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漂流する惑星『サ・ザ・ランド』

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「我々をどうするつもりです?」

 修也が声を振るわせながら問いかけた。敬語で問い掛けたのは長官をこれ以上刺激させないためである。大人としての知恵といえる。

 屈服したような態度を見せたことから長官は鼻息を鳴らした後はいたずらに危害を加えるような真似はしなかった。

 長官は責任者らしく、しばらく考え込むような素振りを見せた後に長官は勝ち誇ったような笑みを浮かべていった。

「諸君らの場合は死刑だな。関係のない星の住民とはいえあまりにも優れたアンドロイドを殺し過ぎた」

「し、死刑だって……」

 修也は眉間をピストルで撃たれたかのように呆然としたまま口を大きく開いて長官を見つめていた。疑うような目で恐る恐る見つめていたのだが、長官はそんな修也の態度が面白くて堪らなかったらしい。ニヤニヤと笑いながら、

「死刑だ」

 と、打ちひしがれた様子の修也に対して容赦のない一言を浴びせたのである。眉間の中に向かってもう一度銃弾を撃ち込まれたように修也は口をつぐんでいた。

 言葉を口にすることもできない心境だったに違いない。言葉が口から出てこなかったのだろう。パクパクと餌を求める金魚のように口を開いていた。

 修也とはどこまでも対照的なように思えた。

 一方で悠介は押さえ付けられた直後であったにも関わらず、毅然とした態度のまま長官を睨み付けていた。

「地球人を舐めるなよ。死刑だなんて偉そうに言いやがって……必ずお前の首を取ってやるからな」

「首を取る? パワードスーツもレーザーガンもない状況でどうするのかな? 人間というのはやはり愚かな存在だ」

 長官の一言は古傷を拭い取られるかのような思いであった。実際に現実という名の短剣で悠介は微かな希望を拭い取られたような心境である。希望という名の表皮を剥ぎ取られた後に出てくるのは
 現実という名のどす黒い血が湧き出てくるのみだ。

 状態は極めて不利。バスケットボールであれば後半戦の時期に相手チームに逆転不可能な点数を出されたようなものだ。

 だが、そんな状況であっても踏ん張るのが名バスケットボールプレイヤーというものだろう。
 悠介は鼻息を鳴らした後で長官に向かって勢いよく人差し指を突き付けていった。

「必ずだ。必ず俺は脱出してみせる。見てろ、吠え面をかくのはお前の方だッ!」

 嫌というほど絶望を叩き付けられても修也とは正反対にどこまでも太々しい態度を取る悠介。その姿は宇宙でもっとも優秀だと自負してやまないアンドロイドにとっては不愉快極まりない出来事であったに違いない。わかりやすく、下唇を噛み締めていたので清々しい気分だった。

「ほざくな。人間が……貴様ら全員リプリーの餌食にしてくれる! 連れて行け! こいつらを連れて行け!!」

 長官の怒声混じりの命令を受けて宇宙服を着た男たちが修也たちの両腕を拘束していく。そしてそのまま強制的に部屋の中から引っ張り出したのである。

「これから私たちはどうなるので?」

 修也が声を震わせながら問い掛けると、宇宙服を着たアンドロイドが上から目線の声で答えた。

「閣下のご要望で、お前たちはリプリーを使っての処刑となる」

「リプリー?」

 リプリーとはなんだろうか。修也が聞いたこともない単語について考えていると、頭の中に麗俐と悠介の2人が洞窟の中で遭遇したという怪物や長い髪のアンドロイドが語ったエイリアンなる怪物の姿が頭の中に浮かぶ。

 リプリーというのはそのエイリアンの呼称であるに違いない。その怪物に食わせて殺すという処刑法を用いるに違いない。

 電子手錠で両手を拘束された修也は雲に覆われていたことによって日光が遮られている。普段であれば気にしないのだが、今は気分のせいか妙に暗く思えた。
 リプリーなる怪物が用意されているのは円盤の外であるそうだ。

 円盤から2、3キロほど離れたところに処刑場はあった。簡素な木の柱のみが建てられた素朴な場所だ。
 宇宙服を着たアンドロイモたちは柱の方に修也を括り付けるべく一度電子手錠を外した。その次はコブラ男、最後に悠介という順番だった。

