国立魔法大学の革命児〜異世界より来たりた救世主

ロックウェル一族の闘争篇

ギルゴア大佐の黙示録ーその④

ギルゴアはこの状況を打破して、尚且つアンドリュー・カンブリアなる男の身柄を確保する最適な方法を思案した。
彼はアンドリューの攻撃はＣＭＳが無ければ、当たりはしないのではと首をひねる。
いや、首をひねるどころではない。これは確実な事だ。
ギルゴアはひとまず、腰のフォルスターに下げている45口径のオート拳銃の銃口を向ける。
「さてと、ヘリの攻撃は交わしてくれたようだが、今度のこの状態をキミはどう思うのかを聞かせてもらいたいな」
アンドリューはそのギルゴアの態度に怯える事なく、平然とした様子で、
「残念ですな、あなたのようなお方がこのようなレベルの低い戦法しか取れないとは……私は溜息が吐きたくなりますよ」
「そんな余裕ぶった態度をとって、おれに殺された奴はゴマンと見てきたぜ、アンドリューくん」
ギルゴアは怖さを押し殺し、あくまでも合衆国の鬼大佐という顔のみを見せる。
「それは……それは……そんなチャチな飛び道具で本当に私を殺せるとお思いですか？」
大げさに肩をすくめるアンドリューの様子が妙に腹ただしい。
何処までも人を小馬鹿にしたような笑顔を見たのも、加わりギルゴアの忍耐には限界が近づいていた。
ギルゴアはアンドリューの額に向かって発砲する。
アンドリューは銃弾が自分の額を貫くよりも前に体全体のバランスを崩す事によって、危機を逃れる。
アンドリューはそれから直ぐに反撃を試みようとするが、
「甘いなッ！この槍を喰らえッ！」
上空に留まっていた９９９本の槍がアンドリューに降りかかる。
「甘いですよ。私の先程の攻撃の事をお忘れですか？」
アンドリューはＣＭＳの刃先を槍に向けて、電磁波を放つ。
電磁波によって、ギルゴアの槍は跡形もなく消滅してしまう。
だが、ギルゴアはその様子を見ても笑っている。
そう、拳銃の銃口をアンドリューに向けたまま。
アンドリューにとっての幸運はギルゴアの異変に気が付いた事であろう。
アンドリューはＣＭＳの刃先から、魔法を放ち、ギルゴアを凍らせようとするが、ギルゴアはアンドリューがＣＭＳから魔法を放たさせるよりも前に引き金を引き、アンドリューの左足を撃ち抜く。
足に想像もつかないような痛みを経験した、アンドリューはその場に倒れてしまう。
「フフフフ、その顔だよ。湾岸戦争の頃にもおれに反抗したフセインの犬の脚を撃ち抜いてやったのさ、あれは愉快だったなぁ～まさに天使の気分だったよ。自分はスーパーマンになったという気分を味わったね」
もはや、ギルゴアの何処にも怖いという感情はない。
存在するのは圧倒的な存在感。支配感。そして、相手の命を奪えるのだという優越感だけだった。
「この次は何処を撃ち抜いてやろうかなぁ～腕がいいだろうかな？アンドリューくん」
その言葉が聞こえたのだろうか、今までじっとしていたチャーリーが動き出し、アンドリューの元へと近寄って行く。
ギルゴアは部下にチャーリーを射殺するように命令を出すが、純白のまるで天使のような翼を広げて駆け寄るチャーリーを撃つのに躊躇いが生じてしまう。
「く、クソッタレ……テメェら、どうしてあの野郎を撃たない！？」
「ダメなんです！ あんな天使のような姿をした奴を撃つのは、本当に神の使徒を撃ち殺すような気がして……」
部下の１人が弱々しく反論するが、ギルゴアは怒鳴り声を上げて、
「なら、あれは偽の天使だッ！聖書にも書いてあるだろッ！偽キリストが存在すると！ あれは偽キリストと同じで、偽の天使なんだッ！撃ち殺したって、構わん！ 撃て！ 撃て！ 」
ギルゴアの命令に困惑しつつも、部下の１人はチャーリーに向かって、銃口を構えるのだが、
「いいや、キミたちは撃つ必要なんて、無いんだ」
アンドリューはＣＭＳの刃先をギルゴアの部下たちに向ける。
次の瞬間にはギルゴアの部下たちが立っていた場所には、静粛のみが残された。
「あ、悪魔だ……」
「悪魔？私が？」
アンドリューは自分に人差し指を向けて尋ねる。
「そ、そうだ……何のためらいもなしに、おれの部下を消しちまうなんて……お前人間じゃあないよ」
「そうなのか？私は悪魔……ふーん」
一見すると、どうでも良さげに振舞っていたアンドリューではあったが、次の瞬間には先程のギルゴア同様のサディスト的な笑みを浮かべ、
「それも悪くはないな、なら手始めにキミを消させてもらおうか」
ＣＭＳを装着したアンドリューが近づいて来るなり、ギルゴアは腰を抜かして、その場に倒れてしまう。
「あ、あ、あ、あ、あ……」
狂ったように何かを呟こうとするギルゴア。
無言で近づくアンドリュー。
その姿はまさに地獄絵図と言えたかもしれない。
アンドリューが戦意を喪失したギルゴアにＣＭＳの刃先を向けた時だ、
「待ってくれ、アンドリュー。こいつはもう既に罰を受けたよ。あんまりにも哀れだ。見逃してやろう」
アンドリューはチャーリーの提案に抗議しようとしたが、すぐに何かを考え出したようで、少しの間黙ってから、了承の言葉を呟く。
「分かったよ。行こうチャーリー」
優しげな微笑を浮かべるアンドリューの姿は何処と無く女のような、それでいて今は離れて暮らしている娘のようだとアンドリューは考えた。
雑木林を動きながら、チャーリーはアンドリューの事ばかり見ていた。
本当に美しい青年だと、改めて認識させられながら。




「どいう事だね？ギルゴア大佐？部隊が全て全滅して、キミだけが生き残るなんて」
ギルゴアはあの後に駆け付けた、味方のヘリによって近くの基地に収容されたが、どうしても精神は落ち着かない。
「恐ろしいものを見ましたよ。閣下」
ギルゴアは与えられた紙コップに入った水を飲み干してから、答える。
「私は見たんですよ。悪魔と天使の姿を……悪魔はまさに人知を超えた力を使って、私を陥れ、天使は最後の最後で慈悲をかけて、私を逃がしてくれたんです。最も部下は皆殺しになってしまいましたが……」
軍基地の司令官は衰弱するギルゴアの様子を見ながら、どうしようかと考えていた時だ。
「閣下！ ギルゴア大佐の証言を裏付けるものがッ！」
１人の兵士が一枚の写真とともに現れて、その写真を基地司令官に見せる。
司令官がその写真に目を通した瞬間に、思わず目を丸くしてしまう。
そこには、黒焦げになったヘリコプターの姿が映っていたのだから。