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白き翼の勇者、異界に現る!
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先程、私が発した一言は予想以上のものであったらしい。
しばらくの間、私より年上のお兄さんとお姉さんが固まっていた。
だが、すぐにお兄さんは先程と同じ笑顔を浮かべて、私に向かって問い掛けた。
「ねぇ、よかったら、もう少しキミのことを詳しく教えてくれないかな?」
私はここぞとばかりに自分がどうして倒れていたのかを二人に語っていく。
当初こそ、二人は訝しげな表情を浮かべていたが、真っ直ぐな目で語り続けていたことが功を奏して、私の話はようやく信じられた。
その後は二人が私にこの世界のことを話す番だった。
二人の語るこの世界は私にとっては想像もできないほど、凄まじい世界だった。
もし、仮に前の世界の私の父がこの世界における天使たちが人々を殺害していることやその天使や天使を操る神と人類とが長い時間をかけて戦争を行なっているという事実を知れば、顔を真っ赤にして否定していたに違いない。
私からしてもにわかには信じられない話だ。
しかし、二人の目に偽りの色は見えない。だから、私は素直な感想を吐き散らすことしかできなかった。
「……そうだったんですか……そんな事が」
「しかし驚いたよ。まさかキミが違う世界から来た人物だったなんてね」
ブレードはぎごちない笑みを浮かべながら言った。
無理もない。彼自身この世界とは違う世界があるなどという事実は受け入れ難い話であるのだから。
だが、自分たちの世界とは異なる世界が存在してここにきているというのは間違いのない事実なのだ。
大方の世界観や社会情勢などが分かったところで、気になったのはこの世界の世風俗や文化などである。
どうなっているのだろう。この世界にはどんな歴史が存在しており、この世界を治めているのはどんな人物なのだろうか。
ブレードはそのまま身を乗り出して私という少女に詳しい事を尋ねようとしたのだが、新たな来訪者によって妨害されてしまう。
来訪者の存在にブレードは気を害したが、来訪者は自分よりも上の立場にある。この異世界からの客人を譲らないわけにはいくまい。
ブレードは用意されていた椅子の上から立ち上がり、その来訪者に席を譲った。
来訪者は柔和な笑みを浮かべながら椅子の上に座ると私の手を優しく掴みながら言った。
「気付いたんだね。よかった。私の名前はノーブ。ノーブ・ホルスタインという。この国における王立孤児院の院長をしていてね」
「院長?」
「そうさ、キミのように寄るべのない子どもを集めて実の子どものように育て、ゆくゆくは王国の役に立つ立派な兵士へと育て上げる……それが私に課せられた役目なんだよ」
老人は穏やかな笑みを浮かべて言った。人好きのする良い笑顔である。
髪は既に老年へと差し掛かっているのか既に白髪へと変貌しているが、毛根そのものは死滅しておらず頭皮の上を髪で生い茂させている。
顔も皺こそ目立つもののそれ以外はまだまだ現役なのであろう。口から立派な歯が生え揃っている事や目が死んでおらずに輝いている事などがその証拠のように感じさせられた。
見た目や態度から私が頭の中に浮かんだのは『好々爺』という言葉である。
私が黙って見た目を観察していると、ノーブが心配そうな顔をして自身を見つめている事に気がつく。
「どうしたんだね?先程からずっと黙っているが」
「いえ、なんでもありません!」
ノーブは私のその言葉に安堵したのか、口元の端を緩めながら波瑠の頭を撫でた。
「そうか、そうか、ならばいいんだ。困った事があるのならばいつでも私にいいなさいね。私はキミの『とおさん』なのだから」
私が引っ掛かったのは『とおさん』という単語である。確かにここは遠く離れた世界であるが父親は元の世界に居るのだ。それなのにノーブという男は自信を父親と呼ぶように呼称する。
私はそこが気に掛かってしまったのだ。
どうして、会って少ししか経っていないのに父親と呼ばなくてはならないのかという疑問を口にしようとしたが、どうやらその心境が顔に現れていたらしい。
そのことを察したと思われるマリアが沈黙を破って助け舟を出した。
「心配しないで、あたしたちはみんなノーブさんの事を『とおさん』って呼んでるから」
「うん、愛称みたいなものかな。嫌だったら他の呼び方でも構わないよ」
ブレードは優しげな笑みを浮かべながら言った。
それを聞いたノーブも含み笑いを浮かべながらブレードの言葉にのった。
