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開発惑星『ベル』
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「大津さん、今助けますからね」
ジョウジは修也の上に覆い被さっていったベルドクガニたちへとビームポインターからビームを浴びせていった。
幸いであったのは他のベルドクガニたちが襲い掛かってこなかったことだろう。
そのお陰でなんとか修也を助けることができた。
ビームポインターの性能や仲間が次々と殺されていく様子にベルドクガニたちは怯んでしまったに違いない。襲い掛かり、パワードスーツの装甲を破って、その肉を捕食しようとしていた修也の元から蜘蛛の子を散らすように逃げ延びていった。
ベルドクガニたちから飛び掛かられて、地面の上に倒れ込んでいる修也の両肩をジョウジは引っ張り上げていった。
弱った人間を引っ張り上げるのは大きな洗濯物を持ち上げるかのような重作業であり、ジョウジは面倒に感じていたが、それを理由に修也を見捨てるわけにもいかなかった。
ベルドクガニたちの猛攻を受けても装着者の中身を守ることができたのは間違いなく『メトロイドスーツ』の性能のお陰だった。
『メトロイドスーツ』によって修也の命が助かったということはメトロポリス社の本社に報告しておくべきだろう。
ジョウジは自分の肩を修也に貸し、自らの足で例のキックボードを蹴って宇宙船へと向かっていった。宙を蹴って光景は側から見れば滑稽に映ったに違いなかった。
だが、仮にそうなったとしても自分は高性能なアンドロイド。人間が持っている『感情』など持ち合わせていないので無関係な問題であった。
宇宙船の前でカエデに事情を告げ、弱っていた修也を席の上に座らせた。
「全く人間は体が弱いというのが難点ですね」
「えぇ、確かに人間は弱いですね。ですが、メトロポリス社における私たちの仕事はそんな人間を助けることですし、嫌ですがやるしかありません」
カエデはそういうと貨物室に置いてあった医療キットを取りにいった。その間にジョウジは修也の体から『メトロイドスーツ』を脱がせた。その下には宇宙服を着ていた。体も眺めたが、日本国における平均的な中年男性の体型そのもので特筆するべきところはなかった。
強いていうのならばその腹部が三段腹という弛んだ腹ではなく、筋肉が付いていない普通の程度の腹ということくらいだ。
心の中で分析を進めながら修也の『メトロイドスーツ』をカプセルトイの中に戻し、椅子の上でゆっくりと寝かせた。
修也は悪夢を見ているのか、唸り声が聞こえてきた。
荒い息が漏れている。夢の中でもベルドクガニに襲われているのかもしれない。
「全く、人間は……」
ジョウジは単に寝ているだけであるのならばともかく、寝ていながらも夢の中で苦しむという非効率的なことをしている。
アンドロイドであるのならば意識を停止させている最中は絶対に夢を見ない。真っ黒な空間が広がるだけなのだ。
それ故に人間から『アンドロイドは夢を見るのか』と問われれば答えは決まっている。
「見ませんよ、そんなもの」
と、済ました顔で愚かな質問を犯した人間に向かって言うだけだ。
もしかすれば人間とアンドロイドと決定的に異なるのは夢を見るか、見ないかということであるのかもしれない。
ジョウジが細かい生態系に関する学説を考えていた時のことだ。
「ジョウジさん、持ってきました」
と、カエデが救急パックを持って戻ってきたのだった。
「ありがとうございます」
ジョウジは両手で救急パックを受け取り、修也の手当てを行なっていった。
昨今の救急パックは百年前とは異なり、技術の進歩等もあっても専門の病院の設備と変わらない充実したものが揃っていた。
カエデとジョウジは電子頭脳に組み込まれたコンピュータから適切な治療法を見出していった。治療を終えた後は危機を脱したのか、修也の寝息が落ち着いたものへと変わっていった。