 悠介はこのタイミングだとばかりに手錠が外れた一瞬の隙をつき、アンドロイドが持っていたプラズマライフルを奪い取ったのである。

 強奪したプラズマライフルを手に悠介は近くにいたアンドロイドたちの頭を撃ち抜いていく。ここでようやく地球人たちによる反撃が始まった。

 地下にいた敵を撃ち抜き、修也とコブラ男を柱の陰に隠した瞬間、悠介の興奮は最高潮へと達した。それは興奮であった。優越感、使命感、勝利への渇望そういった思いが頭の中で弾けていく。ドーパンミングしていった。

 この時、悠介が感じた興奮は漫画家や小説家といったクリエイターたちが素晴らしい作品を生み出す時の心境と似ていた。クリエイターたちはこの興奮を脳内麻薬と呼ぶそうだが、あながち間違っていないのかもしれない。

 興奮が最高潮に達していた悠介はたった1人で護衛を片付けた後で修也とコブラ男の電子手錠を撃ち抜き、2人に自由を与えたのであった。

 それには終わらない。リプリーが出てこなかったことをいいことに、悠介は地面の上で鉄の塊へと変わったアンドロイドが握っていたビームライフルを手に取り、修也へと手渡したのである。

 持ち主が人間であれば死者の持ち物を奪ったと罪悪感に駆られることになるかもしれない。

 だが、生憎なことに相手はアンドロイド。それも自分たち以外の異星人や人間たちを虫や雑草のように考えているような相手。壁画を通して、そのことを知っていた罪悪感は愚か後ろめたさを感じることさえなかった。

 修也はビームライフルを握り締めると、そのまま両手で構えた。狙ったのは先ほど自分の処刑場となるはずであった木の柱である。照準を合わせてゆっくりと引き金を引いていった。

 同時に銃口から強力な光が放射されていくのと同時に木の柱が黒焦げになっていった。

 修也はこれまでに何度も使用していたことはあるが、それは全て地球産のビームライフル。ホーテンス星人が発明したものと比較すれば雲泥の差であった。

 修也はビームライフルの素晴らしさに両肩を震わせた。もちろん恐怖のためではなく興奮と喜びのために。
 修也は自分が殺人鬼にでもなったかのような心境だった。いや、事実修也はビームライフルを使用したいという誘惑に取り憑かれている。

 もし、狙っていた相手が敵性アンドロイドではなく地球人類であった場合は修也が殺人の罪を負うことになるだろう。
 そのことを理解したようやく彼は理性を取り戻した。

 ビームライフルを背負うと、悠介やコブラ男と共に宇宙船へと向かって歩き出していく。3人で肩を並べて荒ぶ風が吹き荒れる大地の上を歩いていく様は西部劇映画の一場面のようである。

 強い風に頬を撫でられ、両肩を強張らせるほど修也はそう思わざるを得なかった。

 岩陰に隠れ、宇宙船の近くに立っていた宇宙服を着たアンドロイドを撃ち抜いたかと思うと、彼はもう一体のアンドロイドも容赦なく撃ち抜いたのである。

 この時にもう片方のアンドロイドを人質にしなかったのは感情を持たないアンドロイドが頭に銃口を突き付けられたくらいで宇宙船の扉を開くとは到底思えなかったからである。

 それに宇宙船の扉を開かずとも敵を誘い出す方法は既に見つけ出していた。
 簡単な話である。こちらから攻撃を行い、宇宙船の中に籠るアンドロイドたちをこの場に誘き出せばいいのである。

 正直にいえば兵器を使われる危険性の方が高いが、失敗すればどのみち危険は伴う。
 だからこそほんの僅かな可能性に望みを託したのである。

 宇宙船の扉に向かって修也たちは何度も銃口から放たれる稲妻や熱線を放っていった。しつこく攻撃を繰り出したお陰か宇宙船から警告音が鳴り響き、スモークを立て宇宙船のハッチが開いていったかと思うと、タラップが降りていった。

