魔法刑事たちの事件簿

アンジェロ岩井

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ビッグ・ホース・レーシング編

最終レースの日

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「お偉いさん方からは連絡がないな」
「我々だけでやるしかないな……斯くなる上はあの孝太郎とかいう小僧の……」
2人の男が、ホテルの部屋でホテルの外に映る景色を背景に、備え付けの椅子に座りながら、明日の予定を話し合っていた時だ。
「動くなッ!警察だッ!お前たちを逮捕する! 」
先程まで話していた、肝心の妨害相手が拳銃を持って殴り込んできた。
銃口を向けられた2人の男は手を上げて撃たれるよりも降伏する事を選んだ。
孝太郎は彼らの意思を尊重してやり、銃を向けつつも、発砲はしない事にしてやる。
それから、携帯端末で応援を呼び、2人を逮捕させる。





「一体、どういう事なんです!?私たちの仲間を売り飛ばすなんて! 」
エミリオは2人の男性が逮捕される光景を目撃してから、2人の情報を売ったのはトニーだと確信して、必死に抗議したが、その抗議相手はまるで、エミリオの言葉など耳に届かんばかりに平気でワインを啜っていた。
「聞いているんですか!?九頭龍の協力があれば、明日の試合には楽に勝てたでしょうに……それなのにあなたという人は……」
エミリオは拳を握りしめながら、プルプルと震わせている。
余程、悔しかったのだろう。
だが、ワインを飲んでいたトニー・クレメンテはエミリオのそんな気持ちに配慮する事なく、ワインを飲み続ける。
ようやく、ワインを飲み干した後に、小さな溜息を吐き、それから1つの質問をエミリオに投げかける。
「1つだけ聞きたいんだがね、キミは他の暴力団の手助けが無ければ、何もできないのかい?」
「どういう事です?」
エミリオはまるで、黄昏ているかのように椅子でのんびりとしているトニー・クレメンテに詰め寄り、
「つまりだね……私が言いたいのは、キミは堂々と勝負できないのかと言いたいんだ、私からすれば、キミのような実力のある騎手があんな、素人に卑劣な手段を取らなければ、勝てないのかと疑問に思っているんだよ」
エミリオは否定の言葉を叫ぼうとしたが、すぐにその言葉を飲み込み、代わりに、
「いいでしょう! 明日の最終レースでは小細工なしで勝利してみせますよ! ボルジアの名前を白籠市のアンタッチャブルの連中に教えてやりますよ! 」
エミリオの意気込む顔にトニーは満面の笑みを見せた。





同時刻。会場前。
「ここが、会場ですね?」
全身黒ずくめの上にサングラスまで掛けた、屈強な体型の男が、ドーム型の会場を眺めている。
「ええ、そうよ。いい明日の試合で、あたし達の運命が変わるの、だから、あなたの任務はとても重要……分かるでしょ?」
幹部でありながらも、気弱な女性の言葉にも男ならば、必ず駆られるであろう庇護欲に駆り立てられる事もなく、屈強な体型の男は首を縦に振る。
「それで大丈夫だよ。あなたのその冷酷な態度なら、きっと明日の試合だって……」
女性はそう言いかけて、言葉を飲み込む。
もし、目の前の男性が明日の任務に遂行して、生きて帰って他のメンバーに喋っては大変だと感じて、我慢したのだ。
女性は乗っていた、黒のベンツに乗り込み、元の場所へと戻って行く。
後には、ドーム型の会場を眺める男のみが残された。





時間の流れとはいつ、どんな時でも平等に訪れるものである。
例え、望んでいなかったとしても……。
そう、いよいよ大会の最終日が幕を開いのだ。
エミリオは神妙な顔つきで、関東中央大学の席に座りながら、第一レースを眺める孝太郎の姿を見つめる。
彼こそが、自分の親友であるトミー・モルテを追い詰めた憎い相手の1人。
エミリオは何が何でも、追い詰めてやろうと思っていた、まさにその時だ。
目の前にタオルを差し出されて、
「汗が出ているようだね?それはいかん……これで拭いたらどうだ?」
「ありがとうございます。トニー」
エミリオは来るべきレースの決戦に備えて、別の選手の試合を見ながら、自分の神経を落ち着かせる事に専念する事に決めた。