「これで大津さんの命に別状はありません。明日から……というのは難しいでしょうが、近いうちにまた働けるようになるでしょう」
「護衛役がこれでは会社の将来が成り立ちませんよ」
カエデはいつもより強い口調で椅子の上に眠る修也を見下ろしながら言った。
「ですね。明日はここで待機しますか?」
「はい。看病のついでに我々の手で『メトロイドスーツ』の手入れを行いましょうか」
「分かりました。明日は『メトロイドスーツ』の手入れですね」
二人のやり取りは驚くほど淡々としていた。普通の人間であるのならばあり得ない光景だった。二人とも人間ではなくアンドロイドであるからとしかいえない。だが、それでももう少し『思い遣り』というものを持ってくれてもいいような気がする。
アンドロイドの両名による看病は決して『情』のある看病とはいえなかったが、それでもなんとか修也の体調を元に戻っていった。
一日目と二日目はまるまる寝ていたが、三日目にようやく目を覚まし、カエデが運んできた携帯食料を口にすることができた。
「すいません。ご迷惑をお掛けしました。明日からはちゃんと皆様方や社長のご期待にも応えられるように奮闘していこうと思います」
修也は深々と頭を下げながら言った。
「頼みますよ。大津さんは我々の護衛役なんですから」
「はい。明日からはその名に相応しくなるように奮闘していきたいと思います」
修也は申し訳なさそうに目を逸らしながら言った。
ジョウジはそんな修也に対して両腕を組んで見下ろしていた。
「まぁ、とりあえず、今日のところはリハビリがてらにそこら辺の散策でもしますか?」
カエデの提案に対して修也は首を縦に動かした。
「カエデさん、ぼくが大津さんに付き添いますよ」
ジョウジは階段を降り、修也と共に星の上に降りていこうとするカエデを呼び止めたが、カエデは首を横に振ってジョウジの提案を断った。
「結構です。今日は私がやりますから」
カエデは顔のどこかに翳りを含んだように言った。
ジョウジはカエデのその顔を見て何かを察したらしい。何も言わずに首を縦に動かした。
その後でジョウジは宇宙服のポケットから修也がいつも使っている『メトロイドスーツ』が収納されているカプセルを取り出し、カエデに渡した。
「万が一のことがあるかもしれません。その時には大津さんにそれを使わせてください」
「ありがとうございます」
カエデは丁寧に頭を下げて礼を述べていった。
ジョウジの頭の中に浮かんでいたのはベルドクガニの存在であった。
惑星ベルにしか存在しない巨大な蟹のような蠍。それがまた襲ってくるかもしれないという危険性を考慮してカエデに渡したのだろう。
ジョウジはカエデにそれを渡すと、背中を向いて貨物室の方へと向かっていった。
修也は両足をふらつかせながら惑星ベルの上を歩いていた。そんな修也に対してカエデは黙って肩を貸していた。
そしてそのまま修也に肩を貸したまま共に地面の上へと腰を掛けた。
湿地と湿地との間にある土の上だったので腰を下ろしても問題はないと判断したのだ。
「大津さん、少しお話があります。よろしいでしょうか?」
「は、はい。なんでしょうか?」
修也は声を震わせながら問い掛けた。
「大津さん、あなたはどうして余計なことに首を突っ込んだりするんですか?」
「余計なことと申しますと?」
「第三植民惑星ポーラや惑星オクタヴィルでの事です。正直に言いましょう。あれらの星で起きた政変が私たちになんの関係があるんですか? 首を突っ込むことに何の意味があるんですか?」
「そ、それは」
修也は言葉に詰まった。カエデの言葉通り自身が余計なトラブルに首を突っ込んだことは事実であるからだ。また、そのために日程が狂ってしまったのも事実である。
「答えられませんよね? 図星でしょうから……まぁ、いいです。社長がお許しになられたのならば私には何もいえません。ですが、今後は控えてくれるようにお願いしたいですね」