 タラップからは高性能な武器を両手に構えたアンドロイドたちが姿を見せていった。賭けは修也たちの勝ちである。

「あいつらをやればいいわけだな? よしッ! 腕が鳴るぜ!」

 悠介はプラズマライフルの銃口を構えながら言った。

「そうだな。だが、このまま突撃するのは愚かだ」

「じゃあ、どうするんだ?」

「ここからこのまま狙っていくんだ。それが賢いやり方じゃあないのか?」

 修也は手本とばかりに岩陰に身を隠しながら不穏な気配を感じて降りてきたアンドロイドの一体を撃ち抜く。修也の熱線は見事に利口な一体のアンドロイドを鉄屑へと変えていったのである。

 奇襲は見事に成功した。田楽狭間にて今川義元の集団に飛び掛かった織田軍足軽の気持ちが分かった気がする。

 だが、戦闘を優位に持ち込めたのは最初だけだった。後は互いに一歩も譲らぬ激戦が続いた。岩陰に身を隠しながら時たま身を乗り出し、突撃してくるアンドロイドたちを倒していくという繰り返し作業がなされていった。

 随分と気を張り詰めていたのだろう。気が付けば既に陽が沈むような頃合いになっていた。

 しかしこちらは疲弊していたとしても向こうは機械。疲れなど感じるはずがない。

 修也が苦笑いを浮かべていた時のことだ。

 突然コブラ男がエネルギーライフルを構えながら敵地のど真ん中へと突っ込んでいったのである。

 決死の覚悟を決めたのだろう。確かに同じアンドロイドであるコブラ男であれば恐怖は感じないはずだ。躊躇なく激戦地のど真ん中へと足を踏み入れられるわけだ。

 しかし人間よりもダメージは軽減されることになるとはいえ、撃たれることがあればそれ相応の打撃は受ける。下手をすれば機能停止という人間でいうところの死を迎えるかもしれない。

 それでも事態を打開するため動いたコブラ男に修也たちは胸を打たれた。
 背後から援護射撃を行い、彼が飛び出していくのと同時に修也たちも敵地のど真ん中へと突っ込んでいく。

 膨大な数の敵を掻い潜り、3人はなんとか宇宙船の中へと侵入することに成功したのであった。

「親父、扉を閉めた方がいいんじゃあないのか?」

 悠介の提言もあり、修也は外に敵を追い出すためハッチの扉を閉めようとしたが、生憎なことに閉め方が分からない。

 なにせこれまで出会ったことがない宇宙船なのだ。

 困惑していると、例のコブラ男が人差し指を伸ばし、ウィンドウを開いたかと思うと手早く両手を動かしてハッチを閉じた。どうやら一瞬の間にハッキングを完了させたらしい。一流のプログラマーも顔負けな腕に舌を巻いた。

 優れたアンドロイドであるコブラ男は長官の部屋のハッチを開くことにも成功したらしい。宇宙船の中に残っていたアンドロイドたちが身を固める部屋からは護身用のエネルギーライフルを構えた長官の姿がはっきりと確認できた。

 部屋さえ見えれば、あともう一息だ。修也たちは気合を入れた。
 ハッチで外の敵を分断することができたのは大きかった。

 結果として修也たちは大きく疲弊し、多少の軽い傷を負いながらも長官の部屋へ辿り着くことができたのだ。先ほどとは一転して有利に立ったのは修也たちの方である。

 修也はプラズマライフルを構えながら突撃の際に武器を落とした長官に向かって言い放った。

「こっちの勝ちだ。大人しく武器を捨てて投降しろ」

「フッ、オレを投降させたところで外にいる兵隊は降伏せんぞ。地球の軍隊とは違うのだ」

「この宇宙船に兵器があるだろ?」

「生憎なことだが、これは特殊な代物でね。母星から動かしてる母星からの許可がないと兵器は使えんのだよ」

「先ほど使わなかった理由は? いくら許可制といっても使えるはずだろ?」

「来るからだよ。もうすぐ母星から『マザー』がな」

 長官は勝ち誇ったような笑みを浮かべながら言った。

 修也の頭の中で長官の高笑いが響いていった。こびりついて離れそうにない不愉快な笑いに修也は思わず目を閉じてしまった。

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