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三神官編
天使たちの頭目
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森には指揮官がいた。いつも通りならば数十体のうちの一体という割合なのだが、今回の割合は数十体のうちに三体という数であった。
三体のうち一体は前世の鯱を思わせる頭に体をしていた。しかしその体は腹筋に割れており、その点が奇妙に思えた。
異なる点は腰布を巻き付けている点くらいだろうか。左手には四角い縦、右手には銛を思わせるような槍を構えていた。
鯱の怪物の目は白く光っており、私たちを牽制していた。
しかし、それ以上に不気味に思えたのはその隣に控えていた蟹に似た指揮官とクラゲに似た指揮官である。
蟹に似た指揮官は全身を甲殻に覆われ、顔は蟹をそのまま凶悪にしたような顔であった。小さくてもギラギラと光る両目が私たちを睨んでいる。おまけに両腕の代わりについた大きな鋏までも私たちを狙って怪しく光っている。
不幸中の幸いは鯱の指揮官とは異なり、他の天使と同様の鎧を身に纏っていることだろうか。
クラゲに似た指揮官は右側頭部と左側頭部からクラゲから見える二本の足を生やしていた。
しかし、顔はクラゲがそのまま頭に被さっているかのようで蟹や鯱のように顔を確認することはできなかった。
クラゲの怪物は他の天使たちと同様の鎧を身に纏っていた。
蟹とクラゲは他の天使たちと同じ鎧を身に纏っているというのに、鯱の指揮官だけは免除されているのは何故だろうか。
私が難しく考えていると、先に鯱の怪物が攻撃を始めた。
やむを得ずに私も雄叫びを上げて自らの体に電気の電気の鎧を纏わせていく。
翼も生えており、空中戦に備えることもできるが、目の前の指揮官であるのならば空よりも海の方が似合うだろう。
というか、なぜこの三匹の海をモチーフにした怪物が森というモチーフとはかけ離れた場所に現れたのかわけがわからない。
私はそのまま目の前に現れた怪物たちについての考察をめぐらせていたかったが、蟹に似た指揮官たちが先に攻撃を繰り出したことによって応戦を余儀なくされた。
大きな鋏を振り上げてブレードを襲い始めたのである。ブレードは慌てて剣を盾にして防ぎ、指揮官の攻撃を回避したのである。
これがコングとなって討伐隊とエンジェリオンたちとの戦端が切って落とされたのである。
どうして海の生き物たちが陸上の、それも森の中に現れたのかと考える暇はなかった。
私は剣を振り上げて、敵対者たちを迎え撃った。いつもと同じ混戦が始まった。
今回は蟹をブレードが、クラゲをマリアが、そして中心の鯱を私が担当することになった。
鯱の怪物の持つ銛と私の短剣とがぶつかり合い、凄まじい音を立てていく。
しばらくの間は刃と銛の先端とが擦り合いお互いに一歩も引けないという思いで武器を離さなかった。
それでも限界というのは訪れる。腕が痺れた後で武器を離して、お互いに睨み合う。
かと思えば執拗に銛を構えて突いてくるのである。私は剣を持ってそれを防ぐ。
その後で剣を使って銛ごと怪物を弾いていく。
今度は至近距離から近付いて、剣を振るっていくが、先程と立ち位置が入れ替わるだけであった。
このままでは決着が付かない。私が焦っていた時だ。背後から声が聞こえた。
小さいけれどもハッキリとした声で「やめなさい」という声が聞こえた。
その声を聞いた鯱の怪物は一瞬、動きを止めたが、すぐにまた再開して私を襲い掛かろうとした。
しかし、怪物の動きは封じ込められた。空中で静止している。それまではいくら押し込んでも静止しなかったかのように接着剤を塗られた瞬間にピクリとも動かなくなった小物のようにその場から動かなくなっていた。
何が起きたのかと私が慌てて辺りを見渡すと、辺りの木々の枝が風もないのに揺れる。
何が起きたのかと私が慌てて周辺を捜索すると、背後に例の婦人の姿が見えた。
「あ、あんた……」
「久し振りね。波瑠」
婦人は私を揶揄うように笑いながら言った。
「……こいつらはあんたの手先?」
「あら、この子ったら母親に向かってなんて口を利くのよ」
「天使の下手くそな変装のくせに何を言うのかな?そんな事よりも私の母親を名乗ったことを謝ってもらいたいんだけど」
