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聖戦士編

聖戦士の暗躍

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「……話を聞かせてもらったけど、どんなに内容がハッキリしていてもそれは夢だよ。キミのことだからいい加減なものではないと思うんだけど、でも、確証が持てないんだ。それに証拠としても弱い」

「……だよね」

当然といえば当然の話だ。ブレードであるから真剣に話を聞いてくれたものの、下手をすれば悪夢を見たので慰めてほしいというだけの我儘にしか思えないはずだ。
しかし、私としても信念を曲げたくはない。あの夢はまごうことなく現実のものであるのだ。例え誰かに否定されたとしても私はこの件に関してはハッキリと言っておきたい。

ビレニアと仲間の会合は私が勝手に見た夢などではない。夢という形で奴の裏の顔を暴き出した結果なのだ。
裏の顔というにはあまりにも特撮的で、尚且つわかりやすい談合であったが、構うところではない。

大方、人払いを行なって行なっていたのだろう。彼自身もその姿を見られないように入念な準備を施しておいた筈である。
仮に見られたとしても、時代劇などでよく見る悪代官と悪徳商人などとの談合とは異なり、相手が人間ではないのだから見られても問題はないだろう。

私はブレードの部屋の中で、先程の夢の内容を記したメモを書き下ろし、部屋を後にした。
私が自室に戻るために足を急がせていると、その最中に「よぉ」と声を掛けられた。
振り返ると、そこには両腕を組んでいつものニヤニヤとした笑みを浮かべているポイゾの姿が見えた。

「悪いんだけど、立ち聞きさせてもらったよ」

「そうなんだ……趣味が悪いんね?」

私は皮肉混じりに吐き捨てたが、彼は意に返す事なく話を続けていく。

「よくないなぁ、ブレードはいいやつだけど、彼はキミの母親じゃあないんだよ。おんぶに抱っこもいい加減にしたらどうだい?」

彼はニヤニヤとした笑みで弾劾するかのように言う。その顔からは性格の悪さが滲み出ているような気がした。

「あなたにはそう聞こえた?けど、あれは事実だから。私自身がちゃんと見たんだもん」

あまりにも腹が立つので意に返す様子も見せずに胸を張って言い返したのだが、彼は気にする素振りを見せようとしない。

「ハル、キミもいい年だろ?もうそろそろ子供って年齢でもなくなってくるんだから、現実と夢の区別くらいつけたらどうなのかな?」

「あなたに言われなくてもわかってる」

私は目を普段討伐に使っている剣のように尖らせてから踵を返してその場から去っていく。
相変わらず陰湿な性格をしている。ブレードやタンプルに殴られるのも無理がない気がしてきた。
私は急ぎ足でその場から立ち去った。ポイゾはまだ何かを言いたげにしていたが、構うところではない。

翌日、玉ねぎ色の濃いめのスープを啜っていると、私の目の前にタンプルが座る。
嫌な予感がして、身構えていた私であったが、その前にクリスが私に声を掛けたことにより、ポイゾが出遅れてしまったのでクリスには感謝するより他にない。

「あ、ありがとう」

「うん、どうして?」

彼は相変わらず真っ直ぐで、それでいて優しい笑顔を浮かべながら尋ねた。
恐らく私の感謝の意思はわからないであろうが、それでもお礼の言葉だけは述べておく。
その後はクリスと談笑しながらの楽しい朝食となった。この前の怪我の話から始まり、他愛もない世間話でお互いに大いに盛り上がった。
そのため、朝食の間、ポイゾが嫌味を言う機会は与えられなかった。いい気味である。

その後の座学でも私はクリスにくっ付き、ポイゾに話をさせる機会を与えなかった。
鍛錬の時間はクリスだけではなく、ティーも交えた。
最年少のティーが面倒見のいいクリスによく懐ている姿が見えた。
ティーもどこか嬉しそうな表情を垣間見せている。
鍛錬と座学が終わり、夕食の時間になった際はティーが絵で自身の心情を披露して、私とクリスの心を大いに和ませていた。
このまま平穏に一日が終わってほしい。
私はそう願ったのだが、運命というのはそう上手くはいかないものであるらしい。

河辺の方にエンジェリオンの一隊が出現し、人々を襲おうとしているという情報が伝わったのだ。
伝令を受けて、ブレードは私たちに急いで馬に乗るように指示を出す。
馬に乗って駆け出した私たちの前に待っていたのはアルマジロのような硬い甲羅に全身を覆われた指揮官とそれに率いられた数十体の天使たちの姿である。

今回の指揮官の武器は鋭利な短刀である。いわゆるナイフだ。ダガーと呼ばれる形のナイフである。
私も詳しくは知らない。ただ、前の世界でインターネットを通して見ていたのでなんとなく知っていたのである。

ダガーは刃物一般としてのナイフの名称ではなく武器としてのナイフの名前を記すものであるらしい。
つまり、それだけ殺傷能力が高いナイフであるということだ。

ならば、最初から全力で臨んだ方がいいだろう。私は雄叫びを上げて自らの鎧の上に例の電気の鎧を纏わせ、背中に翼を生やした強力な武装で全身全霊をかけてアルマジロの怪物に向かっていく。
アルマジロの怪物は素早くナイフを取り出し、私を迎え撃った。

私はこのままアルマジロを一刀両断にする予定であった。
アルマジロを砂浜の上に置かれたスイカのように真上から真っ二つにして粉々にする予定であったのだ。
しかし、やはり天使とスイカとでは格が違う。
私の攻撃は呆気なく防がれた上に腹に強力な一撃を喰らって倒れ込んでしまう。
私は腹を抑えながら目の前のアルマジロを睨む。

しかし、睨んでいるだけなので効果はない。気の弱い相手ならば怯えさせるくらいは可能だろうが、どうも向こうは気の弱さとは無関係の個体であるらしい。
私が殺される寸前の女騎士のように気丈な目で睨み付けていたとしても、向こうからすればいい反応をするくらいの思いでしかないのだろう。
不愉快極まりないが、それが自然な反応であるのは間違いない。
こうなってしまっては今更何を言っても始まるまい。

私は足をふらつかせながら立ち上がろうとしたのだが、アルマジロはそんな私を嘲笑うかのように私の体を大きく蹴り付けたのである。
ゴロゴロと私の体がサッカーボールのように転がっていく。
何とか起きあがろうとした私の目の前にはナイフが突き付けられていた。
鋭利な刃が私の目の前に迫ってくるのと同時に私の頭の中に浮かんだのはみんなとの思い出であった。

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