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人と異形とが争いを繰り広げる惑星『ボーガー』
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絶望的とまでは言わないまでも厳しい条件を突きつけられたことによって、小屋の片隅で打ちひしがれることになった少女の前に突然現れた中年男性の存在は予想よりも大きかったらしい。箒で散らばった羽を小屋の外へと押し出そうとしていた彼女は悲鳴を上げかけていた。
咄嗟に彼女の口を塞ぎ、弁明の言葉を口に出したのはジョウジだった。
「申し訳ありません。お嬢さん……驚かせるつもりはなかったんです。ただ、あなたの上司? いいえ、ご友人の公主殿下がこちらへ向かう姿を目撃いたしまして、そのことが気になって後をつけたらその、あなたと公主殿下の争いを目撃致しまして」
どうやら彼女は修也とジョウジがここに居た理由を理解してくれたようだ。とりあえず、落ち着いたらしい。ゆっくりと強張っていた肩の力を抜いていく。
リラックスを終えたと思うと、先ほどとは対照的にゆっくりとした口調でジョウジに向かって問い掛けた。
「わかったわ。それよりもどうしてあなた方は私の手伝いをしてくださるの?あなたたちは宇宙から来たお客人、いうなれば来賓の方々よ。それに対して私は単なる鳥小屋の番人……普通なら構わないと思うんだけれども」
相手が異星人であるということもあって、警戒心も働いたのか、どこかつっけどんな態度で言い放った彼女の言葉をジョウジの通訳によって知ることになった修也は困ったような顔を浮かべながらジョウジに向かって耳打ちしていった。
「これから私のいう言葉を一字一句丁寧にとは言うつもりはありませんが、なるべく正確に訳していただければ幸いです」
修也の要請に対してジョウジは黙って首を縦に動かす。それから修也は自分がどういった理由で彼女を助けに訪れたのかを説明していった。
ジョウジの通訳によってその意味を知った少女はくすぐられたような笑みをこぼした。
というのも、彼女のこれまでの人生において責任ある大人というものに助けられたことがなかったからだ。
彼女にとって大人特に『大人の男』という存在は恐怖の象徴でしかなかった。
思い出すのは今よりも幼き頃、彼女にとって最初に遭遇した大人の男というのは兄や自分に対して酷い暴力を振るう『父親』という存在だった。
酒が切れた、仕事がうまくいかない、そんなくだらない理由で父は自分や兄に対して暴力を振るった。吐き出すような暴力と片付けのされていない散らかった部屋に、食事も碌に取ることができない荒みに荒んだ生活。思いを馳せなくてもはっきりと覚えている。あの頃は地獄だった。庇ってくれるべき母親は産まれてすぐに流行病でこの世を去っているので、庇ってくれるのは兄だけだった。
それでも昼間は兄が働きに出ているので、彼女は暴力の雨に振られていた。
そんな恐ろしい父の元から自分を連れて逃してくれたのは肝心の兄だった。常日頃から自分の不在時に殴られていたことに対して日頃から憤りを感じていた兄の奉天はある日酒を飲んで泥のように眠りこけている父親の心臓を貫き、浅い眠りについていた自分を起こして村から逃げ出したのだった。
その後に兄妹を待ち構えていたのは極貧ともいえる放浪生活だった。宿もなければまともな服もない。その日に食べ物を買うだけで精一杯だという極貧の中でまた、大人の男が彼女に牙を剥いた。
ある日、彼女は兄の不在時に大人の男たちから「手っ取り早く儲けることができる仕事がある」と誘い出されて小さな宿屋の中で春を売らされそうになった。
この時彼女は無理やり迫ってきた客に噛み付き、痛がっている間に逃げ出すことに成功したのだった。
