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三神官編

キミが求めるもの

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宙の上を自由自在に翼を使って飛び回る。そのことだけを考えれば前の世界の私が羨ましく思うだろう。それでも今の戦う姿を見ればそれだけで幻滅するだろう。
また、空を飛ぶという行為自体も実際のところは恐ろしいものだ。まず、足が地面に遠いという感覚が慣れないのだ。

戦っている最中は気にすることはないが、そんな事を考えながら私は二体の鳥の姿を模した怪物を相手にしていた。
鳥に向かって剣を振るう。煌びやかな閃光が空の上で輝き、隼の胴体に向かって切り傷を付ける。

相手は曲がりなりにも天使である。幸運なことに人間や他の生物のように血液が滴り落ちるということはなく、私は悍ましいものを見ずに済んだ。
私は息を整える暇もなく背後から襲ってくる梟の怪物と戦わなくてはならなかった。

私は背後を振り返り、梟の怪物と対峙していく。大きく振りかぶってくる爪を短剣で防ぎ、その体を強い力で蹴り上げる。
梟の怪物は悲鳴を上げて後方へと吹き飛ぶ。

その瞬間に私はゾクゾクと高揚感が襲い掛かっていく。今この瞬間にこの場を支配しているのは私なのだ。
誰にも止められない。誰も私を制御することはできないのだ。
今の私が感じる万能感は何が元ネタであったのだろうか。記憶にない。

ただ、今の私が感じているような万能感は何かいけないものであったということは覚えている。
その時に動きを止めてしまったのがいけなかったのだろう。隼の怪物による背後からの襲撃に気付かずに地面の上へと落ちていってしまう。

背中に強烈な痛みを感じた瞬間には体のバランスが取れずに咄嗟に翼を動かすことができなかったのだ。
地面に激突するよりも前のところで翼を動かせたのは不幸中の幸いというべきだろう。

翼を動かし、ブレーキのように動かした後は再び、宙の上で待ち構える二体の天使たちを討伐しに向かおうとしたが、その前に二体の天使の姿が消失してしまったことにより私の計画は頓挫してしまう。

「クソッ!クソッ!まさか、あんなところで逃げるなんて……」

「まぁ、悔やんでも仕方がないよ。キミは頑張った……今日はもう帰ろうか」

ブレードが肩に手を置きながら優しい声で告げた。私は黙って首を縦に動かし、自分の馬に乗って帰ろうとした時だ。

「待ちなよ。キミ……天使の力を出し切ったのにどうしてあいつらを仕留められなかったのかな?」

「ちょっと、何よ。だって逃げられたんだから仕方ないでしょ?」

「よくないなぁ。あいつらはたった一人でこの街を壊滅に追いやりかけたんだぞ。次にあいつがやってきたらどうするつもりなのかな?」

「その時はその時で考えればいいでしょ!?」

私がねちっこく尋ねるポイゾに嫌気が刺してきた時だ。ブレードが間に入って、ポイゾを窘めた。

「キミもいい加減にしなよ。しつこい男っていうのは嫌われるよ」

「キミには関係のない話だ。ぼくはこいつの責任をーー」

「キミが問うべき話じゃあないはずだ」

「でも、こいつはあの二体の天使を取り逃したんだぞッ!」

ポイゾの声が高くなった。興奮しているらしく、荒い鼻息が聞こえてくる。
話にならないと判断したのか、ブレードは小さく首を横に振った後で強引に私の前からポイゾを引き剥がす。

その様子を見ながら私は大きな溜息を吐きながら馬に乗った。
それから王立孤児院に戻る道程の馬の動きが妙に重く感じられた。ポイゾから嫌味を言われたためか、はたまたその影響で帰りの仲間たちの口が重かったためかはわからない。

いずれにしろ大変な一日であった。私はやるべき事を終えて自室のベッドの中に潜り込んで手足を伸ばすと、欠伸と共に手足がピクピクと動いていくことに気が付いた。
自分の体は正直なものだ。そんな事を考えながら目蓋を閉じ、世界を闇で覆った。
疲れ過ぎれば夢を見ないという言葉があるが、その言葉は本当であったらしい。

翌朝、眠い目を擦りながら身支度を整えて朝食の席へと向かうと、朝食の席がやけに騒がしかった。
その理由はクリスが持っていた新聞にあった。

「こ、国王暗殺?」

私は声を震わせながらクリスに問い掛けた。

「うん!昨晩に賊が忍び込んで陛下の命を奪い取ったらしいんだッ!」

クリスは緊張のためか、私の問い掛けに対して舌をもつれさせながらも答えた。
どうやら本当のことであるらしい。
それから後は大騒ぎであった。ノーブとブレードの両名は急遽王宮に呼び出されたために本日の訓練は自主練ということになった。

私はマリアと木剣で打ち合いながらも、頭の中では試合のことではなく国王崩御についての詳細を考えていた。
前の世界でもこの世界でも私が一般人であるためか『崩御』という言葉にいまいちピンとこない。

言葉の意味は理解できていても、どうしても頭が納得しないのだ。
崩御となったからには『自粛』があるのだろうか。
私の中では崩御と自粛が結び付いているのだ。それは昔、児童向けの歴史漫画で読んだとあるお方の崩御が大きく影響している。
そんな事を考えていると、マリアから一本を取られたことに気がつく。

「上の空だったよ?大丈夫?」

一本を取られて頭を痛める私に対してマリアは優しく手を伸ばす。

「あっ、うん、平気……」

「無理もないよ。ミーティア王国の顔だったお方がいきなりいなくちゃったんだもんね」

マリアは空を見上げながら言った。彼女の視線には既に旅立ってしまった国王の顔が見えているのだろうか。
それ程までに彼女にとって国という存在王は偉大な存在だったのだろうか。
私はわからなかった。しかし、その日、私もマリアも始終上の空であったのは確かだ。

いや、私とマリアだけではない。他の面々も同じく何かをなくしたかのような表情をしていた。
それでも中には例外がいる。ポイゾがそうだった。彼は木剣を握り締めながら上の空の表情をしているクリスを必要以上に叩きのめしていたのだ。
その姿を見て慌ててクリスからポイゾを引き離すオットシャック。

「おい、お前何やってんだよ!クリスが一体何をしたって言うんだよッ!」

「止めないでくれるかなぁ?ぼくは陛下を害した逆賊をこの手で殺すための準備しているというのにさぁ」

「ンなことは王都の警備隊の仕事だろうがッ!お前のやる事じゃねーだろッ!」

「離せッ!」

ポイゾはオットシャックの腕の中で体を振るわせて大暴れしながら叫ぶ。自主練といっても今日はもう無理だろう。
そんな事を考えながら私は暴れるポイゾの姿を見つめていた。
国王というのはそれだけ大きな存在であったに違いない。
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