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天使王編

襲撃の一報ッ!

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「先生はロブスターって好きですか?」

私の質問に対してジョージは首を傾げていたが、すぐに愛想の良い笑顔を浮かべて答えた。

「うん。好きだよ」

ジョージは歯切れの良い声で言った。好感を与えるようなカッコいい声である。
おまけにその笑顔からは曇る姿が見えない。眩いばかりの笑顔が太陽のように輝いていた。
表情を変えないということは、先程の質問は間違いだったのだろうか。そう考えた私は質問を変えてみた。

「ティーの勉強の進行具合はどうですか?初日に教えてみての感想は?」

「うん。やはり、あの人の子女というだけのことはあって頭はいいよ。飲み込みも早いし、教えていてとても楽しいかな」

「なら、今度は私にも教えてくださいよ。私も座学の復習をしたいし、何より友達の私がいた方がティーも勉強が捗るでしょうし」

「……それは駄目なんだ」

ジョージの顔が急に険しくなった。その際に声も低くなったのを私は聴き逃さなかった。

「……それはどうしてですか?」

「……あのお方からティーの勉強に討伐隊の面々を入れてはいけないと厳命されているからね」

ジョージの目が青白く光る。体全体から威圧しているかのようであった。
彼としては脅しているようなのであったが、私としては疑念を確信に変えたようなものであった。

私は残念そうな顔を浮かべた後で丁寧に頭を下げて無理を言ったことを謝罪する。
ジョージはそんな私に困ったような笑顔を浮かべながら顔を上げるように言う。

「子供に謝ってもらうなんてそんな……ぼくの方こそ断っちゃってごめんね」

「いいえ、いいです。気にしないでください」

「こちらこそ、きみを傷付けてしまって……そうだッ!寝る前の時間に私が座学の復習を手伝うというのはどうかな?」

「いいんですか?」

「うん。討伐隊としてのお役目もあるだろうから、疲れた時は寝てくれて構わない。キミの気が向いた時に私に声を掛けにきてよ。ティーの勉強を見終わった後ならいくらでも見てあげるよ」

「……ありがとうございます」

私が頭を下げたのと同時にエンジェリオン発生の情報が告げられる。
私は慌てて装備を取りに向かい、そのままエンジェリオンが出現したという農園にまで向かう。
この速報を告げられた際に私はティーを連れて行ったのだが、その時にジョージが一瞬、私を睨んでいたことに気が付く。

しばらくの間、私を睨み付けていたのだが、私が視線を向けると、すぐに朝食を食べる作業に戻っていた。
農園の方では数体のエンジェリオンが現れて、人の姿を探しているのが見えた。
王太子兼討伐隊隊長となったブレードに率られた私たちの部隊は農園にて残虐非道の限りを尽くす天使たちと対峙した。

しばらくの間、私たちは睨み合っていたのだが、やがて現れたうちの一体が私たちに向かって斬り掛かってきたのである。
私が迎え撃とうとする前にブレードがそれを止め、自らの姿を馬の怪物へと変えた。

巨大な剣と大きな盾を持つ二本足の馬が雑魚天使を圧倒していく。
馬の頭を持つ剣士は現れた天使たちを次々と斬り刻んでいき、荒い鼻息と共に最後の一体を葬り去った。

「ンだよ。つまんねーな。おれにも一体くらい残しておいてくれよ」

オットシャックが愚痴を吐く。

「まぁ、いいじゃない。こうして無事に終わったんだし」

クリスが苦笑いを浮かべながらオットシャックを窘める。
その二人の姿を見ながら武装を解除するブレード。このまま合流して城に帰れば終わりかと思ったのだが、その脅威は突然現れた。
昨晩私の部屋を襲撃したザリガニのような怪物が私たちとブレードの間に割って入ってきたのである。

怪物が私の前に割って入ってきた時に討伐体の面々の表情の筋肉が引き攣ったのを私は見逃さなかった。
不味い。案の定予想外の襲撃に馬を動かす手が止まっている。このままでは仲間たちが動けなくなってしまうだろう。
ここは私が先陣を切るしか恐れは消えないに違いない。

私は既に元寇で一番先に先駆けを行った竹崎季長の心持ちであった。或いは田楽狭間の戦いで今川義元に一番槍をつけた服部一忠の心境であったかもしれない。
ともかく、怯えている仲間たちに私は心の中で叫んでやりたかった。
ザリガニのような怪物に対して一番槍ならぬ一番剣を斬りつけたのは私だ、と。

ザリガニのような怪物に向かって私は自分の魔法を纏わせた剣で大きく振りかぶって、ザリガニの怪物から黒い煙を出させることに成功したのである。
マリアを除く仲間たちはその姿を見て歓喜の声を上げる。

だが、仲間たちの歓声はザリガニのような怪物が起き上がるのと同時に歓声はすぐに絶望へと変わっていく。
ザリガニのような怪物は鎖鎌を自身の上で勢いよく振り回していく。

恐らく仲間たちを狙おうとしているのだろう。そうはさせない。私が剣を振り上げて胴体を斬りつけようとした時だ。
怪物の口元が怪しく歪む。ニヤリと『不思議の国のアリス』に出てくるチャシャ猫のように笑っていたのだ。

何が起きたのかと思った時だ。私の腹が思いっきり蹴り付けられた。
蹴り飛ばされた勢いで背後へと飛ばされた私は地面の上を転がり、ザリガニのような怪物を睨む。

その時だ。またしても分銅が飛んで来たのである。
私は剣を使って分銅を防いだのだが、それこそが敵の思う壺であったのだ。
分銅と鎖が蛇のように絡み付いた剣身は怪物によって引っ張られて私の手から奪い取られてしまう。

私はそれを見て雄叫びを上げ、自らの体を変化させていく。武装を施してから弓矢を構えて怪物に向かって放っていく。
謁見の間に現れたあの婦人のように弓矢が正確に扱えればいいのだが、私の腕は彼女よりは落ちてしまうらしい。
ザリガニの怪物は矢を巧妙に掻い潜って私の元へと向かってくる。

怪物は私の元へと近付いてくると、そのまま勢いをつけた分銅を私の足元にまで叩き込んでくるのである。
私は足元に分銅が叩き込まれた瞬間に弓矢を手放し、腰に下げられた二本の短剣を抜きザリガニの怪物に向かって斬りかかっていく。

ザリガニの怪物は寸前のところで短剣を回避し、そのまま私の腹に回し蹴りを叩き込む。
私は悲鳴を上げて地面の上を転がっていく。そのまま起き上がろうとしたものの、今度はもう片方の手を含む二本の鎌を振られて私は慌てて防ぐ。
鎌と短剣とが擦り合わさって大きな音を立てていく。

ギリギリと刃物がぶつかり合う音が耳元にまで聞こえる。
こうなれば持久戦である。こうなれば覚悟してもらうではないか。
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