を強めていく。
歩く排泄物は最後に途絶えそうなほどの小さな声で「助けて……」などと呟いていたが、その言葉を最後に喋るのを中断させた。その際にゴキィという音が鳴ったが、私は気にせずに汚物を地面の上へと投げ捨てた。

その時だ。背後から悲鳴が聞こえた。仲間が襲われているのかもしれない。私が慌てて背後へと駆け寄ってその場に近寄ると、そこには腰を抜かしたクリスがいた。

私は慌ててその手を伸ばして、クリスを助けようと試みた。
だが、クリスは衝撃の言葉は私に向かって信じられない一言を発したのであった。

「人殺し!人殺し!!」

それは私を弾劾する声だった。非がある者を周りにいる人たちが追い詰める際の声だ。違う。それは誤解だ。私はそう言ってその場から逃亡しようとするクリスを追い掛けようとした時だ。クリスの目の前に一体の天使が降り立った。
私は慌ててクリスの前に立ち、天使に向かって拳を繰り出していく。
拳を喰らった天使はあろう事かそのまま黒い煙を上げて蒸発していってしまう。

今の私は武器に頼る事なく天使を破壊したのだ。なんという事だろう。
今の私には溢れんばかりの力が体中から溢れている。この調子ならば天使たちの王を葬り去ることもできるだろう。
私は腰を抜かしてしまいその場に座り込んだクリスを放って、空を飛んで地上で繰り広げられる戦場の中を自由に滑空していく。

その過程で私に向かってくる天使たちを武器を使わずに拳や蹴りで容赦なく葬り去っていくのである。
その爽快感は病み付きであった。クリスにあのようなことを言われた衝撃で落ち込んでしまったが、天使たちを狩り続けていれば気も紛れてくるだろう。

無数ともいえる数の天使たちが私に向かってくるが、その天使たちを私は難なく沈めていくのであった。
殺す。もっと殺してやる……。私の中の殺意は極限までに高め上がっていく。極限まで磨き上げた刃物を握った猟奇犯というのは今の私のような心境であるのかもしれない。
そんなことを考えながら私は敵を沈めていくのであった。

その時だ。上空から大きな光が発せられた。私が慌てて翼を使って回避すると、真上には天使たちの王と思われる天使の姿が見えた。
だが、その正体は当初とは大きく異なっていた。
しかも、その姿は大きく変わった。今の私と似たような姿をしていたのだ。
いや、正確にいえば私と同じ人間の姿をしていたのだ。

短くも整った茶色の髪に黒色の上着にズボンを身に付けていた。
その上に私と同じような黒の電磁波で作られた鎧を身に付けていたのだ。
青年の体を守る電磁波の鎧は怪しくバチバチという音を立てていた。

青年の顔は穏やかに笑っていたそして、そのまま地上へと降り立つと私の視界が真っ白に包まれた。
途端に凄まじい音が鳴り響いていく。同時に衝撃が迸り、私の体を吹き飛ばしていく。私の体は大きく転がり、吹き飛ばされた。
私がようやく目を開けられるようになった時には私がいたいた辺りは全て消滅してしまっていた。
人も天使も全て……。だが、周りでは未だに金属と金属をぶつける音が聞こえていたので他のところでは戦争が続いているのだろう。全滅していなかったのは不幸中の幸いであった。

他のところでは人も天使も激しい戦争を繰り広げているのだ。私が安堵していた時だ。青年は優しい笑顔を浮かべたまま私の元へと向かってきた。
私はこの時テレパシーを使って目の前に迫る天使に向かって問い掛けた。

(あなたは誰なの?)

私の問い掛けに対する青年からの返事は意外なものであった。

(それはきみがよく知っているはずだよ)

その言葉を聞いて私は確信した。この人物こそが天使たちを操る黒幕であり、彼ら彼女らが熱心に恐れるとされている「あのお方」とやらなのだ。
そして確信を得た。目の前にいる人物は人々の間で語り継がれる呼ばれる絶対的な存在である……と。

「……参ったな。最後の最後でこんな大物が出てくるなんて聞いてないよ」

私が落胆にも似た感情を吐露した時だ。黒幕は大きく両手を広げて私の体を再び吹き飛ばす。
すると、私の体は急に上空に向かって吹き飛ばされてしまう。
私の体が飛ばされると黒幕が私の元へと追い縋り、ただの拳で私の鎧を破壊したのであった。

私は悶絶しながら地面の下へと落ちていく。これは終わりだ。
だが、青年は容赦なく私の背中を蹴り上げて、無理やり上空へと吹き飛ばしていく。

その時にようやくブレードと回復したと思われるタンプルが私の元へと駆け付けた。
ブレードが私の体を支え、タンプルが私とブレードを守るように立ち塞がる。
しばらくの間タンプルと青年との間に睨み合いが続いていた。
その際に私はタンプルに向かって恐る恐る問い掛けた。心の中で結論は出てしまっているのだが、それでも問わずにはいられなかったのだ。

「ねぇ、あいつは誰なの?」

「……少なくとも天使たちの王じゃねえってことは確かだな。あんな奴よりも随分と上のやつが出てきちまった」

「じゃあ、あいつは「あのお方」ってやつ?」

タンプルは首を縦に動かす。

「じゃあ、あんたたちは全部あいつの操り人形ってわけ?」

「……否定はしねぇ。オレたちはあいつがいないと何にもできねぇ。あいつがいねぇと動くこともできねぇ。それだけの絶対の存在なんだ……」

私に向かって語り掛けるタンプルの顔はどこか重く感じられた。
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