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第一章『伝説の始まり』
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なぜ修也が不快感を持つようになったのかはわからない。目の前にいるのは単なるアンドロイド。いや自我さえない単なる練習用のロボットに過ぎないのだ。
躊躇う必要などなかった。
だが、水色のワンピースを着た女性の言葉がどこか自身の気持ちを損ねたのは事実だ。自分の存在がアンドロイドと同様だということを信じたくなかったのかもしれない。
そのため修也は目の前に現れたアンドロイドに対して容赦することなく戦いを始めていった。
対人を意識した練習台といえどもパワースーツを着た相手の中身は人間の中身をしたアンドロイド。当然苦痛のようなものを感じている可能性も高い。
22世紀の科学力において人間とアンドロイドの区別はついていないと言われている。
ある学者などはアンドロイドの感受性は人間とほとんど同じだと言ってもいいと主張していた。そんなアンドロイドを対人格闘用の練習台として扱うなど非人道的であるとさえ言ってもいいだろう。
だが、修也の中にある怒りは世間で言われる一般的な理論とは対照的にヒートアップし、目の前にいるアンドロイドへの怒りを募らせていた。
彼の中にある倫理観や道徳といったものは内から火山のように湧き上がる激しい怒りを閉じ込める鎖にはならなかったらしい。パワードスーツの兜の下にあった修也は声を張り上げて武装したアンドロイドを勢いよく殴り付けていく。
修也による強烈な右ストレートが三度ほど相手の兜へと叩き付けられた。その兜が割れ、中にいたアンドロイドの顔が見えた。練習用に使われたアンドロイドの顔は女性の顔をしていた。
若くて綺麗な顔をした女性だ。それを見た修也は思わず拳を止めた。それだけではない。両手を下ろし、そのまま膝の上から地面へと崩れ落ちていく。
「どうしたんですかぁ? さっきまであんなにはしゃいで殴っていたっていうのに」
「……駄目だ。彼女をこれ以上殴ることはできない」
修也の口から漏れたのは自分でも考えられないような弱音であった。修也の中にある理性は知っていた。この弱音を吐けばせっかくのメトロポリス社の内定が離れてしまうということも。
だが、それでも兜の下から顔を覗かせた若い女性の瞳が修也の拳を躊躇わせたのであった。
「ふーん、そっかー、修也さんは諦めちゃうんですねー」
口調こそ軽かったものの、先ほどのワンピースを着た女性の言葉には明らかな失望の色が混じっていた。
「キミを失望させてしまったことに関しては謝罪をさせてもらおう。だが、私はどうしても彼女を攻撃できないんだ……」
修也の手は震えていた。それを見たワンピースの女性は呆れたような溜息を吐いた。それから修也の元へと近付くと、修也の隣で立ち尽くしていた女性に対してレーザーガンを向けたのであった。
修也の静止も虚しく、レーザーガンの引き金が引かれ、女性の姿を模したアンドロイドは粉々に砕け散っていく。
修也の周辺にまでアンドロイドを製造するために用いていた釘やら何やらの部品が足元にまで飛び散っていた。
呆気に取られる修也に対してワンピース姿の女性は笑顔を向けながら言った。
「そんなに躊躇しなくてもいいんですよ。だって、こいつらは鉄屑なんですもの」
「て、鉄屑だって?」
「そうでーす。人間にとって必要な胃袋もなければ血液もない、心臓もない。あるのは固い人工皮膚とコンピュータだけです。そんなのは人間だなんて言えませんよね?」
修也は言葉を返せなかった。酷い発言に対して反論の言葉が口から出なかったかからではない。彼女の言葉は悪意からきたものではない、と理解したからだ。その証拠がレーザーガンを持ったまま彼女が浮かべる満面の笑みだ。
彼女の持つ笑みに圧倒されている修也に対してワンピース姿の女性はレーザーガンを懐の中へとしまい、『メトロイドスーツ』を着たままの修也の手を引っ張り、今度は全体を暗幕によって包まれた漆黒の空間へと連れて行く。
「こ、ここは?」
「無重力室でーす。今はまだ重力がある状態ですけどぉ、私が部屋の横にあるスイッチを押せばこの部屋は無重力になるんです」
「む、無重力だって!?」
修也はその言葉を聞いて義務教育で習った宇宙旅行の鉄則を思い出して行く。宇宙旅行において大切なのは無重力に慣れるというものであった。そのため宇宙旅行に出る前は必ず各旅行代理店に置いてある無重力室を利用し、無重力に慣れる必要があるという話を聞いた。
