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大魔術師編
大魔術師が現れた日
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「大魔術師?」
その日、訓練を終えた私は食堂で話しかけて来たクリスの言葉に首を傾げた。
「うん。どんな魔法でも自在に使うことができるんだって!」
クリスは善良な笑みを浮かべなら私に大魔術師について語っていく。
話を聞けば聞くほどに私はその大魔術師に会いたくなってきた。クリスによれば大魔術師は翌日に街に現れているらしい。幸いにも翌日は休暇の日である。
私はクリスの言葉を受けて、翌日に街に向かうことになった。
ちょうど新しい娯楽小説やら紅茶やらが欲しかったところなのだ。少し前に王から貴金属をいただき、私の住う孤児院にも金が入り、ノーブから小遣いが支給されたばかりであるのだ。買い物をついでにその魔術師とやらを見ておくのも悪くはない。
翌日、私とクリス、タンプルとティーの四人で買い物に出かけた時だ。
ちょうど、街の真ん中で大魔術師とやらが自身の魔法を見せている場面に遭遇したのである。
大魔術師は中年相当の男性であり、見た目からは青い表情を浮かべた病人のような印象を受ける。
青色の服とズボンを履き、黒色の上着を羽織っているので、魔術師という印象はあまり受けない。
その魔術師に見えない男は掌の上に炎を作り出し、それを空に向かって放ち、その炎を空中の上で炎で出来た鳥を作るなど見事というより他になかった。
私は魔術師の魔法を見て、前世で見た路上パフォーマンスというものを思い出した。
父はあまり見せてくれなかったが、幼い頃の私は火を吹く外国人の姿に夢中になったものだ。
そんなことを考えていると、ティーが目を輝かせながら大魔術師の魔術とやらに夢中になっていた。
いや、ティーばかりではない。クリスも純真な子供のような顔を浮かべて大魔術師の魔法に夢中になっていた。
だが、タンプルだけは別であった。彼が険しい顔を浮かべているのはいつもの事であったが、今日はより険しい表情を浮かべて大魔術師を睨んでいた。
「どうかしたの?タンプル?」
気になった私が問い掛けても彼は反応しようとしない。彼は往来の真ん中で魔術を披露する大魔術師を親の仇であるかのように睨んでいた。
しかし、落ち着いてきたのかすぐに鼻を鳴らし、慌てて大魔術師の前を通り過ぎようと足早にその場を動く。
だが、クリスとティーがショーに夢中になっており、そんな二人を無理に動かすのは酷な話であった。
やむを得ずに私一人で、タンプルを追い掛けて、タンプルに追いすがり彼に話を聞く。
「ちょっと、どうしたの?嫌いなら嫌いでいいけど、二人を放っておくなんてひどいよ」
「別に、オレはあのインチキ野郎が気にくわねぇだけさ」
「あれ、ちゃんとした魔法だよ。私たちがエンジェリオンとの戦いで使ってる……」
「じゃあ、聞くけどよ。オレたちの中であんな炎で鳥を作ったりできる奴がいると思うのか?」
「いないけどさ」
私が小さな声で不満を漏らすと、タンプルは背中を向けて、ぶっきらぼうな態度で言った。
「……今日はお前の物を見にきたんだろ?付き合うぜ」
「ありがとう。けど、二人を待ってあげないと可哀想だよ」
私はなぜか両耳を赤く染め上げながら言った。照れているのだろうか。あり得ない。相手はタンプルなのだ。
ぶっきらぼうで愛想が悪いけれどもいい人だ。私も彼にとっては好意的な印象を抱いていたのだが、それは恋愛的なものというよりは友情に近いものであるはずだ。
それを聞くと、タンプルは大きな溜息こそ吐いたものの、私の意見に同意した。
そして、大魔術師の演目が終わるのと同時に二人の元へと戻り、迎えに入ったのである。
クリスとティーは興奮しきった様子で私たちに大魔術師と出会った際の感想を語っていく。
熱が冷めぬうちに二人は私たちに大魔術師の偉業を話したいと熱望し、近所の茶店に入っていく。
茶店というのは街の人々の憩いの場であり、同時に出会いや交流の場であるともされていた。
人の良いクリスはすぐに同じく魔術を見ていたという人物と仲良くなり、その人物に紙とペンを借り、ティーにも何が見たのかを語れるようにしておく。
ティーはその人の好意に甘え、紙の中に何があったのかを語っていく。
私がティーの頭を撫でながら二人の話を笑顔で聞いていた時だ。
