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聖戦士編
蠍の意地
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死んだフリをして私の命を狙おうと画策しているのだろうか。
あり得る。昔、教室で男子が先生に内緒で読んでいた漫画に死んだフリをして主人公を狙う敵のキャラクターがいた。
漫画のタイトルなど今では覚えていないが、その場面だけは今でも鮮明に覚えているから当時の私には相当強烈なものであったのだろう。
確認のために私は遠距離からの攻撃を試みた。両手に握った電気の短剣から電流を飛ばし、彼がどう動こうとするのかを確認したのである。
私のやっている事は前か悪かと問われれば、殆どの人間が『悪』だと捉えるような戦い方であろう。
だが、お互いに命をかけた戦いなのだ。そんなことも知らない第三者から批判されるような筋合いはないと私は思っている。
私の卑劣な企みはものの見事に成功し、蠍の怪物がドクンと動くのを確認した。
それを見た私は短剣を捨て、トドメを刺すために弓と矢を新たに作り出す。
それから矢を放とうとした時だ。それよりも早く蠍の怪物が起き上がり、私に向かって斧を振るい上げてくる。
最後の意地というものなのか、それと共に光弾もふんだんに放っていく。
私は慌てて光弾を交わし、矢を放ったものの、不安定な状態では怪物には当たらなかった。
矢は怪物の左肩をすくめ、謁見の間の扉に直撃したのみであった。
慌ててその場を離れようとする私に向かって斧を振り下ろす。
斧の刃先を弓で受け止める私に向かって蠍の怪物は言った。
『……やはり、あんな不意打ちには引っ掛からなかったらしいな。流石はルシフェル。堕天使の中の堕天使だ』
「褒めるんだったらこの手を離してくれないかな?だいたい、女の子に力を振るうなんて最低ーー」
『天使に性別がないとあのお方は仰っているぞ』
「……冥土の土産に聞いてあげるよ。あのお方って誰なの?」
『その回答はお前には上等すぎる土産だぜ。ルシフェル……』
蠍の怪物はそう言って斧に込める力を強めていく。
それと共に私の両腕が痺れていく。なんと重い斧なのだろう。
それでも力を緩めてしまえば私はあの男の斧で頭を叩き割られてしまうことは明白なのだ。
こんなところで死ぬわけにはいかない。私は歯を食いしばりながら目の前で死に掛けにも関わらず凄まじい力を振るう蠍の怪物を睨む。
いい加減に死ねよ。そんな思いが頭の中に過った時だ。不意に斧に込められる力が弱くなっていくことに気が付く。
私が慌てて蠍の怪物を見てみると、彼が斧を握ったまま倒れていく姿が見えた。
どうやら斧を握ったまま力が尽きてしまったらしい。セレビアは無念という顔を浮かべながら地面の上に倒れ込んでいた。
どうやらこれでセレビアは終わりらしい。完全に事が切れたのを確認してから、私は電気の鎧と武器を解除し、玉座の前で恭しく跪く。
「……陛下、私の手であなた様を襲おうとした天使を討伐致しました」
「……ご苦労様でした。後で討伐隊の兵舎に私の方からお礼をお届け致しましょう」
「ありがたき幸せにございます」
私はこの時ほど時代劇を見ていてよかったと思ったことはなかった。
その後で私は頭を上げ、王に向かって表にいる天使たちの討伐を申し出た。
王はそれを快く了承し、私を送り出したのである。
私は玉座の間を出て、電気の鎧と武器を身に付け、翼を広げて王城の廊下から飛び出ていく。
飛び出したのは王都の上空。そこには城に駆けつけるより前に見た大量の天使たちの姿が見えた。
私の姿が現れるのと同時に大量の天使たちが一斉に視線を向ける。
私は近くにいた一体に矢を放ってから、大量の天使たちに向かって叫ぶ。
「聞きなさい!あなたたちを指揮していたビレニアは死んだのッ!あなたたちがここにいても意味がないのッ!お分かり!?」
人間ならば動揺したのだろうが、相手は無感情な天使である。
一才の感情を見せることなく私が自分たちの指揮官を倒したという事実のみを認識し、私に向かう。
私は最初から矢を引いて、目の前から迫ってくる天使たちを倒していく。
だが、キリがない。私は弓矢を捨て、代わりに腰から短剣を抜いて、大量の天使たちに向かって突っ込む。
こうなれば持久戦である。この上空の天使たちが全滅するか、私が死ぬかの二択だ。