部屋の中に仕込まれた反重力装置によって人工的に重力が打ち消されることによってその場限りではあるものの、無重力状態が作り出されるというものだった。
宇宙旅行など当分縁がないと思っていた修也であったが、まさか自分がこの訓練を積極的に受ける羽目になるとは思わなかった。
パワードスーツを着た修也が考え込んでいると、ワンピース姿の女性が先ほどと同じような笑みを浮かべながら言った。
「じゃあ今からスイッチをオンにしまーす!! まずは無重力状態に慣れてください」
そういうとワンピース姿の女性は部屋から姿を消し、部屋の壁に付けられているスイッチを人差し指で押した。
同時に部屋全体が巨大な地震が起きているかのように揺れ動いていく。突然のことに困惑を隠せなかったが、やがて終夜の体は何かに突き動かされるように上昇していく。
本物の宇宙空間であるのならば命綱が付いていない状況であるのならば、無重力に体が引っ張られていき、どこまでも飛んでいくことになるに違いない。
だが、無重力室には天井がある。修也の体は天井にぶつかってしまった。
パワードスーツ越しであったとしてもかなりの痛みが生じていくことは間違えなかった。修也は咄嗟に兜の上から顔を覆おうとしたが、兜に邪魔をされてしまい触ることはできなかった。
その後も無重力空間に慣れるため必死になって体を動かす羽目になった。宙の上で両手を広げて平泳ぎを行おうとしたり、それが間に合わずに天井とぶつかりそうになった際には天井を勢いよく蹴り飛ばし、その勢いのままバランスを整えて無重力の上を歩こうとしたものの、容易なことではない。
それでも修也が試行錯誤の末に立つことができたのはメトロポリス社の特製パワードスーツ『メトロイドスーツ』の性能に助けられたからだろう。
必死な思いで無常力状態の中で地面の上に降り、両足で立った時のことだ。どこからか大きなベルが鳴り響いていく。
同時に無重力が消え、修也はようやく地面の上に立つことができるようになった。
修也が辺りを見回していると、扉が開いて例のワンピースを着た女性の姿が見えた。どうやらメトロポリス社の重力装置は遠隔操作にも対応しているらしい。
兜の下にある修也の顔が疲労の色を浮かべていると、ワンピース姿の女性が手を振りながら言った。
「はーい、もう定時でーす。早く上がってくださいね。我が社は残業をさせない方針ですので」
「は、はい」
それを聞いた修也は胸元のスイッチを押し、『メトロイドスーツ』を縮小させ、それを水色のワンピースを着た女性に手渡したのであった。
こうして修也にとっての長い一日はようやく終わりを告げたのであった。
躊躇う必要などなかった。
だが、水色のワンピースを着た女性の言葉がどこか自身の気持ちを損ねたのは事実だ。自分の存在がアンドロイドと同様だということを信じたくなかったのかもしれない。
そのため修也は目の前に現れたアンドロイドに対して容赦することなく戦いを始めていった。
対人を意識した練習台といえどもパワースーツを着た相手の中身は人間の中身をしたアンドロイド。当然苦痛のようなものを感じている可能性も高い。
22世紀の科学力において人間とアンドロイドの区別はついていないと言われている。
ある学者などはアンドロイドの感受性は人間とほとんど同じだと言ってもいいと主張していた。そんなアンドロイドを対人格闘用の練習台として扱うなど非人道的であるとさえ言ってもいいだろう。
だが、修也の中にある怒りは世間で言われる一般的な理論とは対照的にヒートアップし、目の前にいるアンドロイドへの怒りを募らせていた。
彼の中にある倫理観や道徳といったものは内から火山のように湧き上がる激しい怒りを閉じ込める鎖にはならなかったらしい。パワードスーツの兜の下にあった修也は声を張り上げて武装したアンドロイドを勢いよく殴り付けていく。
修也による強烈な右ストレートが三度ほど相手の兜へと叩き付けられた。その兜が割れ、中にいたアンドロイドの顔が見えた。練習用に使われたアンドロイドの顔は女性の顔をしていた。
若くて綺麗な顔をした女性だ。それを見た修也は思わず拳を止めた。それだけではない。両手を下ろし、そのまま膝の上から地面へと崩れ落ちていく。
「どうしたんですかぁ? さっきまであんなにはしゃいで殴っていたっていうのに」
「……駄目だ。彼女をこれ以上殴ることはできない」
修也の口から漏れたのは自分でも考えられないような弱音であった。修也の中にある理性は知っていた。この弱音を吐けばせっかくのメトロポリス社の内定が離れてしまうということも。
だが、それでも兜の下から顔を覗かせた若い女性の瞳が修也の拳を躊躇わせたのであった。
「ふーん、そっかー、修也さんは諦めちゃうんですねー」