「お前ら、あんなインチキのどこがいいんだよ?」
「インチキじゃないと思うけどな」
クリスが弱々しく反論を行うものの、タンプルはそんなものでは収まらなかった。
「いいや。インチキだね!あれは魔法なんかじゃねぇ!汚ねぇ小細工を使ってお前ら金を搾り取る気なんだよッ!」
茶店にいた人たちの顔が険しくなる。中には明確にタンプルに敵意を向ける人さえもいた。
これ以上喋らせてはいけない。私はそう感じて、タンプルを無理矢理外に連れ出し、街の路地で彼を諌める。
「ちょっと!あんな言い方よくないよ!タンプルは楽しくなかったかもしれないけど、多くの人は楽しんでたんだからねッ!楽しんでいる人の前であんなこと言っちゃダメだよーー」
「うるせぇな!!じゃあ、オレはそいつらに配慮して、率直な感想も言っちゃいけねぇのかよッ!」
タンプルが激昂して、私の元に迫ってきた時だ。
「久しぶりだな。タンプル」
あの大魔術師が姿を現した。口ぶりから察するに彼はタンプルと知り合いであるらしい。
「お前のような奴がこんなところで馴れ合いとはな……」
「うるせぇな。テメェには関係ねぇだろ。そっちこそくだらない魔法を見せて、他人から金を巻き上げていいとでも思ってんのか?」
タンプルは孤児院外の人にタメ口で言葉を返した。タメ口が許されるのは孤児院の中の関係者だけなのだ。
私は窘めたようとしたものの、タンプルが近寄るなと言わんばかりの圧を私に掛けてくるので、黙るより他にない。
私が黙っているのをいいことに大魔術師とタンプルとは互いに鋭い目で睨み合っていたのだが、やがてタンプルが拳を振り上げ、それを私が慌てて引き剥がしたことにより睨み合いは終了となる。
タンプルに無理矢理頭を下げさせて、謝罪の言葉を述べる私に向かって、大魔術師は寛容な笑みを浮かべていた。
「なんの、なんの、構いませんよ。それよりも私はタンプルと会えただけで幸せなのですから」
その時の大魔術師の笑顔はなんとも言えない不気味なものであった。
私が思わず身じろぎしていると、タンプルが私を無理矢理路地裏から押し出す。
そのまま私は元の茶店の前にまで連れ戻されたのである。
茶店の前で、私はタンプルにあの男との関係を尋ねたものの、はぐらかされてしまい煮えきれない思いを抱えることになってしまった。
その日、訓練を終えた私は食堂で話しかけて来たクリスの言葉に首を傾げた。
「うん。どんな魔法でも自在に使うことができるんだって!」
クリスは善良な笑みを浮かべなら私に大魔術師について語っていく。
話を聞けば聞くほどに私はその大魔術師に会いたくなってきた。クリスによれば大魔術師は翌日に街に現れているらしい。幸いにも翌日は休暇の日である。
私はクリスの言葉を受けて、翌日に街に向かうことになった。
ちょうど新しい娯楽小説やら紅茶やらが欲しかったところなのだ。少し前に王から貴金属をいただき、私の住う孤児院にも金が入り、ノーブから小遣いが支給されたばかりであるのだ。買い物をついでにその魔術師とやらを見ておくのも悪くはない。
翌日、私とクリス、タンプルとティーの四人で買い物に出かけた時だ。
ちょうど、街の真ん中で大魔術師とやらが自身の魔法を見せている場面に遭遇したのである。
大魔術師は中年相当の男性であり、見た目からは青い表情を浮かべた病人のような印象を受ける。
青色の服とズボンを履き、黒色の上着を羽織っているので、魔術師という印象はあまり受けない。
その魔術師に見えない男は掌の上に炎を作り出し、それを空に向かって放ち、その炎を空中の上で炎で出来た鳥を作るなど見事というより他になかった。
私は魔術師の魔法を見て、前世で見た路上パフォーマンスというものを思い出した。
父はあまり見せてくれなかったが、幼い頃の私は火を吹く外国人の姿に夢中になったものだ。
そんなことを考えていると、ティーが目を輝かせながら大魔術師の魔術とやらに夢中になっていた。
いや、ティーばかりではない。クリスも純真な子供のような顔を浮かべて大魔術師の魔法に夢中になっていた。
だが、タンプルだけは別であった。彼が険しい顔を浮かべているのはいつもの事であったが、今日はより険しい表情を浮かべて大魔術師を睨んでいた。
「どうかしたの?タンプル?」
気になった私が問い掛けても彼は反応しようとしない。彼は往来の真ん中で魔術を披露する大魔術師を親の仇であるかのように睨んでいた。
