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ロックウェル一族の闘争篇
動き出す一族
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「以上だよ、秘書官……私はちゃんと彼らにキミらから与えられた忠告を伝えたよ」
ジャックの言葉にローランスは黙ったままだ。
「安心してくれ、我々合衆国はキミらの楽園であり続ける……それに世界のめぼしい敵だって、とっくの昔にデビッドが駆逐してしまっただろ?」
「そう、この世界では……」
ローランスはここでようやく口を開く。
「私の叔父は死の淵のうわ言で、アンドリューの奴が持っていた機械を欲しがっておりました。叔父は恐らく、アンドリューとやらがこの国に来るまでに、何かしらの異世界勢力と接触したのでしょう……そこで、叔父はその力で、かつての敵たちを押さえつけるために使おうと考え付いたのでしょう」
「だが、結果はあの様だよ、ジャック・カルデネーロの息子、エミリオは簡単に負けてしまったんだろ?」
「ええ、向かい側のビルで観察していた、我々の協力者からの情報なので、確実なのです」
「エミリオが敗北するのを分かっていた上で、二人に警告のつもりで、私に電話を掛けさせた……」
ジャックの推測にローランスは首を縦に動かす。
「そうかね、問題はだ……シャリム・ギデオンだ。あの二人はアメリカの警察が総力を挙げれば、捕縛できるだろうが、シャリム・ギデオンは一応は資産を持っているからな、今頃あちこちの資産を現金に換えておるかもしらん」
「財産の凍結を見越した上でですか?」
ローランスは特に驚いた表情も見せずに、葉巻に火を点けながら言った。
「その通りだ。そうでもなければ、ロックウェル家の傘下に下らずに、このアメリカで会社を経営できるはずがない」
カーネルは秘書に用意された、シャリム・ギデオンについて書かれた書類を眺めながら言った。
「用意周到……油断のできない男か……我々の敵として不足はない相手だ。思えば、叔父がニクソンの奴を押さえつけるのにも苦労していたっけ」
彼はウォーターゲート事件の事を思い出したのだろう。くっくっと小さな笑いを零す。
「だが、キミらにとっての敵は大きい方が……」
「ええ、倒し甲斐があります」
ローランスは不敵な笑いを浮かべた。
「キミらは私に付き従ってもらおうか、恐らく、ロックウェル家はキミらを合衆国の敵として発表するようにFBIに頼んでいるだろうからな……」
「FBIだと!?」
「ああ、あいつらに狙われて、逃げおおせた犯罪者はごく僅かだというのはキミがよく一番知っている事実だろ?」
チャーリーはFBIは自分とは一生無関係な組織だとばかり思っていた。
勿論、それは所属されているという意味であり、追われる側になるとは思いもしなかったが……。
「ともかく、あなた方の応援があるのなら、安全だ……」
チャーリーの安堵した顔を更に安堵させ、泣いて感謝するような態度にするには十分すぎるほどの言葉を与えてやる。
「実は少し前に極秘で隠れ家を作り上げたな、そこは勿論我々の名前ではなく、全く別の……会社の人間とは関係のない人間の不動産となっている。そこにいけば、当面は安全な筈だ」
「そこには武器は?」
「ああ、十分に用意しているつもりだよ、手榴弾にバズーカにミニガンに……」
何とも大掛かりな武器ばかりが揃えられているなと、チャーリーが苦笑していた時だ。
「そこには何か相手を……暗殺できるような物は置いていますか?」
「狙撃銃が何挺か置いてあるが……」
「ならば、それで結構です。我々を狙う存在を狙うためならば、それが一番役に立つ武器になるでしょうな」
シャリムはアンドリューの言葉が理解できなかった。これ程の状態にも関わらずに、彼の相棒のようにひとまずの隠れ家が見つかって安堵するのではなく、もう戦う事を考えているなんて……。
シャリムはアンドリューという存在が恐ろしく仕方がない。
同時に、希望も湧く。いよいよ、アメリカを長年蝕んできた一族を滅ぼせるのだという一欠片の光にも似たような希望が……。