修也は言葉を発しなかった。返答の代わりに視線を近くの湿地帯の水たまりへと泳がせていた。
ジョウジは修也の上に覆い被さっていったベルドクガニたちへとビームポインターからビームを浴びせていった。
幸いであったのは他のベルドクガニたちが襲い掛かってこなかったことだろう。
そのお陰でなんとか修也を助けることができた。
ビームポインターの性能や仲間が次々と殺されていく様子にベルドクガニたちは怯んでしまったに違いない。襲い掛かり、パワードスーツの装甲を破って、その肉を捕食しようとしていた修也の元から蜘蛛の子を散らすように逃げ延びていった。
ベルドクガニたちから飛び掛かられて、地面の上に倒れ込んでいる修也の両肩をジョウジは引っ張り上げていった。
弱った人間を引っ張り上げるのは大きな洗濯物を持ち上げるかのような重作業であり、ジョウジは面倒に感じていたが、それを理由に修也を見捨てるわけにもいかなかった。
ベルドクガニたちの猛攻を受けても装着者の中身を守ることができたのは間違いなく『メトロイドスーツ』の性能のお陰だった。
『メトロイドスーツ』によって修也の命が助かったということはメトロポリス社の本社に報告しておくべきだろう。
ジョウジは自分の肩を修也に貸し、自らの足で例のキックボードを蹴って宇宙船へと向かっていった。宙を蹴って光景は側から見れば滑稽に映ったに違いなかった。
だが、仮にそうなったとしても自分は高性能なアンドロイド。人間が持っている『感情』など持ち合わせていないので無関係な問題であった。
宇宙船の前でカエデに事情を告げ、弱っていた修也を席の上に座らせた。
「全く人間は体が弱いというのが難点ですね」
「えぇ、確かに人間は弱いですね。ですが、メトロポリス社における私たちの仕事はそんな人間を助けることですし、嫌ですがやるしかありません」
カエデはそういうと貨物室に置いてあった医療キットを取りにいった。その間にジョウジは修也の体から『メトロイドスーツ』を脱がせた。その下には宇宙服を着ていた。体も眺めたが、日本国における平均的な中年男性の体型そのもので特筆するべきところはなかった。
強いていうのならばその腹部が三段腹という弛んだ腹ではなく、筋肉が付いていない普通の程度の腹ということくらいだ。
心の中で分析を進めながら修也の『メトロイドスーツ』をカプセルトイの中に戻し、椅子の上でゆっくりと寝かせた。
修也は悪夢を見ているのか、唸り声が聞こえてきた。
荒い息が漏れている。夢の中でもベルドクガニに襲われているのかもしれない。
「全く、人間は……」
ジョウジは単に寝ているだけであるのならばともかく、寝ていながらも夢の中で苦しむという非効率的なことをしている。
アンドロイドであるのならば意識を停止させている最中は絶対に夢を見ない。真っ黒な空間が広がるだけなのだ。
それ故に人間から『アンドロイドは夢を見るのか』と問われれば答えは決まっている。
「見ませんよ、そんなもの」
と、済ました顔で愚かな質問を犯した人間に向かって言うだけだ。
もしかすれば人間とアンドロイドと決定的に異なるのは夢を見るか、見ないかということであるのかもしれない。
ジョウジが細かい生態系に関する学説を考えていた時のことだ。
「ジョウジさん、持ってきました」
と、カエデが救急パックを持って戻ってきたのだった。
「ありがとうございます」
ジョウジは両手で救急パックを受け取り、修也の手当てを行なっていった。
昨今の救急パックは百年前とは異なり、技術の進歩等もあっても専門の病院の設備と変わらない充実したものが揃っていた。
カエデとジョウジは電子頭脳に組み込まれたコンピュータから適切な治療法を見出していった。治療を終えた後は危機を脱したのか、修也の寝息が落ち着いたものへと変わっていった。
「これで大津さんの命に別状はありません。明日から……というのは難しいでしょうが、近いうちにまた働けるようになるでしょう」