「謝る?どうして私が?」
婦人は訳がわからないという風に首を傾げた。演技や私を揶揄うために言っているというわけではなく本当に訳がわからないと言っているようだ。
首をかしげる姿を見て殺意が湧いた。人をあんな風に傷付けておいて、どうして罪悪感の欠片もないのだろうか。
そこまで考えたところで私は思い直す。どうやら天使たちに人間の倫理というのを求めても無駄であるらしい。
ならばこのままここで始末するのが正しいのだろう。
私は短剣を鞘の中に仕舞い、弓矢を新たに作り出してそれを構える。
普通の天使であるのならばここで危機を覚えて襲い掛かってくることだ。
だが、目の前にいる婦人は違う。冷静な態度を装ったままである。
妙だ。私が訝しげな視線で睨んでいると、婦人がクスクスと笑いながら言った。
「ねぇ、波瑠。覚えているかしら?小学一年生の頃の授業参観の時のこと」
「……どこで読んだのかわからないが、天使のくせに私の記憶を読んだらしいな。生憎だけれども私はしっかりと覚えているぞ」
「その時に何を言ったか覚えてるわよね?」
「もちろん、あの日……帰りに文房具店に連れて行ってもらったんだ。そこでお前じゃないお母さんに切れてしまった糊と色紙を買ってもらったんだ」
「その時に作ったのよねぇ。下手くそな鶴とインコ……下手くそすぎて地面の上に叩き落としてやろうと思っていたわ」
「成る程、お母さんがそう思っていた私に印象付けて、私の士気を落とそうというんだな?お前たち天使の考えそうなことだ」
「何を言っているの?ちゃんと倉持響子があなたに持っている感情なのよ。それに私は本人なんだから」
そう言って目の前の婦人は懐に手を伸ばし、何かを取り出す。首を傾げる私を手招きし、無理矢理目の前に立たせて私に向かって言った。
「ちゃんと見なさい」
婦人の中にあったものは確実に幼少期の私が母に送ったものであった。
年齢が一桁の頃の私が母に向かって折った折り紙である。
「あっ、そ、そんな……」
「これでわかったかしら?お馬鹿なお嬢ちゃん」
嘘だ。嘘だ。そんなの嘘だ。私は大きな声で叫んだ。
その後に再び私の視界が狭くなったが、そんなもの構いはしない。
私は叫んだ。大きな声で母の名前を。
三体のうち一体は前世の鯱を思わせる頭に体をしていた。しかしその体は腹筋に割れており、その点が奇妙に思えた。
異なる点は腰布を巻き付けている点くらいだろうか。左手には四角い縦、右手には銛を思わせるような槍を構えていた。
鯱の怪物の目は白く光っており、私たちを牽制していた。
しかし、それ以上に不気味に思えたのはその隣に控えていた蟹に似た指揮官とクラゲに似た指揮官である。
蟹に似た指揮官は全身を甲殻に覆われ、顔は蟹をそのまま凶悪にしたような顔であった。小さくてもギラギラと光る両目が私たちを睨んでいる。おまけに両腕の代わりについた大きな鋏までも私たちを狙って怪しく光っている。
不幸中の幸いは鯱の指揮官とは異なり、他の天使と同様の鎧を身に纏っていることだろうか。
クラゲに似た指揮官は右側頭部と左側頭部からクラゲから見える二本の足を生やしていた。
しかし、顔はクラゲがそのまま頭に被さっているかのようで蟹や鯱のように顔を確認することはできなかった。
クラゲの怪物は他の天使たちと同様の鎧を身に纏っていた。
蟹とクラゲは他の天使たちと同じ鎧を身に纏っているというのに、鯱の指揮官だけは免除されているのは何故だろうか。
私が難しく考えていると、先に鯱の怪物が攻撃を始めた。
やむを得ずに私も雄叫びを上げて自らの体に電気の電気の鎧を纏わせていく。
翼も生えており、空中戦に備えることもできるが、目の前の指揮官であるのならば空よりも海の方が似合うだろう。
というか、なぜこの三匹の海をモチーフにした怪物が森というモチーフとはかけ離れた場所に現れたのかわけがわからない。
私はそのまま目の前に現れた怪物たちについての考察をめぐらせていたかったが、蟹に似た指揮官たちが先に攻撃を繰り出したことによって応戦を余儀なくされた。
大きな鋏を振り上げてブレードを襲い始めたのである。ブレードは慌てて剣を盾にして防ぎ、指揮官の攻撃を回避したのである。