シャリムは満面の笑みを浮かべて、アンドリューに右手を差し出す。
「あの、これは?」
アンドリューは思わぬタイミングの握手に両眉を上げていた。
「改めて頼むという意味の握手だよ、共にロックウェル家と戦う仲間というね……」
シャリムの真意を知ると、アンドリューはため息を吐きながら、肩をすくめて、
「分かりました。これからお世話になりますね」
シャリムに負けず劣らずの満面の笑みを向けて、シャリムの右手を同じく自分の右手で握り返す。
「全く、アメリカ大統領の要求でさえも退けるとは、異世界からの使者とやらは礼儀とやらを知らんようですな」
かつてのデビッドの秘書官の言葉にエリック・ロックウェルは口元を緩める。
「いいや、ジョセフ……あいつらは自らの意思で、我々に立ち向かったのだ。例え、デビッドが生きていたとしても、あやつは手に入れまいて」
エリックは緩めている唇の端を舐めた後に、
「そうだ?シャリム・ギデオンへの制裁は?」
「ええ、勿論用意しておりますよ、とびきりの制裁を……」
「あやつは現金以外は持ち歩けんな?」
「ええ、銀行は我々の手足ですからな、それでも奴がこれまで利用しなければならなかったのは、銀行に頼らざるを得なかったからですよ」
秘書官は髭に覆われた口元を見せて笑う。
「今の資本制度では、そうだろうな、ジョセフ……あやつらはエミリオの襲撃を逃れたのは、どうした?」
「車に乗って、どこか別の地域に逃げたようですな」
「それは推測か?」
エリックが疑念の目を向けるのも無理はない。ジョセフは虫歯の目立つ黄色の歯を見せながら、
「いいえ、私はですね、あの社長めが、会社を抜けた後の動向を尋ねたのですよ、そうしたら、車を用意するように言われたんですと答えたんですよ、相当な金を使いましたがね……」
「フフフ、金などどうでも良い、シャリム・ギデオンとあの二人の行方を知れたのだからな、どこに逃げたのかは知らんが、アメリカ……いや、この世界にいる限りロックウェル家からの追跡から逃げられるものか……」
エリックは自分の所有するかつてのニューヨーク貿易センタービルと同様の高さを誇る社長室のオフィスから街を見下ろしながら言った。
その姿はアメリカ合衆国はいや、世界は自分の手にあるのだと主張せんばかりの堂々とした表情であった。
ジャックの言葉にローランスは黙ったままだ。
「安心してくれ、我々合衆国はキミらの楽園であり続ける……それに世界のめぼしい敵だって、とっくの昔にデビッドが駆逐してしまっただろ?」
「そう、この世界では……」
ローランスはここでようやく口を開く。
「私の叔父は死の淵のうわ言で、アンドリューの奴が持っていた機械を欲しがっておりました。叔父は恐らく、アンドリューとやらがこの国に来るまでに、何かしらの異世界勢力と接触したのでしょう……そこで、叔父はその力で、かつての敵たちを押さえつけるために使おうと考え付いたのでしょう」
「だが、結果はあの様だよ、ジャック・カルデネーロの息子、エミリオは簡単に負けてしまったんだろ?」
「ええ、向かい側のビルで観察していた、我々の協力者からの情報なので、確実なのです」
「エミリオが敗北するのを分かっていた上で、二人に警告のつもりで、私に電話を掛けさせた……」
ジャックの推測にローランスは首を縦に動かす。
「そうかね、問題はだ……シャリム・ギデオンだ。あの二人はアメリカの警察が総力を挙げれば、捕縛できるだろうが、シャリム・ギデオンは一応は資産を持っているからな、今頃あちこちの資産を現金に換えておるかもしらん」
「財産の凍結を見越した上でですか?」
ローランスは特に驚いた表情も見せずに、葉巻に火を点けながら言った。
「その通りだ。そうでもなければ、ロックウェル家の傘下に下らずに、このアメリカで会社を経営できるはずがない」
カーネルは秘書に用意された、シャリム・ギデオンについて書かれた書類を眺めながら言った。
「用意周到……油断のできない男か……我々の敵として不足はない相手だ。思えば、叔父がニクソンの奴を押さえつけるのにも苦労していたっけ」
彼はウォーターゲート事件の事を思い出したのだろう。くっくっと小さな笑いを零す。
「だが、キミらにとっての敵は大きい方が……」