「護衛役がこれでは会社の将来が成り立ちませんよ」
カエデはいつもより強い口調で椅子の上に眠る修也を見下ろしながら言った。
「ですね。明日はここで待機しますか?」
「はい。看病のついでに我々の手で『メトロイドスーツ』の手入れを行いましょうか」
「分かりました。明日は『メトロイドスーツ』の手入れですね」
二人のやり取りは驚くほど淡々としていた。普通の人間であるのならばあり得ない光景だった。二人とも人間ではなくアンドロイドであるからとしかいえない。だが、それでももう少し『思い遣り』というものを持ってくれてもいいような気がする。
アンドロイドの両名による看病は決して『情』のある看病とはいえなかったが、それでもなんとか修也の体調を元に戻っていった。
一日目と二日目はまるまる寝ていたが、三日目にようやく目を覚まし、カエデが運んできた携帯食料を口にすることができた。
「すいません。ご迷惑をお掛けしました。明日からはちゃんと皆様方や社長のご期待にも応えられるように奮闘していこうと思います」
修也は深々と頭を下げながら言った。
「頼みますよ。大津さんは我々の護衛役なんですから」
「はい。明日からはその名に相応しくなるように奮闘していきたいと思います」
修也は申し訳なさそうに目を逸らしながら言った。
ジョウジはそんな修也に対して両腕を組んで見下ろしていた。
「まぁ、とりあえず、今日のところはリハビリがてらにそこら辺の散策でもしますか?」
カエデの提案に対して修也は首を縦に動かした。
「カエデさん、ぼくが大津さんに付き添いますよ」
ジョウジは階段を降り、修也と共に星の上に降りていこうとするカエデを呼び止めたが、カエデは首を横に振ってジョウジの提案を断った。
「結構です。今日は私がやりますから」
カエデは顔のどこかに翳りを含んだように言った。
ジョウジはカエデのその顔を見て何かを察したらしい。何も言わずに首を縦に動かした。
その後でジョウジは宇宙服のポケットから修也がいつも使っている『メトロイドスーツ』が収納されているカプセルを取り出し、カエデに渡した。
「万が一のことがあるかもしれません。その時には大津さんにそれを使わせてください」
「ありがとうございます」
カエデは丁寧に頭を下げて礼を述べていった。
ジョウジの頭の中に浮かんでいたのはベルドクガニの存在であった。
惑星ベルにしか存在しない巨大な蟹のような蠍。それがまた襲ってくるかもしれないという危険性を考慮してカエデに渡したのだろう。
ジョウジはカエデにそれを渡すと、背中を向いて貨物室の方へと向かっていった。
修也は両足をふらつかせながら惑星ベルの上を歩いていた。そんな修也に対してカエデは黙って肩を貸していた。
そしてそのまま修也に肩を貸したまま共に地面の上へと腰を掛けた。
湿地と湿地との間にある土の上だったので腰を下ろしても問題はないと判断したのだ。
「大津さん、少しお話があります。よろしいでしょうか?」
「は、はい。なんでしょうか?」
修也は声を震わせながら問い掛けた。
「大津さん、あなたはどうして余計なことに首を突っ込んだりするんですか?」
「余計なことと申しますと?」
「第三植民惑星ポーラや惑星オクタヴィルでの事です。正直に言いましょう。あれらの星で起きた政変が私たちになんの関係があるんですか? 首を突っ込むことに何の意味があるんですか?」
「そ、それは」
修也は言葉に詰まった。カエデの言葉通り自身が余計なトラブルに首を突っ込んだことは事実であるからだ。また、そのために日程が狂ってしまったのも事実である。
「答えられませんよね? 図星でしょうから……まぁ、いいです。社長がお許しになられたのならば私には何もいえません。ですが、今後は控えてくれるようにお願いしたいですね」
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