近隣にあった小さな飯屋の中へ裏口を伝って逃げ込み、ひたすらに兄が迎えに来るのを震えながら待つだけの日々は地獄であった。
とうとう男たちは彼女が逃げ込んだ飯屋に目を付け、怒鳴り込んで店主を脅迫するのと同時に無理やり少女を引き摺り出し、連れ出そうとした。
しかしこの時幸いであったのは兄である奉天が戻ってきたことだった。両頬に泥を付けた状態で奉天は壁の上に飾れられていた直槍を握り締めると、屈強で、それでいて中には青龍刀を握り締めた者さえいたというのに、傷一つ負うことなく自身を害そうとした男たちを一気に討ち取ったのだった。
その事件がきっかけとなって奉天は軍人として召し出され、反乱者や隣国、そして蛮族と人々が忌み嫌う知性のない猿たちとの戦闘において武勇を発揮していき、将軍としての地位を手に入れたのだった。
兄の出世の裏で彼女も鳥の世話能力を買われて幼いながらも鳥小屋の番人に任じられたのだった。
しかし兄の蛮勇を妬む大人たちから嫌がらせも受けた。
それも大人の男たちからだ。こうした理由で彼女は大人特に男の存在を苦手としていたが、目の前にいる二人は『大人の男』でありながら自分を助けてくれようとしている。
にわかには信じ難いような出来事であったが、今も自分の隣で鳥の羽を箒で払っている様子から察するに本当に下心も何もなしで手伝ってくれているに違いなかった。
二人の大人が手伝ってくれたということもあって自分一人で行うよりも早い時間で終わらせることができた。
まだ月は高く登っている。今夜は寝台の上で眠れそうだ。満足そうに笑っている二人の大人に向かって彼女は丁寧に頭を下げて言った。
「あの、手伝っていただいて本当にありがとうございました。あなた様のおかげで私は今日、ベッドの上で寝ることができます」
「礼には及ばないよ。私たちはやりたくてやっただけだからね」
修也は優しい口調で安心させるように言った。そして修也の言葉を聞いて安心した顔を浮かべた少女を放って、そのまま二人で鳥小屋を後にしていった。
鳥小屋を抜け、宿舎の方に戻ると、ジョウジは一気に緊張が襲ってきたのか、全身に疲労感のようなものが生じていき、そのまま腰を地面の上に落としていった。
「ジョウジさん、無事に終わったとはいえ、この一件が皇帝にバレたら大変なことになりますよ。私たちは大目玉です」
「そうぼやかないでくださいよ。お陰で善行を積むことができたんですから」
修也は苦笑しながら言った。その清々しいまでの顔からは後悔など見えない。やるべきことをやり遂げた男の顔が見えた。
ボランティアをやり遂げた中年の男性を見たジョウジは苦笑しつつ、そのまま静かに両目を閉じていく。どうやら疲労が一気に襲い掛かってきたらしい。
仕方がないので修也はジョウジを両手に抱えて寝台の上へと運び、責任をとって自身は寝台に背中を預けて眠ることに決めた。
翌日鼻腔へ漂ってきた美味しそうな匂いで修也は目を覚ました。
ゆっくりと目を開いていくと、目の前には朝に相応しい豪勢な中華料理がお膳の上に並べられていた。
中国式の揚げパンや豆乳、そして小籠包やワンタンといった点心が所狭しとばかりに並んでいた。夕食よりは簡素なメニューであったが、簡素であっても食べやすいメニューは胃が完全に目覚めきっていない朝にはちょうどよかった。
修也はゆっくりと朝食を食し、ジョウジとと共に重い腰を上げて他の面々がいる部屋へと向かっていく。
宮殿の外で実演販売を行うためだ。地球から持ってきた風船やら何やらを試していた時のことだ。
修也たちの元に一羽の鷹が迷い込んできた。迷い込んできた鷹はせっかく悠介が
膨らませた風船を破壊し、麗俐の髪のセットを乱し、修也の頭上を旋回してけたたましく鳴いていた。
「くそッ、なんなんだよ。あの鷹はッ!」
「本当ッ! あいつのせいであたしの髪が台無しじゃあない!」