「その通りだ。キミの好きに呼んでくれたらいいさ」
「流石、父さんだ」
ブレードは爽やかな笑みを浮かべながらノーブの肩を優しく小突く。
そんな様子を見ていると、私は不意に前世の自分の父親のことを思い返す。
自分の父親は厳格であった。家族以外の他人に優しく、自分と家族にはひたすらに厳しさを追求するのと同時に自身の跡を継ぐためのスキルを求める人物であった。
厳格の父の甲斐あってか、私は幼い頃から成績はトップをキープしていた。
少しでも成績が下がれば私は折檻を受けた。鬼のような父親で、そのためか私はあまり父が好きではなかった。
それと比べればなんと優しそうな父親なのだろう。
私は目の前で楽しそうに笑っているブレードが心底から羨ましくなった。
だからだろう。私は思わず口から溜息が漏れてしまう。
ブレードは異変に気が付いたのか、慌てて私の元へと寄っていく。
「どうしたんだい?何かあったのかな?」
「ううん。なんでもないよ。少しセンチな気分になっただけ」
「そうなのかい?」
「もうそっとしておいておきなよ。ブレード。この子、別の世界から来て疲れてるんだよ。もう休めせたあげた方がいいんじゃあないのかな?」
マリアの言葉に私は感謝した。というのも、今の自分は下手な慰めの言葉を掛けられるよりもそっとしておかれる方がよかったからだ。
波瑠はそのままマリアに好意に甘えて寝返りを打って会話を拒否した。
「参ったな。今日のところは出直そうか?」
「その方がいいだろうな」
枕元でホルスタイン親子の会話が聞こえる。
今後どうなるのだろう。一抹の不安を抱きながら私は寝返りを打った。
不安と恐怖だけが私の頭をよぎった。
「白き翼の勇者が現れた?」
ミーティア王国の老齢の国王、ローズ・ミーティア一世は報告に現れた双子の兄を思わず凝視した。
「その通り、わしの孤児院の前に倒れておってな。年齢は11歳くらいだ」
「その話が嘘じゃなかったら、戦局は一気に我々にとって有利になりますね」
「あの子が寝ている間に行った検査では私の孤児院にいる誰も使えない未知の魔法を使えることが判明したんだッ!これは嘘ではないぞ……」
「その魔法が我々の求める『白き翼の勇者』だと?兄さんはそう仰りたいわけだ」
「あぁ、これを機会にあの忌々しい天使どもを殲滅し、我々人類に勝利の旗をもたらすことができるかもしれん」
「簡単にいけばいいのですが……」
国王は紅茶を飲み干した。その姿をノーブは黙って見つめていた。
しばらくの間、私より年上のお兄さんとお姉さんが固まっていた。
だが、すぐにお兄さんは先程と同じ笑顔を浮かべて、私に向かって問い掛けた。
「ねぇ、よかったら、もう少しキミのことを詳しく教えてくれないかな?」
私はここぞとばかりに自分がどうして倒れていたのかを二人に語っていく。
当初こそ、二人は訝しげな表情を浮かべていたが、真っ直ぐな目で語り続けていたことが功を奏して、私の話はようやく信じられた。
その後は二人が私にこの世界のことを話す番だった。
二人の語るこの世界は私にとっては想像もできないほど、凄まじい世界だった。
もし、仮に前の世界の私の父がこの世界における天使たちが人々を殺害していることやその天使や天使を操る神と人類とが長い時間をかけて戦争を行なっているという事実を知れば、顔を真っ赤にして否定していたに違いない。
私からしてもにわかには信じられない話だ。
しかし、二人の目に偽りの色は見えない。だから、私は素直な感想を吐き散らすことしかできなかった。
「……そうだったんですか……そんな事が」
「しかし驚いたよ。まさかキミが違う世界から来た人物だったなんてね」
ブレードはぎごちない笑みを浮かべながら言った。
無理もない。彼自身この世界とは違う世界があるなどという事実は受け入れ難い話であるのだから。
だが、自分たちの世界とは異なる世界が存在してここにきているというのは間違いのない事実なのだ。
大方の世界観や社会情勢などが分かったところで、気になったのはこの世界の世風俗や文化などである。
どうなっているのだろう。この世界にはどんな歴史が存在しており、この世界を治めているのはどんな人物なのだろうか。
ブレードはそのまま身を乗り出して私という少女に詳しい事を尋ねようとしたのだが、新たな来訪者によって妨害されてしまう。
来訪者の存在にブレードは気を害したが、来訪者は自分よりも上の立場にある。この異世界からの客人を譲らないわけにはいくまい。
ブレードは用意されていた椅子の上から立ち上がり、その来訪者に席を譲った。
来訪者は柔和な笑みを浮かべながら椅子の上に座ると私の手を優しく掴みながら言った。