これがコングとなって討伐隊とエンジェリオンたちとの戦端が切って落とされたのである。
どうして海の生き物たちが陸上の、それも森の中に現れたのかと考える暇はなかった。
私は剣を振り上げて、敵対者たちを迎え撃った。いつもと同じ混戦が始まった。
今回は蟹をブレードが、クラゲをマリアが、そして中心の鯱を私が担当することになった。
鯱の怪物の持つ銛と私の短剣とがぶつかり合い、凄まじい音を立てていく。
しばらくの間は刃と銛の先端とが擦り合いお互いに一歩も引けないという思いで武器を離さなかった。
それでも限界というのは訪れる。腕が痺れた後で武器を離して、お互いに睨み合う。
かと思えば執拗に銛を構えて突いてくるのである。私は剣を持ってそれを防ぐ。
その後で剣を使って銛ごと怪物を弾いていく。
今度は至近距離から近付いて、剣を振るっていくが、先程と立ち位置が入れ替わるだけであった。
このままでは決着が付かない。私が焦っていた時だ。背後から声が聞こえた。
小さいけれどもハッキリとした声で「やめなさい」という声が聞こえた。
その声を聞いた鯱の怪物は一瞬、動きを止めたが、すぐにまた再開して私を襲い掛かろうとした。
しかし、怪物の動きは封じ込められた。空中で静止している。それまではいくら押し込んでも静止しなかったかのように接着剤を塗られた瞬間にピクリとも動かなくなった小物のようにその場から動かなくなっていた。
何が起きたのかと私が慌てて辺りを見渡すと、辺りの木々の枝が風もないのに揺れる。
何が起きたのかと私が慌てて周辺を捜索すると、背後に例の婦人の姿が見えた。
「あ、あんた……」
「久し振りね。波瑠」
婦人は私を揶揄うように笑いながら言った。
「……こいつらはあんたの手先?」
「あら、この子ったら母親に向かってなんて口を利くのよ」
「天使の下手くそな変装のくせに何を言うのかな?そんな事よりも私の母親を名乗ったことを謝ってもらいたいんだけど」
「謝る?どうして私が?」
婦人は訳がわからないという風に首を傾げた。演技や私を揶揄うために言っているというわけではなく本当に訳がわからないと言っているようだ。
首をかしげる姿を見て殺意が湧いた。人をあんな風に傷付けておいて、どうして罪悪感の欠片もないのだろうか。
そこまで考えたところで私は思い直す。どうやら天使たちに人間の倫理というのを求めても無駄であるらしい。
ならばこのままここで始末するのが正しいのだろう。
私は短剣を鞘の中に仕舞い、弓矢を新たに作り出してそれを構える。
普通の天使であるのならばここで危機を覚えて襲い掛かってくることだ。
だが、目の前にいる婦人は違う。冷静な態度を装ったままである。
妙だ。私が訝しげな視線で睨んでいると、婦人がクスクスと笑いながら言った。
「ねぇ、波瑠。覚えているかしら?小学一年生の頃の授業参観の時のこと」
「……どこで読んだのかわからないが、天使のくせに私の記憶を読んだらしいな。生憎だけれども私はしっかりと覚えているぞ」
「その時に何を言ったか覚えてるわよね?」
「もちろん、あの日……帰りに文房具店に連れて行ってもらったんだ。そこでお前じゃないお母さんに切れてしまった糊と色紙を買ってもらったんだ」
「その時に作ったのよねぇ。下手くそな鶴とインコ……下手くそすぎて地面の上に叩き落としてやろうと思っていたわ」
「成る程、お母さんがそう思っていた私に印象付けて、私の士気を落とそうというんだな?お前たち天使の考えそうなことだ」
「何を言っているの?ちゃんと倉持響子があなたに持っている感情なのよ。それに私は本人なんだから」
そう言って目の前の婦人は懐に手を伸ばし、何かを取り出す。首を傾げる私を手招きし、無理矢理目の前に立たせて私に向かって言った。
「ちゃんと見なさい」
婦人の中にあったものは確実に幼少期の私が母に送ったものであった。
年齢が一桁の頃の私が母に向かって折った折り紙である。
「あっ、そ、そんな……」
「これでわかったかしら?お馬鹿なお嬢ちゃん」
嘘だ。嘘だ。そんなの嘘だ。私は大きな声で叫んだ。
その後に再び私の視界が狭くなったが、そんなもの構いはしない。
私は叫んだ。大きな声で母の名前を。
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