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開発惑星『ベル』

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「霧が濃いですね」

 開発惑星『ベル』に足を踏み入れた修也が放った最初の一言がまさにそれだった。
 実際に惑星ベルは霧の深い惑星だった。靄がかかっていて遠くの辺りを見ることができないといった方がそのためラックスフェルンのようにヘリでの移動は困難であろう。

 視界が悪くいかにアンドロイドといえども赤外線や暗視線にのみに頼ることは危険だ。前方を確認できないとなると運転にも支障がきたしてしまう。そのため航路は難しくなり、必然的に航路よりも安心して移動できる陸路での移動手段が必要となる。

 ジョウジは宇宙船に戻ると、貨物室からヘリと同様にトランプのような長方形の箱が取り出した。

「ジョウジさん、これは?」

「我が社が特別に開発した惑星移動用のホーバークラフトです」

 と、言って先端に付いている赤いスイッチを押した。すると、目の前に一台の長くて巨大なキックボードが現れた。
 キックボードの先端には巨大な電球が付いていた。

「このキックボードは宙に浮かびます。それを足で蹴りながら進んでいくシステムになっています」

「し、しかしジョウジさん、こういう時って普通はその……バイクなどを出すものではないのですか?」

「大津さん、あなたは自動二輪車の免許を持ってますか?」

「で、では車という形でーー」

「無理です。三惑星での交易に必要な物を仕入れたり、移動用のヘリを購入したりするために予算がオーバしてしまったので」

 ジョウジは淡々とした口調で言った。ここまで断固として断られてしまえば取り付く島もなかった。
 こうなってしまえばキックボードに乗って惑星を移動するしかない。

 修也は覚悟を決めるとカプセルトイを取り出し、『メトロイドスーツ』を蒸着するとキックボードに乗った。
 ジョウジはその背中を掴むと、宇宙船の前に残ったカエデに向かって言った。

「では最初の調査に行って参ります。カエデさんは留守をお願い致します」

「分かりました。どうかお気を付けて」

 カエデは丁寧に頭を下げながら答えた。

 それから修也は大きく空気を蹴って惑星ベルの中を走っていった。
 惑星ベルは無人調査船による調査の通り湿地帯ばかりの惑星だった。

 だが、適当な場所で止めて土を調べてみたところ土はしっかりとしたものであった。

「大丈夫です。地球の土と性質はなんら変わりありません。問題なく家を建てられると思われます」

「飲み水についてはどうでしょうか?」

「ベルにこれだけ多くの湿地帯が見つかっているということから可能性は十分にありますよ。ただそれを探すのには一苦労しそうですね」

 ジョウジはベル全体に広がる湿地帯を見据えながら言った。湿地というからには当然ながら水がある。確かに湿地の中にある水たまりの水が飲み水に適しているかと言われれば疑問が残る。
 濾過をすればいいだけの話であるが、どうも引っ掛かるのだ。

 検証するために必要な湿地ならば辺りを探せばいくらでも見つけられた。
 そのため適当な場所で腰を下ろし、ジョウジに水を汲んでもらう。
 コンピュータを使って水を検証すると、大量のバクテリアが発見されたということだ。

 ただしジョウジによれば地球の濾過装置を作動すれば飲料水や生活用水に使えないこともないということらしい。

「ただ、この星を植民惑星として移民を受け入れる場合、知恵のない子どもが誤って飲まないようにする必要がありますね」

「なるほど、確かに子どもは誤って飲んでしまうかもしれませんからね」

 修也が頷いていると、湿地の水たまりから何かが歩いてくる音が聞こえてきた。

 その際にリーンリーンとベルを鳴らすような音が聞こえてきた。
 フレッドセンの話にあったベルドクガニと呼ばれる巨大な蠍で間違いない。名前や外見から蟹だと誤解しそうになるが、蠍であるということは十分に留意しなくてはなるまい。