「気付いたんだね。よかった。私の名前はノーブ。ノーブ・ホルスタインという。この国における王立孤児院の院長をしていてね」
「院長?」
「そうさ、キミのように寄るべのない子どもを集めて実の子どものように育て、ゆくゆくは王国の役に立つ立派な兵士へと育て上げる……それが私に課せられた役目なんだよ」
老人は穏やかな笑みを浮かべて言った。人好きのする良い笑顔である。
髪は既に老年へと差し掛かっているのか既に白髪へと変貌しているが、毛根そのものは死滅しておらず頭皮の上を髪で生い茂させている。
顔も皺こそ目立つもののそれ以外はまだまだ現役なのであろう。口から立派な歯が生え揃っている事や目が死んでおらずに輝いている事などがその証拠のように感じさせられた。
見た目や態度から私が頭の中に浮かんだのは『好々爺』という言葉である。
私が黙って見た目を観察していると、ノーブが心配そうな顔をして自身を見つめている事に気がつく。
「どうしたんだね?先程からずっと黙っているが」
「いえ、なんでもありません!」
ノーブは私のその言葉に安堵したのか、口元の端を緩めながら波瑠の頭を撫でた。
「そうか、そうか、ならばいいんだ。困った事があるのならばいつでも私にいいなさいね。私はキミの『とおさん』なのだから」
私が引っ掛かったのは『とおさん』という単語である。確かにここは遠く離れた世界であるが父親は元の世界に居るのだ。それなのにノーブという男は自信を父親と呼ぶように呼称する。
私はそこが気に掛かってしまったのだ。
どうして、会って少ししか経っていないのに父親と呼ばなくてはならないのかという疑問を口にしようとしたが、どうやらその心境が顔に現れていたらしい。
そのことを察したと思われるマリアが沈黙を破って助け舟を出した。
「心配しないで、あたしたちはみんなノーブさんの事を『とおさん』って呼んでるから」
「うん、愛称みたいなものかな。嫌だったら他の呼び方でも構わないよ」
ブレードは優しげな笑みを浮かべながら言った。
それを聞いたノーブも含み笑いを浮かべながらブレードの言葉にのった。
「その通りだ。キミの好きに呼んでくれたらいいさ」
「流石、父さんだ」
ブレードは爽やかな笑みを浮かべながらノーブの肩を優しく小突く。
そんな様子を見ていると、私は不意に前世の自分の父親のことを思い返す。
自分の父親は厳格であった。家族以外の他人に優しく、自分と家族にはひたすらに厳しさを追求するのと同時に自身の跡を継ぐためのスキルを求める人物であった。
厳格の父の甲斐あってか、私は幼い頃から成績はトップをキープしていた。
少しでも成績が下がれば私は折檻を受けた。鬼のような父親で、そのためか私はあまり父が好きではなかった。
それと比べればなんと優しそうな父親なのだろう。
私は目の前で楽しそうに笑っているブレードが心底から羨ましくなった。
だからだろう。私は思わず口から溜息が漏れてしまう。
ブレードは異変に気が付いたのか、慌てて私の元へと寄っていく。
「どうしたんだい?何かあったのかな?」
「ううん。なんでもないよ。少しセンチな気分になっただけ」
「そうなのかい?」
「もうそっとしておいておきなよ。ブレード。この子、別の世界から来て疲れてるんだよ。もう休めせたあげた方がいいんじゃあないのかな?」
マリアの言葉に私は感謝した。というのも、今の自分は下手な慰めの言葉を掛けられるよりもそっとしておかれる方がよかったからだ。
波瑠はそのままマリアに好意に甘えて寝返りを打って会話を拒否した。
「参ったな。今日のところは出直そうか?」
「その方がいいだろうな」
枕元でホルスタイン親子の会話が聞こえる。
今後どうなるのだろう。一抹の不安を抱きながら私は寝返りを打った。
不安と恐怖だけが私の頭をよぎった。
「白き翼の勇者が現れた?」
ミーティア王国の老齢の国王、ローズ・ミーティア一世は報告に現れた双子の兄を思わず凝視した。
「その通り、わしの孤児院の前に倒れておってな。年齢は11歳くらいだ」
「その話が嘘じゃなかったら、戦局は一気に我々にとって有利になりますね」
「あの子が寝ている間に行った検査では私の孤児院にいる誰も使えない未知の魔法を使えることが判明したんだッ!これは嘘ではないぞ……」
「その魔法が我々の求める『白き翼の勇者』だと?兄さんはそう仰りたいわけだ」
「あぁ、これを機会にあの忌々しい天使どもを殲滅し、我々人類に勝利の旗をもたらすことができるかもしれん」
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