口調こそ軽かったものの、先ほどのワンピースを着た女性の言葉には明らかな失望の色が混じっていた。
「キミを失望させてしまったことに関しては謝罪をさせてもらおう。だが、私はどうしても彼女を攻撃できないんだ……」
修也の手は震えていた。それを見たワンピースの女性は呆れたような溜息を吐いた。それから修也の元へと近付くと、修也の隣で立ち尽くしていた女性に対してレーザーガンを向けたのであった。
修也の静止も虚しく、レーザーガンの引き金が引かれ、女性の姿を模したアンドロイドは粉々に砕け散っていく。
修也の周辺にまでアンドロイドを製造するために用いていた釘やら何やらの部品が足元にまで飛び散っていた。
呆気に取られる修也に対してワンピース姿の女性は笑顔を向けながら言った。
「そんなに躊躇しなくてもいいんですよ。だって、こいつらは鉄屑なんですもの」
「て、鉄屑だって?」
「そうでーす。人間にとって必要な胃袋もなければ血液もない、心臓もない。あるのは固い人工皮膚とコンピュータだけです。そんなのは人間だなんて言えませんよね?」
修也は言葉を返せなかった。酷い発言に対して反論の言葉が口から出なかったかからではない。彼女の言葉は悪意からきたものではない、と理解したからだ。その証拠がレーザーガンを持ったまま彼女が浮かべる満面の笑みだ。
彼女の持つ笑みに圧倒されている修也に対してワンピース姿の女性はレーザーガンを懐の中へとしまい、『メトロイドスーツ』を着たままの修也の手を引っ張り、今度は全体を暗幕によって包まれた漆黒の空間へと連れて行く。
「こ、ここは?」
「無重力室でーす。今はまだ重力がある状態ですけどぉ、私が部屋の横にあるスイッチを押せばこの部屋は無重力になるんです」
「む、無重力だって!?」
修也はその言葉を聞いて義務教育で習った宇宙旅行の鉄則を思い出して行く。宇宙旅行において大切なのは無重力に慣れるというものであった。そのため宇宙旅行に出る前は必ず各旅行代理店に置いてある無重力室を利用し、無重力に慣れる必要があるという話を聞いた。
部屋の中に仕込まれた反重力装置によって人工的に重力が打ち消されることによってその場限りではあるものの、無重力状態が作り出されるというものだった。
宇宙旅行など当分縁がないと思っていた修也であったが、まさか自分がこの訓練を積極的に受ける羽目になるとは思わなかった。
パワードスーツを着た修也が考え込んでいると、ワンピース姿の女性が先ほどと同じような笑みを浮かべながら言った。
「じゃあ今からスイッチをオンにしまーす!! まずは無重力状態に慣れてください」
そういうとワンピース姿の女性は部屋から姿を消し、部屋の壁に付けられているスイッチを人差し指で押した。
同時に部屋全体が巨大な地震が起きているかのように揺れ動いていく。突然のことに困惑を隠せなかったが、やがて終夜の体は何かに突き動かされるように上昇していく。
本物の宇宙空間であるのならば命綱が付いていない状況であるのならば、無重力に体が引っ張られていき、どこまでも飛んでいくことになるに違いない。
だが、無重力室には天井がある。修也の体は天井にぶつかってしまった。
パワードスーツ越しであったとしてもかなりの痛みが生じていくことは間違えなかった。修也は咄嗟に兜の上から顔を覆おうとしたが、兜に邪魔をされてしまい触ることはできなかった。
その後も無重力空間に慣れるため必死になって体を動かす羽目になった。宙の上で両手を広げて平泳ぎを行おうとしたり、それが間に合わずに天井とぶつかりそうになった際には天井を勢いよく蹴り飛ばし、その勢いのままバランスを整えて無重力の上を歩こうとしたものの、容易なことではない。
それでも修也が試行錯誤の末に立つことができたのはメトロポリス社の特製パワードスーツ『メトロイドスーツ』の性能に助けられたからだろう。
必死な思いで無常力状態の中で地面の上に降り、両足で立った時のことだ。どこからか大きなベルが鳴り響いていく。
同時に無重力が消え、修也はようやく地面の上に立つことができるようになった。
修也が辺りを見回していると、扉が開いて例のワンピースを着た女性の姿が見えた。どうやらメトロポリス社の重力装置は遠隔操作にも対応しているらしい。
兜の下にある修也の顔が疲労の色を浮かべていると、ワンピース姿の女性が手を振りながら言った。
「はーい、もう定時でーす。早く上がってくださいね。我が社は残業をさせない方針ですので」
「は、はい」
それを聞いた修也は胸元のスイッチを押し、『メトロイドスーツ』を縮小させ、それを水色のワンピースを着た女性に手渡したのであった。
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