「異常はないよね?」
「うん、今の所はな」
会場内で、鉢合わせをした時に聡子と明美の定例報告のような事をするのは、この3日間で確立したようなものであった(最も、今日でそれも終わりになりそうではあるが……)
2人はそれから、軽く話をした後に再び別れて、警備に戻るというのが通常の流れではあったのだが……。
「あの、すいません! そのスーツから見るに警察の方ですよね!?」
と、1人の青年がハァハァと明らか様に早く今すぐに走ってきたような、態度で現れたために、直前までの笑顔を引っ込めて、2人は対応にあたる。
2人の真剣な表情に安堵したのであろう。ゆっくりと唇を開き、
「良かった……なら、率直に言います! 実は関東中央大学の方に……孝太郎さんが座る席の方向に、1人の不審な男が向かって行くのを見たんですよ……いや、正確に言うと、ずっと、関東中央大学の席の方をうろついていたと言った方がいいのかな……とにかく、不審な男がずっと、観客の席に……」
青年がそう言いかけた時であった、関東中央大学の席の方から大きな悲鳴が聞こえる。
「明美! 」
「ええ、行きましょう! 」
2人は青年にお礼を言ってから、関東中央大学の席へと向かって行く。





男の使命としては、この会場の人々を抹殺して、大会自体を中止に追い込む事であったのだが、そうもいかないらしい。
目の前に銃を突きつけた男がいては……。
「それ以上、動くなよ……観客に何かしてみろ、おれが容赦しないからな」
孝太郎の冷ややかな視線に怯える事なく、男はそのまま突っ立っていた。
「とにかく、ここでは全員に迷惑がかかるからな……会場の近くの誰もいない場所に移ろう……そこで、尋問するとするか……」
孝太郎の言葉に従って、男は足を会場の出口へと動かす。
「お、おい……無事に戻ってきてくれよ」
心配する言葉を投げかける、関東中央大学競馬部のキャプテンに孝太郎は満面の笑みを投げかける。
そのまま、2人は振り返る事なく、会場の外へと向かって行く。
会場の外に出て、会場の裏という場所で、孝太郎は男の目の前に銃を突きつけながら、尋問を開始する事にしたが……。
「な、何!?」
孝太郎の持っていたリボルバーの銃口の部分にサイと呼ばれる中国古来からの武器が突き刺さったのだ。
孝太郎が拳銃を捨てた、一瞬、男は孝太郎の懐にまで踏み込む。
孝太郎は男の手刀が自分の胸を突き刺すよりも前に、男の急所を蹴りつけ、その場を逃れる。
「何者だ?」
孝太郎はそう投げ掛けたが、男は答えようとはしない。
孝太郎は男を睨みつけながら、今度は右手を男に向ける。
「これで勝負するぜ」
「私は構わない……」
男がここでようやく口を開く。
「私はここにいる会場の奴らを皆殺しにする目的で、やって来た。お前なんぞすぐに片付けて、向かわなければならんのだ……」
「どこの組織の兵隊だ?」
孝太郎の問いに答えるよりも前に、男は手刀を構えて孝太郎の元へと向かって行く。
孝太郎は男の手刀を右に交わすことで避け、次に自分の右手を男と自分との間を隔てていた空間の間に振る。
すると、男は孝太郎の元にまで吸い寄せられ、顔と顔がお互いの顔にぶつかりそうにまで迫った時に、
「これで、おれの勝ちだな」
と、孝太郎の右ストレートが男の頰に向かって放たれる。
男は右ストレートを受けて、地面に倒れてしまう。
男が頰をさすりながら、立ち上がろうとするが、孝太郎はその前に武器保存ワーペン・セーブから、レーザーガンを取り出し、その銃口を向ける。
「お前だって、これの威力くらい分かるよな?撃たれるのが嫌ならば、大人しく話してもらおうか?」
「……嫌だと言ったら?」
「お前の心臓を撃ち抜く」
孝太郎の目はいつになく真剣であった。
「既にお前がどこの組織に属しているのかは、大方想像がつく……ボルジア・ファミリーか、九頭龍って所だろ?お前はどっちだ?それだけが、知りたい」
「お前に答える義務はない、ただ私の任務はこの大会を見に集まった人々を殺戮する事だけだったと、伝えておこう……」
男のその言葉に孝太郎は思わず近付いて、頰を平手打ちしたが、その時に左手を掴まれて、
「これで、形勢は逆転だな?」
男はそう呟いた後に、孝太郎の左手を掴み、ねじ伏せて、レーザーガンを奪取する。
「死にたくなければ、ここで大人しくしていろ」
「嫌だと言ったら?」
「お前はレーザーガンで心臓を貫かれてしまう」
まるで、女性のような含みがある口調ではあったが、言葉は厳しいものであった。
孝太郎は目の前の男を睨みつけるばかりだった。
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