子どもたちは憤りを隠し切れなかったらしい。今にもカプセルを使ってパワードスーツを身に付けて鷹を叩き落とそうとしていた。
だが、修也はこの鷹が何者であるのかを知っていた。鋭い両目に立派な羽毛を生やした翼、そして引き絞った素晴らしい肉体。どれをとっても昨日に遭遇した劉尊そのものだ。
劉尊はしばらく頭上で鳴いていたかと思うと、そのままゆっくりと地面の上へと降りていった。
そしてあろうことか修也が咄嗟に差し出した掌の上で体を休めていったのである。
「劉尊、お前どうしてこんなところに?」
この星の言葉が分からない修也の問い掛けは日本語である。それに加えて修也は人間だ。種族が異なることもあって言葉など通じるはずがなかったのだが、劉尊はまるで返答するかのように嘴を大きく開いて声を上げた。
修也がすっかりと困惑した顔を浮かべていると、修也たちを見つめていた見物人たちをかき分けて二人の少女が姿を見せた。
その正体は紅晶公主と鳥小屋の番人である例の少女だった。二人とも身分が分からないように庶民用の服を身に纏っていることもあって、人々は少女たちの状態に気が付いていないようだ。
修也がそんなことを考えていると、紅晶が修也の掌の上に停まっている劉尊に向かって手を伸ばした。
「ほら、劉尊おいで、私は敵ではないのよ。あなたの味方なの。お願い、信じて」
だが、劉尊はそっぽを向いた。それから劉尊はなにも言わずにジッと修也を睨み付けるかのように見つめていたのだった。
そんな状況であったとしても紅晶はなおも劉尊を手なづけようとしていたが、劉尊はそのことを煩わしく感じたのだろう。
必死に手を伸ばしている紅晶を放って青空の上へと吸い込まれっていった。
「あぁ、なんてことなの」
紅晶は両膝を崩して打ちひしがれたような表情を浮かべていた。
「こ……紅晶」
彼女が公主を呼び捨てにしているのはあくまでもお忍び状態であったからだろう。
修也はそんな哀れな姿をした紅晶になんと声をかけたらよいのか分からずにオロオロとしていた時だ。
紅晶が強引に修也の手を掴んで路地裏へと引っ張っていったのだ。
他の面々が止める暇もない、一瞬の出来事であった。
咄嗟に彼女の口を塞ぎ、弁明の言葉を口に出したのはジョウジだった。
「申し訳ありません。お嬢さん……驚かせるつもりはなかったんです。ただ、あなたの上司? いいえ、ご友人の公主殿下がこちらへ向かう姿を目撃いたしまして、そのことが気になって後をつけたらその、あなたと公主殿下の争いを目撃致しまして」
どうやら彼女は修也とジョウジがここに居た理由を理解してくれたようだ。とりあえず、落ち着いたらしい。ゆっくりと強張っていた肩の力を抜いていく。
リラックスを終えたと思うと、先ほどとは対照的にゆっくりとした口調でジョウジに向かって問い掛けた。
「わかったわ。それよりもどうしてあなた方は私の手伝いをしてくださるの?あなたたちは宇宙から来たお客人、いうなれば来賓の方々よ。それに対して私は単なる鳥小屋の番人……普通なら構わないと思うんだけれども」
相手が異星人であるということもあって、警戒心も働いたのか、どこかつっけどんな態度で言い放った彼女の言葉をジョウジの通訳によって知ることになった修也は困ったような顔を浮かべながらジョウジに向かって耳打ちしていった。
「これから私のいう言葉を一字一句丁寧にとは言うつもりはありませんが、なるべく正確に訳していただければ幸いです」
修也の要請に対してジョウジは黙って首を縦に動かす。それから修也は自分がどういった理由で彼女を助けに訪れたのかを説明していった。
ジョウジの通訳によってその意味を知った少女はくすぐられたような笑みをこぼした。
というのも、彼女のこれまでの人生において責任ある大人というものに助けられたことがなかったからだ。
