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聖戦士編

レイアレル・ビレニアは語る

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ビレニアからその言葉を聞いたのは私が五回目の矢を放った直後のことであった。

『ルシフェル、お前はどうして人間なんかに味方をする!?』

「決まってるじゃん!私が人間だから!」

私はそう叫んで六度目の矢を放つ。またしても矢はビレニアの盾に防がれ、光となって立ち消えていく。
これでまた、無駄な膠着状態に陥るのかと危惧していたのだが、その不安をビレニアが打ち消してくれたのだ。

彼は斧を振り上げて私の元へと向かってきた。
私は弓と矢を地面の上に捨て、両手で腰の短剣を抜いてビレニアの斧を防いだのであった。

ビレニアが持つ斧の刃先と私の短剣の剣身とが重なり合い、火花を散らしていく。
彼が何度も何度も斧を真上から振り上げてくるため自然と手が痺れてくる。
それでも耐えていたのは背後に守るべき人がいるからだろう。

勿論、クリスのようなお人好しの精神で守っているではない。打算があっての事だ。
というのも、ここで国王を守っておけば彼が私に対する好感度を高めるのは間違いないであろうし、何より彼の愚かな娘がしばらくの間は私に危害を加えようと目論むことはなくなるはずだ。
そうした思いが私を突き動かしていたのだ。だから短剣を握る力も自然と強まっていく。
私の中にある邪な思いが伝わったのか、主人を助けるために短剣から電気が迸り、ビレニアの体に電気が伝わっていく。
しかし、ビレニアは電気の魔法を喰らったというのに時折、悲鳴を上げるばかりで足さえ背後に下がらない。
なんという強者だろう。私が辟易した思いで斧を受け止めていた時だ。ビレニアが私に顔を近付けて言った。

『ルシフェル、魔法が扱えるのは貴様だけだと思っているのならば大間違いだ。昨日の戦でもおれの部下が貴様や貴様の仲間を相手に魔法を扱う様を見せたであろう?』

「魔法?あぁ、あのガマガエルが使ってた」

『……おれの魔法はその比ではない。貴様にその強さを披露して見せようぞ』

ビレニアはここで斧に込める力を強めて、短剣ごとを私を弾き飛ばしたのである。
吹き飛ばされた私が慌てて駆け寄ろうとした時だ。ビレニアが大きな声を上げたかと思うと、ビレニアの頭部の端にある蠍の象徴である細長い尻尾が開き、そこから光弾が飛ぶ。
幸いなことに光弾は私が目的であったらしく、私が転がって光弾を回避することで最悪の事態を防ぐことができた。

だが、もしこの光弾が王に当たれば王はすぐにでもあの世に導かれてしまうだろう。
それだけは避けなくてはなるまい。どうやら相当に厳しい戦いになることは間違いあるまい。
私は思わず冷や汗を垂らす。魔法の使える天使を相手にするくらいならば外に大量に発生している雑魚を相手にしている方がマシであったかもしれない。
それ程までに私が対峙している相手は厄介なのだ。

「……あぁ、せめてポイゾくらい連れてくればよかったかな」

私のぼやく声は次の光弾の前にかき消されてしまった。

私は自分の脇を剃れる光弾を見て思わず冷や汗を流す。あと少し光弾の位置が逸れていたのならば直撃して自分は死んでいたに違いない。
私は危機感を感じたものの、すぐに体勢を取り戻し、もう一度蠍の怪物と対峙していく。
蠍の怪物はもう一度光弾を放ち、私はそれを自身の武器で受け止めて、そのまま光弾を別の方向に弾き返すことを成功させる。

蠍の怪物はそれを見届けた後は私の意図を察したのか、王に向かって光弾を放っていく。
私は慌てて王の前に放たれた光弾を電気の短刀で防ぎ、王に当たるはずだった強力な光弾を天井へと投げ飛ばす。
天井に向かって放たれた光弾が石やら何やらを落としていく。

「凄まじいな……」

その威力を見て私は思わず口走ってしまう。

『そうだろう。これがおれの力なんだよ。長い間、この力を封印していた。あのクソどもにもこれを使えなかったのは至極残念であるが、からの御命令だったから必死に我慢したさッ!』

「……過去の辛い出来事を思い出して、怒り狂っているところ申し訳ないが、今あんたが口走ったというのは?」

『……それを言うわけにはいかんのだよッ!』

蠍の怪物は言い過ぎたとばかりに私に向かって光弾を放つ。
私は地面の上を転がることによって光弾が私の頭を吹き飛ばされるという最悪の事態を回避した。

私はそれから勢いのままに蠍の怪物の前へと転がっていき、真下から勢いをつけて握っていた短剣を振り上げていく。
真下から上がっていく青白い芸術品のような刃が綺麗な白閃を描き、その美しさに蠍の怪物が一瞬とはいえ見惚れてしまったことは彼の生命を縮めてしまうことになった。
蠍の怪物は真下から頭にかけて一直線に攻撃を受けてその場に倒れ込む。

これで聖戦士ビレニアもようやく息絶えたかと思ったのだが、天使の執念というのは恐ろしい。
私に飛び付いたかと思うと、電気で纏った鎧のせいで自身の体に電流が走っていくのも気にせずに城の必死になって玉座の間を這っていく。

怪物は最後に意地を見せたのである。
私の体は押し倒され、私と共に地面の上に吸い寄せられたビレニアに引き連れられていく。
押し倒され、共に地面の上を這わせられるという予想だにしない事態に、緊張で心臓をバクバクと鳴らす私の耳元で彼は囁く。

『……おれはここで死ぬ。だが、貴様も道連れだ。玉座の間を抜け出て、そのまま城の廊下から飛び降りてやる』

「……昔、親に内緒で読んだ連続もののファンタジー小説でそんな場面があったのを思い出した……けど、私はここで死ぬわけにはいかない。その、よかったらやめてくれば嬉しいんだけど?」

私は顔色を伺いながら媚びるように尋ねかけたが、蠍の怪物は私を引きずったまま廊下を這うのをやめない。
あと少しで玉座の間を抜けるというところで、私はダメ元で彼の傷跡に向かって殴打を繰り出した。

すると、天然の甲冑越しでも痛かったのか、彼が唐突に悶絶して悲鳴を上げ始めた。
脱出の機会は今を置いて他にあるまい。
私は何度も何度も傷跡に向かって執拗な殴打を繰り出す。
あまり褒められた行動ではないのは自分でも理解している。

だが、前提として私は命の危機にあるのだ。人間誰しも少年漫画に登場する高潔な主人公のような態度を取れるわけではないのだ。
私は開き直ったような思いで傷跡に殴打を繰り返していく。彼の呻き声が絶頂に達したところで私は彼の体を突き飛ばし、慌てて彼から解放されたのである。
私は慌てて距離を取り、武器を構えて相手の様子を伺う。
だが、蠍の怪物は動く気配を見せない。どういう事だ。私は思わず首を傾げた。
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