国立魔法大学の革命児〜異世界より来たりた救世主

五大ファミリーの陰謀編

コミッション（マフィアのボスたちの会議）

だが、そんなジャックの意見に反対の意見を飛ばした人間がいた。フランク・レボニアンであった。
「我々はマフィアだ……我々は国家には縛られずに活動していくというのが、モットーだった筈だ、それがアメリカという国家を倒すために別の国家の世話になるのか？ジャック」
フランクの苦々しそうな口調から、彼がどれ程自分の意見に反対のかというのはジャックにも簡単に予想がつく。
「まぁ、聞いてくれよ、エルフの王はアメリカを倒した暁には我々でこの国を支配していいと言ったんだぜ、この国を！ 」
ジャックは競馬に人生をかけている人間のように興奮しながら、言ったが、フランクは聞く耳を持っていないらしい。不機嫌なペットの犬や猫のようにそっぽを向いままだ。
「私もミスターレボニアンの意見に賛成だッ！」
と、発言したのは五大ファミリーのボスの一人であるエミリオ・クリスタッリーニであった。彼は１９３５年の生まれで、フランク・レボニアン同様ベテランの年老いたボスであった。
「ジャック……きみの意見は極論の意見のような気がしてならない、それに万一この会場にＦＢＩのくそったれが聞いていたら、どう対処するのだ？きみの作戦とやらは全部筒抜けではないか……こんな間抜けな部下を持って、エルフの王とやらはさぞ迷惑だろうな」
その言葉に釣られ、他のファミリーのボスや相談役コンシリエーレたちも笑っていたが……。
「少し、黙ってもらえませんかッ！」
ジャックが机に拳を叩きつけた事により、全員が沈黙に介した。
「ならば、私が貰った兵士の性能をここでご覧いただきましょう！ 」
そのジャックの言葉にその怪物は呼応し、翼を広げ、サバイバルナイフのような鋭い爪と牙を掲げてから、ホテルの壁をはかいして……。
「ご覧くださいませ、ホテルの壁の後ろから様子を伺っていた捜査官は血祭りに上げられましたね」
「おっ、おおおお……」
全員の歓声が上がる。反対派もそれまでの意見を引っ込め、エルフの王に従うことを決断した。
「では、計画は我々カルデネーロ・ファミリーが殆どを行いますので、皆様方は資金を援助なさるだけで良いのですよ、扇子を仰ぎながら、我々の活動をご覧になってください、アメリカ政府を打倒する時間が来ましたのならば、私が連絡致しますから」
ジャックは相談役コンシリエーレであるロバート・フェラーチと例の怪物たちを引き連れ、会議室を跡にした。
（さてと、この計画を成功させれば、五大ファミリーは私の指揮下に置かれる筈だ。いや、アメリカそのものが手に入るのだ）
ジャックは笑いが止まらなかった。


チャールズは今日は交渉は無理だという事を伝え、自分のニューヨークの郊外にあるに一軒家に泊める事にした。
「で、あんたはいつ帰るんだい？」
「勝手に私の予定を決めてもらっては困るな、チャールズさんとやら」
アンドリューは出されたコーヒーを啜りながら言った。
「問題は……だよ、どうやってこちらの世界の王に国王陛下からの親書を渡すかだよ」
東洋系の男はアンドリューを窘めているようだ。ワザとらしく右腕を横にしている。
「それもその通りだ、だかな、私に不可能は無いはずだ、私は王国国立魔法大学を首席で卒業し、ここ１０年で最も優秀な生徒として、国王陛下から信頼され、ここに大使として派遣されたのだ。何も問題はなかろうよ」
アンドリューは自分の経歴をここに至るまでに知らなかったチャールズに説明するかのように、東洋系の男に語っている。
勿論、チャールズとしては不愉快極まりない。どうして、自分にそんな事を聞かせなければならないのだろうか。
彼の経歴を知って、何なるのだろうか。そんな風に疎ましい目で、アンドリューとその他の従者を睨んでいた時だ。
その視線に気が付いたのだろうか、東洋系の男がチャールズにペコリと会釈する。
「いや、大変失礼な事を申し上げまして……本当に申し訳ありません」
東洋系の男はバツが悪そうに首根っこをかきながら言った。
「いっ、いえ……アンドリューさんには今日は世間を賑わせていた放火事件の犯人を捕まえてもらったのでね、彼には感謝しても仕切れないくらいですよ」
チャールズもそんな風に謝られては、そう言うしかない。こんな時にあの気の強い女。メアリー・青山冬菜なら何と言うのだろうか。チャールズは想像するだけで、アンドリューが放火犯逮捕に使ったあの妙な剣の矛先をメアリーに向けそうだ。思わず全身が震えてしまう。
だが、その肝心のアンドリューはと言うと。
「おお、これは見事だッ！」
テレビの野球中継を食い入るように見ている。一体、どこが彼をそこまで引き付けるのだろうか。
「おい、チャールズよ、あのスポーツの名前はなんと言うのだ？」
アンドリューのよく漫画に出てくる貴族のような横柄な言葉遣いにも腹が立ったが、野球を知らないというのはあまりにも可哀想なので、説明してやる。
説明を聞いている途中、始終アンドリューは腕を組み、偉そうにしているだけだ。
忌々しい。一体何があれば、あそこまで高慢で横柄な人間になれるのだろうか。仮にアンドリューの言うように自分が同じ成績を取って、国王から大使として別の世界に行くように任じられても、自分ならば、あんなに鼻にかけたりしないだろう。
チャールズは東洋系の男がいなければ、とっくにアンドリューを殴っていただろう。
少なくとも、拳は今までのどんな卑劣な犯罪者と対峙した時よりも、震えていた。
「もういいだろうよ、オレの家は一軒家だからな、あんたらには悪いけれど、来客用のベッドは客間には二つしかない、後の一人はソファーで……」
チャールズがキッチンの横にある柔らかいソファーを考えながら、呟いていると、アンドリューが相変わらずの秀才独特の嫌味な笑顔を浮かべ、更にチャールズが言おうとした事を静止させた。
「客間のベッドはジーナとこの男が寝るとしてだ……私はキミのベッドに眠らせてもらおうか」
「なんで、私のベッドに！？」
「私たちは客人なのだろ？なら、キミがソファーで寝るのが道理だ」
チャールズは言い返せない自分が悔しくて仕方がない。今、アンドリュー・カンブリアに逆らえば、殺されるのは自分だろう。
それに、署長から彼らの面倒を見ろと言われている手前に追い出すわけにもいかぬ。
チャールズは涙を飲んで、ソファーに寝る事を決意した。