彼女にとって大人特に『大人の男』という存在は恐怖の象徴でしかなかった。
思い出すのは今よりも幼き頃、彼女にとって最初に遭遇した大人の男というのは兄や自分に対して酷い暴力を振るう『父親』という存在だった。
酒が切れた、仕事がうまくいかない、そんなくだらない理由で父は自分や兄に対して暴力を振るった。吐き出すような暴力と片付けのされていない散らかった部屋に、食事も碌に取ることができない荒みに荒んだ生活。思いを馳せなくてもはっきりと覚えている。あの頃は地獄だった。庇ってくれるべき母親は産まれてすぐに流行病でこの世を去っているので、庇ってくれるのは兄だけだった。
それでも昼間は兄が働きに出ているので、彼女は暴力の雨に振られていた。
そんな恐ろしい父の元から自分を連れて逃してくれたのは肝心の兄だった。常日頃から自分の不在時に殴られていたことに対して日頃から憤りを感じていた兄の奉天はある日酒を飲んで泥のように眠りこけている父親の心臓を貫き、浅い眠りについていた自分を起こして村から逃げ出したのだった。
その後に兄妹を待ち構えていたのは極貧ともいえる放浪生活だった。宿もなければまともな服もない。その日に食べ物を買うだけで精一杯だという極貧の中でまた、大人の男が彼女に牙を剥いた。
ある日、彼女は兄の不在時に大人の男たちから「手っ取り早く儲けることができる仕事がある」と誘い出されて小さな宿屋の中で春を売らされそうになった。
この時彼女は無理やり迫ってきた客に噛み付き、痛がっている間に逃げ出すことに成功したのだった。
近隣にあった小さな飯屋の中へ裏口を伝って逃げ込み、ひたすらに兄が迎えに来るのを震えながら待つだけの日々は地獄であった。
とうとう男たちは彼女が逃げ込んだ飯屋に目を付け、怒鳴り込んで店主を脅迫するのと同時に無理やり少女を引き摺り出し、連れ出そうとした。
しかしこの時幸いであったのは兄である奉天が戻ってきたことだった。両頬に泥を付けた状態で奉天は壁の上に飾れられていた直槍を握り締めると、屈強で、それでいて中には青龍刀を握り締めた者さえいたというのに、傷一つ負うことなく自身を害そうとした男たちを一気に討ち取ったのだった。
その事件がきっかけとなって奉天は軍人として召し出され、反乱者や隣国、そして蛮族と人々が忌み嫌う知性のない猿たちとの戦闘において武勇を発揮していき、将軍としての地位を手に入れたのだった。
兄の出世の裏で彼女も鳥の世話能力を買われて幼いながらも鳥小屋の番人に任じられたのだった。
しかし兄の蛮勇を妬む大人たちから嫌がらせも受けた。
それも大人の男たちからだ。こうした理由で彼女は大人特に男の存在を苦手としていたが、目の前にいる二人は『大人の男』でありながら自分を助けてくれようとしている。
にわかには信じ難いような出来事であったが、今も自分の隣で鳥の羽を箒で払っている様子から察するに本当に下心も何もなしで手伝ってくれているに違いなかった。
二人の大人が手伝ってくれたということもあって自分一人で行うよりも早い時間で終わらせることができた。
まだ月は高く登っている。今夜は寝台の上で眠れそうだ。満足そうに笑っている二人の大人に向かって彼女は丁寧に頭を下げて言った。
「あの、手伝っていただいて本当にありがとうございました。あなた様のおかげで私は今日、ベッドの上で寝ることができます」
「礼には及ばないよ。私たちはやりたくてやっただけだからね」
修也は優しい口調で安心させるように言った。そして修也の言葉を聞いて安心した顔を浮かべた少女を放って、そのまま二人で鳥小屋を後にしていった。
鳥小屋を抜け、宿舎の方に戻ると、ジョウジは一気に緊張が襲ってきたのか、全身に疲労感のようなものが生じていき、そのまま腰を地面の上に落としていった。
