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モスト・オブ・デンジャラス・ゲーム編

プログラム起動

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石川葵は都庁近くの公園から、中村孝太郎に電話をかけていた。
公園の雑踏が向こうにも聞こえているだろうが、白籠市からはいささか距離が離れすぎている。
自分を逮捕するのはいささか困難というものだろう。
そう考えながら、ゲームの内容を聞いて唖然としている孝太郎の姿を想像しつつ、葵はゲームを喋り続ける。
「そうね、ルールとしては簡単よ。宇宙究明学会が再発足するのを防ぐこと……単純明快でしょう?あたしは昌原を殺したから、無理でしょうけど……他のメンバーならどうかしら?今ワイドショーを騒がせている天野と赤川がタッグを組んだら、厄介そうね。新井さんをあなた倒せるの?川岸さんを敵に回すと恐ろしいわよ」
葵は自分以外の幹部の名前を次々に並び立てて、孝太郎の恐怖を煽っていく。
自分に与えられた役割は三原青子東京都知事のために孝太郎たちの目を知事の問題から、この問題に目を逸らさせる事。
それこそが、葵が娑婆に戻ったたった一つの理由である。
「現在、娑婆にいる宇宙究明学会の幹部連中の名前を教えろ」
「残念だけれど、あたしにも分からないの。東京都知事はあたしの目の届かない所から拘置されている人たちを出しているみたいだし……」
孝太郎の落胆する姿が目に浮かぶようだ。葵は思わずに唇を一文字に歪めてしまう。
とにかく、今は笑みが止まらなかったのだ。
「そうだわ! 最後にもう一つ教えておきましょう! 女の嫉妬と執念は怖いものよ! 頑張ってね刑事さん! 」
その言葉を最後に葵からの電話は切られてしまう。
孝太郎は腹立ち紛れに拳を空振りさせる。
孝太郎の右手の拳が空気を少しだけ歪ませた。
「で、石川葵のヤローはなんて言ったんだ?」
「ゲームだとよ。今からゲームをするから、それを当ててみろときやがった」
「ゲーム?」
絵里子が眉を寄せるのも無理はない。石川葵がそんな愉快犯のような事をするだろうと考えたからだ。
石川葵は都内有数の理科系大学を優秀な成績で卒業して、その大学の学院でも博士課程も取得したが、そこではあまり人付き合いが良くなかったと言う話を聞く。
彼女は頭も良くて、美人だが、ずっと講義以外の事は昌原と宇宙究明学会に関する事ばかりだったので、葵と同じ研究所の人々は辟易してしまったと言う。
そんな葵が自分たちへの復讐のためだけにこんな馬鹿げた事をする筈はない。何か黒幕がいる筈だと姉は考えたくなってしまったのだろう。
気持ちは分かる。だが、どんな勢力が葵の背後にいるのかは分からないのだ。
今は気持ちを落ち着けるべきではないのだろうか。
孝太郎が絵里子にそう提案しようとした時だ。
再び孝太郎の携帯端末のバイブ音が鳴り響く。
「孝太郎だな?」
「どうしたんだ?慎太郎?」
今度の電話の相手は孝太郎のかつての捜査における相棒竹宮慎太郎であった。
彼はJIOJapanse・Informatin・Oraganizationに所属するエージェントの1人であり、かつては孝太郎が制服警官時代にタッグを組んだ事があり、それ以来孝太郎と友人付き合いをしている男だった。
慎太郎は相変わらずの屈託の無い声で、
「決まってるだろ?街で伝えられている噂だよ。おれも少し前に宇宙究明学会の東信徒庁潰しに奔走していたからな。東信徒庁の一斉摘発が行われてからも、おれは独自に宇宙究明学会がどう出るかを調査していたんだ」
「それで?」
「驚くべき事が分かったんだよ。北海道道場のあたりに他の弟子たちの救出目的に訪れるらしいな」
「誰が?」
「知らなかったのか?ロシアにおける宇宙究明学会の大物ボリス・レオニード……奴が東京都知事三原青子の手引きによって、来るらしい。何でも奴は白籠市の昌原道明邸を訪れてから、仲間が捕らえられている拘置所に向かうらしい」
孝太郎はその言葉に思わず絶句してしまう。まさか、ロシアまでもこれから起こるであろうに関わっていたとは。いや、それだけでは無い。
慎太郎は何と言ったのだろう。都知事?三原青子がこの件に関わっているのだろうか。
孝太郎は再度慎太郎に聞き返す。
慎太郎は真剣な声で孝太郎の言葉を首肯する。
「クソッタレ、あの都知事がまた関わっていたのか?」
「そうだ。あの都知事も色々な事をやっていたからな、田山浩三郎は歴代の東京都知事に媚を売って、自分の犯罪を目溢ししてもらっていたが、その中でも一番田山と密接に関わっていた知事が三原だ。それだけじゃあない、九頭龍ナインヘッドドラゴンの小野良美に賭け金のことを教えたのは、アイツだ。お陰で今年の大会は色々と起こっちまった」
孝太郎はここ最近に起きた大きな事件の黒幕を知る。
彼女は東京都知事という立場を活かして、自分たちの目を別の事件に向けさせていたのだろう。
孝太郎は無意識のうちに拳を震わせてしまう。
「とにかく、ありがとうよ。恩にきるよ」
「まあな、スパイで培った技術を活かせば、こんなものだろうさ」
慎太郎はそう言って電話を切る。孝太郎は携帯アプリが、もう慎太郎に繋がっていない事を確認すると、室内にいた全員に向き直り、
「いいか、おれ達の今からの目的はたった一つ……宇宙究明学会の再結成を阻止して、三原青子を監獄に送る事! それだけだ……」
その言葉に全員が首を縦に動かす。
「よし、慎太郎の電話によると、宇宙究明学会の大物が拘置所の前に寄るのは、白籠市にある昌原道明邸だ……。恐らく、まだ拘置所の方で事件は起きていない筈だから、奴はまだ拘置所には行っていないだろうからな、昌原道明邸にいるだろうさ」
孝太郎は自分の推理が当たっている事を祈りつつ、白籠市の郊外に位置する昌原道明邸跡へと向かう。