私は雄叫びを上げて天使たちに向かっていく。その最中にまたしても視界が狭くなる。
以前、ティーが見せてくれたらあの無機質な笑顔を思わせる兜を被っているのだろう。
途端に私の中の気分が高まっていく。天使たちを殺したいという欲が強くなっていく。
私は何かに取り憑かれたかのように天使たちを葬り去っていく。
葬っても葬っても私の中の高揚感は途切れることはない。
最高の気持ちだ。このまま奴らを殺し尽くしてやろうではないか。
幸いなことにここは空中。私を止める者などどこにもいない。
最高の気分に駆られたまま、私は天使たちを殺し尽くしていったのである。
気が付けば宙の上に広がっていたはずの天使たちは全滅していた。
地上では討伐隊の仲間たちが苦戦しているかもしれない。
私が地上に降りると、そこには満身創痍の討伐隊の仲間たちが見えた。
誰も彼もが力を使い果たし、床の上に自身の背中を預けている。そうでなければ、建物などに背中を預けている。
私は仲間たちの姿を見つけるのと頬を綻ばせて、翼と鎧兜、武器を解除し、仲間たちに話し掛けた。
仲間たちは話す代わりに微笑んでいた。
どうやらこれで一段落ついたらしい。
と、ここで私にも疲労が襲ってきたらしい。全身が怠い。このままでは倒れてしまう。なんとか意識を保とうとしたものの、押し寄せてくる疲れには勝てないものであるらしい。
私はとうとう逆らいきれずに地面の上に倒れ込む。
そのまま重くなった目蓋を閉じる。そして、そのまま私は夢の世界へと旅立っていった。
気が付けば、私はまたしても過去の世界にいた。しかし、私が知る過去よりも遥かに昔の過去である。
幼稚園のスモッグを着た私である。幼稚園の自由時間、私は施設の中で無邪気にままごとをして遊んでいた。
ままごとの後は日曜日の朝にやっていた女児向けのアニメである。
この頃の私はこのアニメを見るのが好きだった。
内容は勧善懲悪で、文字通り、子供が見るような作品であるが、時折、脚本家の手によって大人が見ても素晴らしいと褒められるような内容が放映されることもあるアニメである。
随分と懐かしい光景である。私は友達を相手に父親の役を演じていた。
幼い頃の私を懐かしく眺めているのと同時にままごととはいえ父親の役を演じているのが複雑に思えてきた。
あり得る。昔、教室で男子が先生に内緒で読んでいた漫画に死んだフリをして主人公を狙う敵のキャラクターがいた。
漫画のタイトルなど今では覚えていないが、その場面だけは今でも鮮明に覚えているから当時の私には相当強烈なものであったのだろう。
確認のために私は遠距離からの攻撃を試みた。両手に握った電気の短剣から電流を飛ばし、彼がどう動こうとするのかを確認したのである。
私のやっている事は前か悪かと問われれば、殆どの人間が『悪』だと捉えるような戦い方であろう。
だが、お互いに命をかけた戦いなのだ。そんなことも知らない第三者から批判されるような筋合いはないと私は思っている。
私の卑劣な企みはものの見事に成功し、蠍の怪物がドクンと動くのを確認した。
それを見た私は短剣を捨て、トドメを刺すために弓と矢を新たに作り出す。
それから矢を放とうとした時だ。それよりも早く蠍の怪物が起き上がり、私に向かって斧を振るい上げてくる。
最後の意地というものなのか、それと共に光弾もふんだんに放っていく。
私は慌てて光弾を交わし、矢を放ったものの、不安定な状態では怪物には当たらなかった。
矢は怪物の左肩をすくめ、謁見の間の扉に直撃したのみであった。
慌ててその場を離れようとする私に向かって斧を振り下ろす。
斧の刃先を弓で受け止める私に向かって蠍の怪物は言った。
『……やはり、あんな不意打ちには引っ掛からなかったらしいな。流石はルシフェル。堕天使の中の堕天使だ』
「褒めるんだったらこの手を離してくれないかな?だいたい、女の子に力を振るうなんて最低ーー」
『天使に性別がないとあのお方は仰っているぞ』
「……冥土の土産に聞いてあげるよ。あのお方って誰なの?」
『その回答はお前には上等すぎる土産だぜ。ルシフェル……』
蠍の怪物はそう言って斧に込める力を強めていく。
それと共に私の両腕が痺れていく。なんと重い斧なのだろう。
それでも力を緩めてしまえば私はあの男の斧で頭を叩き割られてしまうことは明白なのだ。