「ジョウジさん、無事に終わったとはいえ、この一件が皇帝にバレたら大変なことになりますよ。私たちは大目玉です」
「そうぼやかないでくださいよ。お陰で善行を積むことができたんですから」
修也は苦笑しながら言った。その清々しいまでの顔からは後悔など見えない。やるべきことをやり遂げた男の顔が見えた。
ボランティアをやり遂げた中年の男性を見たジョウジは苦笑しつつ、そのまま静かに両目を閉じていく。どうやら疲労が一気に襲い掛かってきたらしい。
仕方がないので修也はジョウジを両手に抱えて寝台の上へと運び、責任をとって自身は寝台に背中を預けて眠ることに決めた。
翌日鼻腔へ漂ってきた美味しそうな匂いで修也は目を覚ました。
ゆっくりと目を開いていくと、目の前には朝に相応しい豪勢な中華料理がお膳の上に並べられていた。
中国式の揚げパンや豆乳、そして小籠包やワンタンといった点心が所狭しとばかりに並んでいた。夕食よりは簡素なメニューであったが、簡素であっても食べやすいメニューは胃が完全に目覚めきっていない朝にはちょうどよかった。
修也はゆっくりと朝食を食し、ジョウジとと共に重い腰を上げて他の面々がいる部屋へと向かっていく。
宮殿の外で実演販売を行うためだ。地球から持ってきた風船やら何やらを試していた時のことだ。
修也たちの元に一羽の鷹が迷い込んできた。迷い込んできた鷹はせっかく悠介が
膨らませた風船を破壊し、麗俐の髪のセットを乱し、修也の頭上を旋回してけたたましく鳴いていた。
「くそッ、なんなんだよ。あの鷹はッ!」
「本当ッ! あいつのせいであたしの髪が台無しじゃあない!」
子どもたちは憤りを隠し切れなかったらしい。今にもカプセルを使ってパワードスーツを身に付けて鷹を叩き落とそうとしていた。
だが、修也はこの鷹が何者であるのかを知っていた。鋭い両目に立派な羽毛を生やした翼、そして引き絞った素晴らしい肉体。どれをとっても昨日に遭遇した劉尊そのものだ。
劉尊はしばらく頭上で鳴いていたかと思うと、そのままゆっくりと地面の上へと降りていった。
そしてあろうことか修也が咄嗟に差し出した掌の上で体を休めていったのである。
「劉尊、お前どうしてこんなところに?」
この星の言葉が分からない修也の問い掛けは日本語である。それに加えて修也は人間だ。種族が異なることもあって言葉など通じるはずがなかったのだが、劉尊はまるで返答するかのように嘴を大きく開いて声を上げた。
修也がすっかりと困惑した顔を浮かべていると、修也たちを見つめていた見物人たちをかき分けて二人の少女が姿を見せた。
その正体は紅晶公主と鳥小屋の番人である例の少女だった。二人とも身分が分からないように庶民用の服を身に纏っていることもあって、人々は少女たちの状態に気が付いていないようだ。
修也がそんなことを考えていると、紅晶が修也の掌の上に停まっている劉尊に向かって手を伸ばした。
「ほら、劉尊おいで、私は敵ではないのよ。あなたの味方なの。お願い、信じて」
だが、劉尊はそっぽを向いた。それから劉尊はなにも言わずにジッと修也を睨み付けるかのように見つめていたのだった。
そんな状況であったとしても紅晶はなおも劉尊を手なづけようとしていたが、劉尊はそのことを煩わしく感じたのだろう。
必死に手を伸ばしている紅晶を放って青空の上へと吸い込まれっていった。
「あぁ、なんてことなの」
紅晶は両膝を崩して打ちひしがれたような表情を浮かべていた。
「こ……紅晶」
彼女が公主を呼び捨てにしているのはあくまでもお忍び状態であったからだろう。
修也はそんな哀れな姿をした紅晶になんと声をかけたらよいのか分からずにオロオロとしていた時だ。
紅晶が強引に修也の手を掴んで路地裏へと引っ張っていったのだ。
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