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三神官編

討伐隊全滅!?

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「……目が覚めたらしいな」

私がその言葉を聞いて目を覚ますとノーブが私の額に冷えたタオルを置いていることに気がつく。
慌てて辺りを見渡す。この場所は討伐からの帰り道ではなく私の部屋であった。
私が横たわっているのもどうやら私のベッドの上で間違いなかった。

ノーブの話によれば、あの戦いで私たちは負けてしまい、全滅してしまっていたらしかった。
道の上で倒れているところを通りがかりの人が発見して人を自警団などを動員して孤児院に運び上げたらしい。

その後で自警団や孤児院に残る隊員に属さない子供たちで私たちを運び入れ、それぞれの自室に入れられたのだそうだ。
残りの仲間たちも一応は無事であるらしい。私がホッと溜息を吐いた途端に全身を途方もない痛みが襲う。途方もない痛みが襲ってくるのだ。

起き上がることすらできないほどに痛い。私が痛みのために両目から涙を流していると、ノーブが顔を近付けながら、

「なぁ、討伐の帰りに何があったんだ?」

と、問い掛けた。
私は言うべきか迷った。私たちが倒したはずの婦人が再び姿を現したなんて言ったなんてノーブに告げれば彼は本当に困ったというような顔をするかもしれない。或いはそんな馬鹿なことがあるものかと笑い飛ばすかもしれない。

私がどんな言い訳をすればいいのかとか、どんな話をすればいいのかと悩んでいた時だ。
不意に扉が開いて、見知らぬ男性が姿を現せた。
黒い街灯を羽織り黒色の上着を纏っており黒い帽子を被った中年の男性であった。

「あの人は誰?」

私は反射的に問い掛けた。

「あの人か?神聖リーモ帝国随一の富豪と称されるトーマス・クレイル氏の使いの者さ」

「トーマス・クレイルってあのトーマス・クレイル?」

私は思わず痛みを忘れて身を乗り出したが、すぐに痛みは戻り、私の体を痺れさせていった。

「あぁ、遠路はるばる天使たちと戦う天使の姿を見に来たんだそうだ」

「で、でも私は病人だしーー」

「わかってる。私も断ろうとしたんだがなーー」

ノーブが気まずそうな表情で言い訳を行うとした時だ。タイミングを見計らったかのように扉が開いて身なりの良く丈夫な体躯なをした壮年の男が姿を表す。
男の片方の手には大量の果物が入った籠があった。
もう片方の手で数冊の本を脇に挟んで現れた。

「初めまして私の名前はトーマス・クレイルだ。よろしくお願いします」

トーマスは頭を丁寧に頭を下げながら言った。私もトーマスに従って同じく頭を下げる。
自己紹介が終わると、トーマスは果物と本を私の部屋のサイドテーブルに置いて私に笑顔を向けて言った。

「これは私からのお見舞いだ。果物とキミが今後も読めるように小説を持ってきた。巷で流行っている作品らしいな。題名は『悪魔殺しのレギナンス』という作品だったかな?」

『悪魔殺しのレギナンス』は巷で『炎獄の魔神』と人気を二分する有名作品である。
物語は人々に害をなす悪魔たちを主人公、レギナンス・フリードマンが太陽の光を浴びた剣で悪魔たちを倒していく物語である。

私が前いた世界で小学生の三年生の頃に世間で爆発的に流行っていたとある有名な物語と内容がどこか似ているような気がするが、気のせいだろう。
何はともあれ既に内容の一部を暗記するほどに読み込んでいた『炎獄の魔神』を持ってこられなくて済んだという安堵の思いが強くなってくる。
そんなことを考えていると、トーマスが優しい笑顔を浮かべながら私の元へと近付いてくる。

「じゃあ、本題に入るが、キミの活躍を聞かせてほしい」

「わかりました。ベッドの上からでもいいですか?」

「勿論だとも」

私が満足するような話を喋ることができるのか不安ではあるが精一杯やってみることにしよう。
私はこの世界に来てからつい最近に起こった玉座の間での戦いをトーマスに対して語っていく。
全てを聞き終えた後にトーマスは満足した表情を浮かべて両手を叩いていく。

「素晴らしい。実に素晴らしい話だ……異界から迷い込んできたというのにその事を気にせずに我々人類のために人々を救う……感動したッ!」

「そのように言っていただけたのならば幸いです。今日はせっかく来てくださったというのに痛みのために起き上がることもできずに申し訳ありません」

「いやいや、そんなことはどうでもよいのです!大事なのはあなたの話に私が勇気付けられたことです!あなたが白き翼の勇者の再来だという話にも納得がいきますよ!」

「いやぁ。照れますね」

と、照れ臭そうに両頬を染めて私が頭をかいていると、全身が再び痛み始めたのでこれ以上の面会は危険だと判断されて面会は終了となった。
ノーブは倒れている状況であるのにも関わらず来客を入れたことに対して謝罪の言葉を述べた。

しかし、私はその言葉を聞いても慌てて私は首を振る。
ノーブは再びタオルを冷やしてそれで私の額を冷やすとそのまま部屋を後にした。
その後で私はベッドの上で意識を失った。気が付いた時には私は別の場所に立っていた。そこはティーの部屋であった。

討伐隊の最年少の7歳。ティー・ロンガー。彼女の部屋であった。可哀想なことに彼女も私と同様に徹底的に痛め付けられたらしい。
憔悴しきった様子で部屋の中でか細い息を立てて眠っていた。
しばらくの間、私は悲痛の思いで彼女を見守っていた。可哀想だ。自分の肉体が自由に動けば彼女を手助けしてあげたい。
そんなことを考えていた時だ。不意に扉が開いて帰ったはずのトーマス・クレイルとノーブの姿が見えた。

「クレイル卿……本当によろしいのですか?」

「もちろん、私は本来、この子に会うためにやってきたのだからね。あの話も面白かったが、こうして実の娘に会えるのとでは喜びの天秤が違うよ」

「……そうですか。ですが、あなた様のいう実の娘は眠っておられますので、お話は……いえ、あの子は言葉を話せませんのでどのみち会話をお楽しみすることはできません」

ノーブは後ろめたいことがあるかのように告げたが、トーマスは気にすることなく満面の笑みを浮かべて言った。

「いいや、十分だ。ありがとう」

お礼の言葉を聞くと、ノーブは部屋を後にした。トーマスは部屋の扉が締め終わったのを確認すると、眠っているティーの手を強く掴みながら言った。

「ティー。私だよ。キミの実の父親だ」

返答はない。眠っているのだから当然の反応である。
だが、トーマスはそこで諦めることをせずにそのまま眠っているティーを抱き起こして抱擁を行ったのである。
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