こんなところで死ぬわけにはいかない。私は歯を食いしばりながら目の前で死に掛けにも関わらず凄まじい力を振るう蠍の怪物を睨む。
いい加減に死ねよ。そんな思いが頭の中に過った時だ。不意に斧に込められる力が弱くなっていくことに気が付く。
私が慌てて蠍の怪物を見てみると、彼が斧を握ったまま倒れていく姿が見えた。
どうやら斧を握ったまま力が尽きてしまったらしい。セレビアは無念という顔を浮かべながら地面の上に倒れ込んでいた。
どうやらこれでセレビアは終わりらしい。完全に事が切れたのを確認してから、私は電気の鎧と武器を解除し、玉座の前で恭しく跪く。
「……陛下、私の手であなた様を襲おうとした天使を討伐致しました」
「……ご苦労様でした。後で討伐隊の兵舎に私の方からお礼をお届け致しましょう」
「ありがたき幸せにございます」
私はこの時ほど時代劇を見ていてよかったと思ったことはなかった。
その後で私は頭を上げ、王に向かって表にいる天使たちの討伐を申し出た。
王はそれを快く了承し、私を送り出したのである。
私は玉座の間を出て、電気の鎧と武器を身に付け、翼を広げて王城の廊下から飛び出ていく。
飛び出したのは王都の上空。そこには城に駆けつけるより前に見た大量の天使たちの姿が見えた。
私の姿が現れるのと同時に大量の天使たちが一斉に視線を向ける。
私は近くにいた一体に矢を放ってから、大量の天使たちに向かって叫ぶ。
「聞きなさい!あなたたちを指揮していたビレニアは死んだのッ!あなたたちがここにいても意味がないのッ!お分かり!?」
人間ならば動揺したのだろうが、相手は無感情な天使である。
一才の感情を見せることなく私が自分たちの指揮官を倒したという事実のみを認識し、私に向かう。
私は最初から矢を引いて、目の前から迫ってくる天使たちを倒していく。
だが、キリがない。私は弓矢を捨て、代わりに腰から短剣を抜いて、大量の天使たちに向かって突っ込む。
こうなれば持久戦である。この上空の天使たちが全滅するか、私が死ぬかの二択だ。
私は雄叫びを上げて天使たちに向かっていく。その最中にまたしても視界が狭くなる。
以前、ティーが見せてくれたらあの無機質な笑顔を思わせる兜を被っているのだろう。
途端に私の中の気分が高まっていく。天使たちを殺したいという欲が強くなっていく。
私は何かに取り憑かれたかのように天使たちを葬り去っていく。
葬っても葬っても私の中の高揚感は途切れることはない。
最高の気持ちだ。このまま奴らを殺し尽くしてやろうではないか。
幸いなことにここは空中。私を止める者などどこにもいない。
最高の気分に駆られたまま、私は天使たちを殺し尽くしていったのである。
気が付けば宙の上に広がっていたはずの天使たちは全滅していた。
地上では討伐隊の仲間たちが苦戦しているかもしれない。
私が地上に降りると、そこには満身創痍の討伐隊の仲間たちが見えた。
誰も彼もが力を使い果たし、床の上に自身の背中を預けている。そうでなければ、建物などに背中を預けている。
私は仲間たちの姿を見つけるのと頬を綻ばせて、翼と鎧兜、武器を解除し、仲間たちに話し掛けた。
仲間たちは話す代わりに微笑んでいた。
どうやらこれで一段落ついたらしい。
と、ここで私にも疲労が襲ってきたらしい。全身が怠い。このままでは倒れてしまう。なんとか意識を保とうとしたものの、押し寄せてくる疲れには勝てないものであるらしい。
私はとうとう逆らいきれずに地面の上に倒れ込む。
そのまま重くなった目蓋を閉じる。そして、そのまま私は夢の世界へと旅立っていった。
気が付けば、私はまたしても過去の世界にいた。しかし、私が知る過去よりも遥かに昔の過去である。
幼稚園のスモッグを着た私である。幼稚園の自由時間、私は施設の中で無邪気にままごとをして遊んでいた。
ままごとの後は日曜日の朝にやっていた女児向けのアニメである。
この頃の私はこのアニメを見るのが好きだった。
内容は勧善懲悪で、文字通り、子供が見るような作品であるが、時折、脚本家の手によって大人が見ても素晴らしいと褒められるような内容が放映されることもあるアニメである。
随分と懐かしい光景である。私は友達を相手に父親の役を演じていた。
幼い頃の私を懐かしく眺めているのと同時にままごととはいえ父親の役を演じているのが複雑に思えてきた。
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