しかし、落ち着いてきたのかすぐに鼻を鳴らし、慌てて大魔術師の前を通り過ぎようと足早にその場を動く。
だが、クリスとティーがショーに夢中になっており、そんな二人を無理に動かすのは酷な話であった。
やむを得ずに私一人で、タンプルを追い掛けて、タンプルに追いすがり彼に話を聞く。
「ちょっと、どうしたの?嫌いなら嫌いでいいけど、二人を放っておくなんてひどいよ」
「別に、オレはあのインチキ野郎が気にくわねぇだけさ」
「あれ、ちゃんとした魔法だよ。私たちがエンジェリオンとの戦いで使ってる……」
「じゃあ、聞くけどよ。オレたちの中であんな炎で鳥を作ったりできる奴がいると思うのか?」
「いないけどさ」
私が小さな声で不満を漏らすと、タンプルは背中を向けて、ぶっきらぼうな態度で言った。
「……今日はお前の物を見にきたんだろ?付き合うぜ」
「ありがとう。けど、二人を待ってあげないと可哀想だよ」
私はなぜか両耳を赤く染め上げながら言った。照れているのだろうか。あり得ない。相手はタンプルなのだ。
ぶっきらぼうで愛想が悪いけれどもいい人だ。私も彼にとっては好意的な印象を抱いていたのだが、それは恋愛的なものというよりは友情に近いものであるはずだ。
それを聞くと、タンプルは大きな溜息こそ吐いたものの、私の意見に同意した。
そして、大魔術師の演目が終わるのと同時に二人の元へと戻り、迎えに入ったのである。
クリスとティーは興奮しきった様子で私たちに大魔術師と出会った際の感想を語っていく。
熱が冷めぬうちに二人は私たちに大魔術師の偉業を話したいと熱望し、近所の茶店に入っていく。
茶店というのは街の人々の憩いの場であり、同時に出会いや交流の場であるともされていた。
人の良いクリスはすぐに同じく魔術を見ていたという人物と仲良くなり、その人物に紙とペンを借り、ティーにも何が見たのかを語れるようにしておく。
ティーはその人の好意に甘え、紙の中に何があったのかを語っていく。
私がティーの頭を撫でながら二人の話を笑顔で聞いていた時だ。
「お前ら、あんなインチキのどこがいいんだよ?」
「インチキじゃないと思うけどな」
クリスが弱々しく反論を行うものの、タンプルはそんなものでは収まらなかった。
「いいや。インチキだね!あれは魔法なんかじゃねぇ!汚ねぇ小細工を使ってお前ら金を搾り取る気なんだよッ!」
茶店にいた人たちの顔が険しくなる。中には明確にタンプルに敵意を向ける人さえもいた。
これ以上喋らせてはいけない。私はそう感じて、タンプルを無理矢理外に連れ出し、街の路地で彼を諌める。
「ちょっと!あんな言い方よくないよ!タンプルは楽しくなかったかもしれないけど、多くの人は楽しんでたんだからねッ!楽しんでいる人の前であんなこと言っちゃダメだよーー」
「うるせぇな!!じゃあ、オレはそいつらに配慮して、率直な感想も言っちゃいけねぇのかよッ!」
タンプルが激昂して、私の元に迫ってきた時だ。
「久しぶりだな。タンプル」
あの大魔術師が姿を現した。口ぶりから察するに彼はタンプルと知り合いであるらしい。
「お前のような奴がこんなところで馴れ合いとはな……」
「うるせぇな。テメェには関係ねぇだろ。そっちこそくだらない魔法を見せて、他人から金を巻き上げていいとでも思ってんのか?」
タンプルは孤児院外の人にタメ口で言葉を返した。タメ口が許されるのは孤児院の中の関係者だけなのだ。
私は窘めたようとしたものの、タンプルが近寄るなと言わんばかりの圧を私に掛けてくるので、黙るより他にない。
私が黙っているのをいいことに大魔術師とタンプルとは互いに鋭い目で睨み合っていたのだが、やがてタンプルが拳を振り上げ、それを私が慌てて引き剥がしたことにより睨み合いは終了となる。
タンプルに無理矢理頭を下げさせて、謝罪の言葉を述べる私に向かって、大魔術師は寛容な笑みを浮かべていた。
「なんの、なんの、構いませんよ。それよりも私はタンプルと会えただけで幸せなのですから」
その時の大魔術師の笑顔はなんとも言えない不気味なものであった。
私が思わず身じろぎしていると、タンプルが私を無理矢理路地裏から押し出す。
そのまま私は元の茶店の前にまで連れ戻されたのである。
茶店の前で、私はタンプルにあの男との関係を尋ねたものの、はぐらかされてしまい煮えきれない思いを抱えることになってしまった。
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