「素晴らしい……これが、昌原道明会長の屋敷……」
既に昌原道明の家は取り壊し作業に入っているが、ボリスはそんな事はお構いなしに昌原が住んでいた土地に魅入られていた。
ボリスが更に近付こうと足を踏み出そうとした時だ。背後から低い声が聞こえた。
「な、何者だね?」
「ボリス・レオニードさんでしょうか?警察の方でお話があるのですが……」
ボリスは何故自分の情報が日本にバレているのかと冷や汗をかいてしまう。
あの施設で演説を行ってから、既に1日という時間が経過しているが、誰が自分たちの情報をリークしたのだろう。
ボリスは一瞬だけ悩んだ表情を見せたが、すぐにその顔は怒りに変わっていく。
孝太郎はボリスが何故怒っているのかが理解できなかったが、それは当たり前とも言えるだろう。
この怒りの原因はボリスにしか分からなかったのだから。
ボリスの怒りを向けた相手はモスクワ支部の支部長である。
元から、支部長は昌原に反抗的な天野の影響を受けたためだろうか、昌原の強硬姿勢に反抗的であった。
ボリスはそんな支部長と何度も意見を衝突させ、喧嘩別れしてから、自分の言う事に賛同する信者を集めて日本に向かったと言うのに。
ボリスは怒りのあまりに頭がどうかなってしまいそうだった。
孝太郎の方に不機嫌な顔で向き合いながら、
「どうしたんですかな?私はこの建物を見つめていただけですが……」
「この建物は取り壊し中ですよ。あのショベルカーやらクレーン車やらが見えないのですか?」
孝太郎の指摘にボリスは言葉を詰まらせてしまう。
宇宙究明学会の信者だと今、警察にバラすのもどうだろうと考えた、ボリスは苦笑いを浮かべながら、
「そうだ! 日本へは初めて来たから、道を間違えていたんだッ!それで、休憩がてらにこの光景を見つめていたんだよ」
だが、ボリスの必至の言い訳にも関わらずに孝太郎は懐疑的な目で見つめ続けるばかりだった。
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