「ええ、倒し甲斐があります」
ローランスは不敵な笑いを浮かべた。
「キミらは私に付き従ってもらおうか、恐らく、ロックウェル家はキミらを合衆国の敵として発表するようにFBIに頼んでいるだろうからな……」
「FBIだと!?」
「ああ、あいつらに狙われて、逃げおおせた犯罪者はごく僅かだというのはキミがよく一番知っている事実だろ?」
チャーリーはFBIは自分とは一生無関係な組織だとばかり思っていた。
勿論、それは所属されているという意味であり、追われる側になるとは思いもしなかったが……。
「ともかく、あなた方の応援があるのなら、安全だ……」
チャーリーの安堵した顔を更に安堵させ、泣いて感謝するような態度にするには十分すぎるほどの言葉を与えてやる。
「実は少し前に極秘で隠れ家を作り上げたな、そこは勿論我々の名前ではなく、全く別の……会社の人間とは関係のない人間の不動産となっている。そこにいけば、当面は安全な筈だ」
「そこには武器は?」
「ああ、十分に用意しているつもりだよ、手榴弾にバズーカにミニガンに……」
何とも大掛かりな武器ばかりが揃えられているなと、チャーリーが苦笑していた時だ。
「そこには何か相手を……暗殺できるような物は置いていますか?」
「狙撃銃が何挺か置いてあるが……」
「ならば、それで結構です。我々を狙う存在を狙うためならば、それが一番役に立つ武器になるでしょうな」
シャリムはアンドリューの言葉が理解できなかった。これ程の状態にも関わらずに、彼の相棒のようにひとまずの隠れ家が見つかって安堵するのではなく、もう戦う事を考えているなんて……。
シャリムはアンドリューという存在が恐ろしく仕方がない。
同時に、希望も湧く。いよいよ、アメリカを長年蝕んできた一族を滅ぼせるのだという一欠片の光にも似たような希望が……。
シャリムは満面の笑みを浮かべて、アンドリューに右手を差し出す。
「あの、これは?」
アンドリューは思わぬタイミングの握手に両眉を上げていた。
「改めて頼むという意味の握手だよ、共にロックウェル家と戦う仲間というね……」
シャリムの真意を知ると、アンドリューはため息を吐きながら、肩をすくめて、
「分かりました。これからお世話になりますね」
シャリムに負けず劣らずの満面の笑みを向けて、シャリムの右手を同じく自分の右手で握り返す。
「全く、アメリカ大統領の要求でさえも退けるとは、異世界からの使者とやらは礼儀とやらを知らんようですな」
かつてのデビッドの秘書官の言葉にエリック・ロックウェルは口元を緩める。
「いいや、ジョセフ……あいつらは自らの意思で、我々に立ち向かったのだ。例え、デビッドが生きていたとしても、あやつは手に入れまいて」
エリックは緩めている唇の端を舐めた後に、
「そうだ?シャリム・ギデオンへの制裁は?」
「ええ、勿論用意しておりますよ、とびきりの制裁を……」
「あやつは現金以外は持ち歩けんな?」
「ええ、銀行は我々の手足ですからな、それでも奴がこれまで利用しなければならなかったのは、銀行に頼らざるを得なかったからですよ」
秘書官は髭に覆われた口元を見せて笑う。
「今の資本制度では、そうだろうな、ジョセフ……あやつらはエミリオの襲撃を逃れたのは、どうした?」
「車に乗って、どこか別の地域に逃げたようですな」
「それは推測か?」
エリックが疑念の目を向けるのも無理はない。ジョセフは虫歯の目立つ黄色の歯を見せながら、
「いいえ、私はですね、あの社長めが、会社を抜けた後の動向を尋ねたのですよ、そうしたら、車を用意するように言われたんですと答えたんですよ、相当な金を使いましたがね……」
「フフフ、金などどうでも良い、シャリム・ギデオンとあの二人の行方を知れたのだからな、どこに逃げたのかは知らんが、アメリカ……いや、この世界にいる限りロックウェル家からの追跡から逃げられるものか……」
エリックは自分の所有するかつてのニューヨーク貿易センタービルと同様の高さを誇る社長室のオフィスから街を見下ろしながら言った。
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