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大魔術師編

閉じたはずの蓋はまた開く

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あの妙な夢を見て以来、しばらくの間は訓練の間にマリアと目が合うたびに思春期の男子が好きな女子に逸らすように意図的に目を逸らしてしまっていた。

情けない話である。戦いの時もそうだ。指示を聞いたり、彼女と肩を並べて戦ったりということはできるのだが、どうも目線だけを意図的に逸らしてしまうのだ。
あんな過去を見てしまっては仕方がないとは思うのだが、どことなく後ろめたいものを感じてしまう。

このまま逃げ続けたいところであるのだが、それは彼女の過去が許さなかった。
たまたまその日私はブレードとマリアとの街でのデートに付き合うことになったのだが、そこで彼女の義姉と再会してしまったのである。

「ね、義姉さん?」

「あんたに義姉さんだなんて呼ばれてほしくないからもう言わないで……それでなんであんたここにいるの?」

「義姉さんこそどうしてここに?」

だが、その女性は近付いてマリアに向かって平手打ちを喰らわせたのである。
マリアは悲鳴を上げてその場に崩れ落ちる。
崩れ落ちたマリアを冷ややかな視線で見下ろしながら彼女は言った。

「やめろって言ったわよね。なんて図々しいのかしら。やっぱり貧乏人の娘はバカね。親の顔が見てみたいわ」

なんと嫌な人間なのだろう。ポイゾの嫌味にもほとほと嫌気が差していたのだが、彼女の態度はポイゾの嫌味よりも何倍もひどかった。
私とブレードはマリアを守るように義姉の前に立ち塞がる。

「これ以上はやめてもらえませんか?マリアとあなたとはもう関係がないはずでしょ?」

「うるさい、貧乏人。貧乏人のくせに生意気よ」

「じゃあ、金持ちのあなた様に改めて聞きますけど、往来の真ん中で人を叩いてもいいんですか?」

「あんた、馬鹿にしてんの?」

マリアの義姉が不愉快そうに眉を顰めて私の元へと近付いてくる。頬を叩くのならば叩いてみろ。叩いた場合は倍返しだ。鞘で小突くくらいはしてやろうではないか。
その意気込みで嫌味な義姉を睨んでいた時だ。彼女の背後で大魔術師とあの貴婦人が商店の壁にもたれかかって私を見つめていたのである。

私は目の前でしつこく絡み続けるマリアの義姉を突き飛ばし、二人の姿を追いかけていく。
だが、二人の姿は見られない。私がその場所にたどり着いた瞬間に煙を払うかのように消えてしまったのである。
その後はいくら探してもその姿を見せなかったのである。

「なんなのよ……なんなの、もう!」

私の絶叫だけが商店の間で響き渡っていく。
私が失意の思いで二人の元に帰ると、二人は大勢の人々に囲まれたていた。
ブレードはバツの悪そうな顔を浮かべているし、マリアに至っては怯えており、全身を震わせている。

私が人を押し除けて、二人の前に現れると、大袈裟に片手を押さえたマリアの義姉の姿が見えた。
彼女は私の姿が見えると同時に鋭い目で私を睨む。

「どうしてくれんのよ!怪我しちゃったじゃあない!」

「怪我?本当ですか?」

「そうよ!あんたが私を突き飛ばしたせいで肘を打ったのよッ!」

そう言って女性は肘を見せたが、素人の私から見てもわかるようなかすり傷である。私はその事を告げ終えた後で肘を叩いてみせる。
それで彼女が大袈裟な演技を始める前に見物にきた客に向かって彼女の怪我が大した事ない事を告げていく。

その後では大袈裟に痛がってもどうにもできない状況に築き上げていくのである。
その後で私は満面の笑みを浮かべて言った。

「よかったですね。怪我が大したことなくて」

その瞬間に彼女の堪忍袋の尾が切れたらしい。我を忘れたように私のことを詰っていく。聞いていて愉快ではない言葉ばかりをぶつけられたが、私は笑顔を浮かべてスルーした。
私が動じる姿見せないことが不愉快であったらしい。眉を顰めながら大きな音を立ててその場を去っていく。
その後で私は心配しそうな顔を浮かべてマリアに向かって手を伸ばす。

「マリア、大丈夫?」

「な、なんてことを……殺される……私たちみんな義姉さんに殺されちゃうッ!」

「落ち着くんだッ!大丈夫だから……」

動揺して泣きじゃくるマリアの背中を優しく摩っていく。
もうこれではデートどころではないだろう。私はブレードと共にマリアを兵舎の自室にまで運ぶ。
私は悪夢にうなされて泣きじゃくる彼女を懸命に慰めていた。そろそろ夕飯という時間に突然、ブレードに呼ばれて兵舎の応接室に呼び出された。

応接室には大袈裟に包帯を巻いた昼間の女性とノーブの二名が私を待ち構えていた。
応接室の上に座らせられると、昼間の出来事を責められた。
私は彼女が街の商会の女店主である話や王家とも懇意にしている商店の話を聞かされた。どうやら金の力を用いて怪我を大怪我に仕立て上げたらしい。
ほとほと呆れ果てた人物である。

その後で、マリアの義姉は涙ながらにエンジェリオンによって街が襲撃され、その際に母を失ってしまい、以後はその後釜に収まったという話を語っていく。
彼女は自身の母親がエンジェリオンによって頭を潰されたと話し、私はその凄惨な死に際を考えて、思わず気分が悪くなってしまった。

だが、顔を背いてはいけないらしい。
私はノーブに顔を背けてしまったことを注意され、頭を下げさせられた。
その後は気が狂ったように謝罪と賠償を叫ぶ商家の女主人に対して申し訳のないふりをするばかりである。
そんな彼女に対してひとまず頭を下げた。無論、心の中では舌を出しっぱなしであった。

しかし、頭を下げたものの賠償については納得しなかった。
突き飛ばしたことは事実であるが、彼女が提示するような莫大な金額を払う必要などない。
せいぜい傷の手当代くらいのはずだ。
彼女の怪我の具合を尋ね、包帯を取るように依頼したのだが、彼女は頑なに拒否した。
そのため話はねじれ、後日にまた話し合いが行われることになった。

ようやく厄介な敵が去ったと安堵した後にノーブに迂闊な行動を控えるように説教され、私の気分は落ち込んでいた。
このまま自室で娯楽小説でも読もうかとベッドの上に寝転び、小説を中盤まで読んでいた時だ。
血相を変えたブレードが現れて叫ぶ。

「大変だッ!街にエンジェリオンの一隊が姿を現したッ!」

ブレードの言葉が正しければやはり、街の中で出会ったあの二人は幻ではなく、本物であり、襲撃の下調べでもしていたのだろう。
私はブレードの言葉に従って、武装を整えて馬に乗り込む。

ブレードが部屋の扉を開けた時は太陽が西に沈んでいたということもあり、街に行っていた仲間全員が買い物から戻っていたことも幸いであった。
私は幸運に感謝しながら馬を走らせた。











またしても投稿が遅れてしまいました。本当に申し訳ありません。夜は色々と取り込んでしまいまして……。
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