 修也はベルドクガニの接近に備え、レーザーガンを抜いた。すると、またベルを鳴らす音が鳴り響いていった。

 突然空の上から現れた自分たちを警戒して、仲間たちを引き連れて自分たちを殺しにきたのかもしれない。

 何にせよ厄介な相手がきたものだ。修也は苦笑しながら迫りくるベルドクガニたちに向かってレーザーガンを構えていった。

 ジョウジも修也に合わせるかのように胸ポケットからビームポインターを取り出していった。

 互いに背中をくっ付けて迫り来る未知の宇宙生物へと対応していった。
 しばらくの間は緊張からか修也は無言だった。ジョウジも敢えて話す必要はないと考えたのか修也と同様に無言だった。

 やがて深い霧の向こうからベルドクガニの群れが姿を見せた。
 ココナッツのような頭に蟹のような巨大な鋏と六本の足が付いているのが特徴的だった。

 しかもただの足ではない。地球の水族館で見られるようなタカアシガニのような大きな六本の足だったのだ。

 修也は姿が確認できるのと同時にレーザーガンの引き金を引いてタカアシガニの一体を熱線で消し炭にしていった。
 ベルドクガニたちは仲間の一帯が倒されたのを開戦を告げるゴングだと受け取ったのだろう。

 ベルドクガニたちは一斉に飛び掛かり、修也たちに向かって襲い掛かっていった。

「大津さん、改めて言うまでもありませんが、あなたは前をお願いします。私は後ろを担当しますので」

「は、はいッ!」

 修也はレーザーガンを使って次々と目の前から迫ってきていたベルドクガニたちを撃ち抜いていった。

 最初はシューティングゲームの要領で小さくて丸い蠍の頭を撃ち抜いていけばよかったのだが、ゲームと異なるのはコンピュータによって動かされて電脳空間で襲い掛かってくる敵に対し、ベルドクガニたちが明確な意思を持って襲い掛かってくるということくらいだろうか。

 と、修也は余計なことを考えていたせいか、ベルドクガニの一体を熱線の洗礼から逃してしまった。
 慌ててもう一度引き金を引き、熱戦を放射したものの、ベルドクガニはそれを飛び上がることで交わしていき、修也の元に勢いよく飛び掛かっていったのである。

 修也はレーザーガンを一度左手に持ち替えると、迫ってきたベルドクガニを自らの拳を突き出すことで粉砕したのであった。
 強烈な右ストレートを喰らった個体は辺り一面にベルドクガニの甲羅と肉とがバラバラと飛び散っていった。

 なんとかその場の危機を脱したものの、辺りを見渡すと、今の空いた時間を利用した他のベルドクガニたちが修也たちの周りを取り囲んでいく姿が見えた。
 これではいちいちレーザーガンから熱線を放っていては他のベルドクガニたちが飛び付いてくるに違いなかった。

 やむを得ずに修也はレーザーガンをしまい、代わりにビームソードを抜いた。
 修也の計算としてはビームソードの熱線を帯びた剣身で自分に向かってベルドクガニたちを野球でボールを打つかのように迎え撃って消滅させるつもりでいたのだ。

 修也の目論見は当たった。先ほどのベルドクガニの方法に便乗して修也に飛び付こうとしていたベルドクガニたちを次々と地獄の釜の上へと落としていくことに成功したのだった。

 ベルドクガニたちは大きな声を上げながら修也を殺しに向かっていったものの、同じ攻撃を続けるばかりではその数を減らしていくばかりだ。
 ベルドクガニたちも流石に学習したのか、徐々に修也の前から距離を取って離れていった。

 代わりにビームポインターを使った限定的な攻撃しかできないジョウジに狙いを定めたようだった。
 ジョウジの周りを取り囲んでいたベルドクガニたちはジョウジに向かって全員で一斉に襲い掛かっていったのである。

「ジョウジさんッ!」

 修也はベルドクガニたちから一斉に飛び掛かって襲われようとしていたジョウジを突き飛ばしたことで彼の身代わりとなった。

「大津さん!!」

 修也の上にそれまでジョウジの周りを取り囲んでいたベルドクガニたちが一斉に修也の上へと倒れ込み、彼を地面の上に押し倒したのだった。

 修也の上には大量のベルドクガニたちが覆い被さっているのが見えた。
 体の上でわざわさと動いている姿がまた不気味に思えた。
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